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栄翼の瞳  作者: 水城四亜
63/79

63存 在

闇の中ひそり、そろり。

闇のなか、ひそり、そろり。


聞こえるのは自分の息吹。あるいは、誰かの。




炎。はじめにうつる、それ。

炎、その心を燃やす、ただ一つのもの。

朱のそれは、ただ、とこしえにそこに在る。



炎を見た。

「見事なものだな。」竜炎がつぶやく。それは、感嘆しているようでもあり、またあきれているようでもあった。

「話がある。」押し殺した声で、上月は言う。彼の他には誰もいない。そう、誰も。

「誰の許しを得たか、などと野暮なことは聞かぬよ。坊主。失せもの探しなら手伝おう?」竜炎はそう言って、場を明るくする。さきほどまでの闇の中、彼はまるでその身体が燃えているようかに、蒼い恐ろしいほどの怒りをまとって現れた。


「その前に、客人がきている。二度目だ。おぬしの見知ったものだろう?」竜炎はそう言うと、そっと御影石の椅子を手でなでた。


「___何があった。」上月は、それに驚いた風もなく、現れた光にむかって問い掛けた。

瀬野、涼子のその影にむかって。



(承が、記憶喪失よ。あなたも会ったかもしれないけれど。)

「ああ。それで、涼子さんだけでここへ?」

(彼方__貴方のお父様が来ているわ。)それだけで十分だった。カムイの森で感じたのはやはり父であった。

「それで、トリガーはそっちか?タイミングは?」

(悪いけど。チャンスは一度。新月の夜、こちらでは三日後。鏡と、石が必要よ。トリガーは___)

「あいつか。」上月は今いない友を思い浮かべた。

(・・・何かあったの。顔色が悪いわ。)

「何も。ただ、いつも通り、脱線しているだけさ。あの馬鹿のおかげでね。」

(彰!しっかりしなさい。あなただけよ。いいえ、あなたたちは帰ってこれるわ。必ず。あなたにとっての光は、あなただけしか持てない。京介にとってのあなたが、そうであるように。)そう話している間にも、彼女の影は消えかかっていく。

「__ああ、わかってる。」

(必ず、帰っていらっしゃい。待っているわ。)そうして、彼女の影は消えた。


「全く、化け物か。」そうつぶやいたのは誰に対してか。



「最悪だ。」竜炎が言う。上月は目線だけで話を促す。

「三日後だと?三日後。君の神翼席だ。その時を逃せば、おそらく、我らも無事ではあるまい。」

「神翼席とは?」

「本来ならば、その武勲をたたえ、末長い繁栄のための祭りだ。そして、今回は祈祷を行うため、石が集められた。」

「つまり、ここにすべての石があるということか。」

「そうだ。祭りといっても、この神殿内だけのものだから、民は全く知らん。おまえの探し物は、地下の神殿にある。」

「!?どういうことだ。」

「・・・・つまり、あいつが石だ。」

「!?」

「影を使って視たところによると、さらったのは力の痕跡から、多分、竜風。で、ついでにさらったモノの痕跡を見たらまぁ、何てことはない。石と同じ波動が感じられた。お前たちのことは葉月のトヨから聞いて知ってはいるが、もう一度詳しく聞きたい。それによって私が感じたものも、確証が得られるというものだ。」


「・・・・・あなたは・・・いえ、わかりました。」

そうして、上月はこれまでのいきさつを話しはじめた。




「問題は、いつ動くか。」少女はくやしそうに親指を噛む。その顔はけぶるように美しい、あと数十年もすれば、間違いなく都一の美女だと謳われるだろう。

「石があちらにある限り、我らの不利は変わらぬ。」三輪はそうつぶやいて主を見る。奥の宮殿のさらに奥、ここは本当に限られた者しか来ない。限られた権限を与えられたもの、そしてそれを与えたものだけが、使用できる場でもあった。

「堅。どうした。」あわてて廊下へ控えた者に気づき、三輪が声をかける。

「はっ。恐れながら、上月殿が、弦宮殿へ__わたくしは、止めたのですが、竜炎殿が・・・」

「かまわぬ。炎が通したのだな?それにしても、堅、情けないぞ。あの小僧はまだ若い。止められぬとは。」

「平に、ご容赦くださりませ。私はっ___」そう、堅は恐ろしかったのだ。自分より年若い、鍛えてもおらぬ、あの青年が。

扉から勢いよく出てきた顔、まさにあれは修羅。

あの眼光はただ者ではなかった。少なくとも、手を汚したことのある者が持つものだ。美しい外見とは全く異なるものがあの中に巣つくっているのを肌が感じ、次に手足が動かなかった。青年は、ただ、弦宮殿へと言っただけだった。くやしさがこみ上げてくる。

「まぁよい。下がれ_いや、その者、終わり次第こちらへ連れてくるように。」

「いま一つ・・・」堅が言いにくそうに口を開く。

「何じゃ。」

「御前の、堤という者、消えましてございます。」

「何っ。」

「はっ。何者かにさらわれた様子はございませんでした。しかし、私は扉のそばにおりましたが、途中、上月殿が確認に来た他に、誰も訪れたものはございません。」しゅ、と衣擦れの音がひびく。少女が上座からおりてきたのだ。

「堅、何を確認に来たのです?」

「は、それが、堤殿が言うには、何者かの声が聞こえたのだと。それを確かめに上月殿が__」

「!」

「いかがなされた。」三輪が少女の様子をうかがう。

「堅、時間がありません。上月という者、即刻ここへ連れてくるように。」

「ここへ、ですか!?・・・・承知。」堅はすばやく立ち上がって、廊下を出てゆく。

それを確かめてから、少女は三輪に向かう。

「先を越されました。」

「何。では・・」

「『石』を持っていかれました。だからこそ、上月なるもの、弦宮殿へ向かったのでしょう。こうなれば、もう時は決まりました。」

「神翼席では私も皇子も動けぬぞ。」その位から、儀式中に自分たちが動くことはできない。

「安寿を。姉様はあの者を。」

「日向か・・・・」

「姉様。」

「ふがいないと思うか?」

「いいえ、たとえ神々であろうと星が隔てようと、わたくしたちと違うモノであったとて、誰が責めることができましょう。誰が姉様のお気持ちをわかるというのでしょう。」少女は知っていた。その視る力をもって。彼等の惹かれ合う魂を。

「ふふ、我もおかしいと思う。しかし、今はただ、あれが助かれば良い。」それだけが真実。

「日向は果報者でござります。」

「ほんにな。」


ひとまず今週はここまでです。昔の原稿をそのままアップしているので、誤字・脱字が多いと思われます。


完結したら直そうと思います。

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