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栄翼の瞳  作者: 水城四亜
56/79

56再 会

「ここらでいいか。」唆字が抱えていた上月を地面へ下ろす。

「……ここは?」疾風のごとく宮殿を走り抜けた男へ上月は聞く。

「はぁ?男ならわかんだろ。アレだよアレ。」


煌めく提灯の灯り、立ちこめる香の煙。

女たちがしなをつくって、男たちが闊歩する。

安い建物は倒れんばかりの勢いで、軒並み、連なっている。



遊楽ゆがくよ。」唆字が言う。



「……ここに、トヨはいるんですね?」

「……あんな、一つ質問。あの鏡、お前のじゃねぇだろ?」

「…旅の共に頂いたものです。どこへ届けろとも言われていませんから。」上月はしれっとして、道を歩きはじめる。

「その格好じゃ、不味いな。おい、これでもひっかけてろ。」唆字が自分の上着を上月にかける。上月はその派手な着物に顔をしかめた。

「あぶねぇんだよ、お前みたいなのは。ここはな、何も女ばかりを買うトコじゃねぇしな。面倒だろ?」唆字のその言葉にますます顔をしかめた上月は、しぶしぶその上着を羽織った。

「で?あの人間、お前さんの知り合いか?」

「運び屋は詮索するものですか?」

「いんや、普通はしねぇよ。ちとキナ臭くてねぇ。好奇心というやつだ。」

「好奇心は身を滅ぼすって知ってますか。」

「あれえ、旦那~ひさしぶりじゃあないですか~、今日は寄っていかないんで?」ひとりの遊び女が近付く。

「あーまた今度な。」

「きゃあ~だんな、新しい子入ったんですよう、うちでいきましょ~?」またひとりの女が近付く。

「あー悪りぃな、先客だ。」

「あん、だんなのいけず~」

そうやって唆字が何軒か断った時、

「あら、うちのツケは払ってくれるんでしょうねぇ、唆字の旦那。」うす紫色の着物を着たひとりの女が唆字の前に立った。

「………」唆字はしばらくその姿を見て呆然とした。

「…知り合いですか?」上月が聞く。

「……まあ、なあ。」唆字はまだ呆然と呟く。





「ささ、どうぞどうぞ~。」丸顔の女に案内された先は、お座敷だった。

「ごゆっくり。」女は唆字と上月を意味ありげに見て鼻で笑って出て行った。

「何がだ。」唆字はぶ然と呟く。

上月は座敷の奥の襖を開けて後悔した。真っ赤な布団が鎮座ましまししている。

「……聞いてもいいか。」

「誓って、俺は女好きだ。」頭をかかえた唆字をくすくすと笑う声が聞こえて、廊下の障子が開いた。

「冷たいな、唆字よ。」先程、道で声をかけた女だった。

「なんで、お前がここにいる。…つうか何でお前、客、取ってるのか!?」唆字はつっかえつっかえ聞く。

「出稼ぎさ。最近不景気でね。陸でも商売しないとなかなか厳しくてな。ああ、ここは私の店だから安心しろ。…それより、趣向を変えたのか?唆字は子供と遊ぶようには思えなかったが。」

「ちょっと、待て。だから誤解がだな!」

「…その声…まさか。」上月が女を見る。うす紫色の着物は女によく似合っていた。髪には一さしの簪。随分高価なものだということがわかった。何より、その声は。

「思い出したかい、坊や?」女はさも可笑しそうに笑う。

「は?」唆字は女を見て、上月を見る。

「…蘭更の、翡翠。」上月は翡翠に向き合った。





「誰に頼まれた?」上月は出された料理に手もつけず、目の前の女に聞いた。

「誰だと思う?」翡翠は答える。

「トヨか。……何が目的だ?石ではないな。」

「俺にもわかる話にしてくんねぇか。…仲間はずれは寂しいぞ。」唆字は少しだけ拗ねて酒を飲んでいる。

「トヨに会いたいか?」

「当然だ。ところで、俺はあんたの雇い主を信用していいのか。」

「何、ちょっとした手違いさ。女は都についたら逃がす手はずだったのだがね。」

「どういうことだ。」

「余計な死人を出したくない。それが雇い主の意向だ。」

「余計じゃなければいいと?」

「心配しなくても、あんたの連れは生きているよ。」

「当たり前だ。あれを殺して、トヨに何の利がある。」

「ならば、活かして何の利があると思う?」

「………自分を棚にあげて、恩を着せるつもりか?」

「……だからさぁ。俺にも分かるように話してくれねぇかな~…。」

「…協力して欲しいことがある。」

「内容にもよるが、こちらに断る権利は無いんだろう?」

「察しがよくて助かる。お前が普通の坊やじゃないことはわかった。だが、あの連れは何だ?」

「ただの人間だが。」

「では何故あのトヨがそれほどまでに執着するのだ?」

「俺の知ったことか。石以外の目的の為に俺を使うというのならいい。だが、あいつは無関係だ。むしろ使えん。」




「酷い事を言いますのね。」

音もなく、襖が開く。


「事実だ。だが、交渉は難航気味だぞ?」上月は現れた人物を見る。

「…切り札はいつも最後にとっておくもの。そうでしょう?上月様。」トヨは婉然と微笑む。

「無理して笑わなくてもいい。疲れるだろう?」

「優しいこと。どうして人はそれほど他を思い遣ることができるのでしょう?」トヨはゆっくりと上月の右手に座る。

「俺もいていいのかい?お姫さん。」唆字は一口酒を含んでから聞く。

「戦力は多い方がいい。」

「…あなた以上に強いものがあるのか?」上月が聞く。

「ええ。確かに。」

「で?俺に何をさせるつもりだ。」

「ある者にわずかな隙をつくってくれればいい。」

「誰に?」

「王君___そう呼ばれているモノに。」そこへ駆け足が聞こえてくる。

「姫様っ…」入ってきたのはオミヤだった。そしてそこにいる上月を見て絶句する。

「何があった?」上月が聞く。

「……堤様が行方知れずに…!まだこの界隈にいるはずなのですが…」

「どういうことです?」トヨが聞く。

「水を飲みたいというので…少しはずした隙に…」オミヤは言い淀む。逃げれるはずが無いのだ、あの状態で。

「どこだ?」上月が立ち上がってオミヤの首を掴む。

「三階の、梅雲の間…」それだけ聞くと上月は走り出す。





そこには誰もいなかった。

開いている窓から落ちたのだろうか、手すりが壊れている。

「上月とかいったな。大丈夫だ唆字の仲間もこのあたりにはいる。見かけたら連れてくるように伝えた。」唆字が梅雲の間に入ってきて言う。

「……」

「………何をした。」上月は振り返らず聞く。その声は震えていた。

「……何をしたんだ!あいつに!」激高して入り口に来たトヨに吠える。

「だから、人は優しいと言いましたのに。」トヨは悲しそうに言った。


遊楽…は造語です。本来「ゆうらく(読み)」だと

もっぱら遊んで仕事もしない…という意味ですが

ここではそういう意味も含んで

遊廓という意味合いで使っています、華街って感じですかね。

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