05回 転
「それだけ?」聞き終わった上月は実につまらなさそうに言う。
「なんだよ、すげー怖かったんだからなっ!」私は思わずテーブルをたたく。
「何か、着てる物とか特徴は無かったのか?」
「知るかよ。真っ暗なのにわかるはずないだろ?」
「じゃ、なんで女だって判ったんだ?」
「・・・・なんとなく。」
「話にならんな。そこらへんがいい加減なんだ、お前の場合。勘じゃなくて洞察力を働かせたらどうだ?」
「でもっ・・本当に何か拾ってきた感じしなかったのに。」
「じゃあ、わざわざ家まで訪ねてくれたってわけか?」
「もしかして、お目当ては俺じゃなくて、上月なんじゃないの?」
「そういう知り合いはおらん。真面目に考えろ。」
(知り合いって・・・)
「・・・でも、悪意とかはなかったような気がする。嫌な感じはしなかったし、怖いだけだったから。」
「・・・参考までには聞いておく。今、何時だ?」上月はサイドボードの上の液晶時計を見る。私もつられて見る。午前二時四十五分。
「・・・俺は寝る。多分、もう一度出るってことは無いだろ。・・・あ、そうそうポカリは直しておけよ。じゃ、おやすみ。」不機嫌そうに言って部屋へ戻ってしまう。私は頷き返しながらも、また出るんじゃないかと気が気じゃなかった。
そんな心配も取り越し苦労におわり、私も二度目の睡眠に入ったのだった。
翌朝。 けたたましいベルの音(おそらくドアが開いた音)とともに、かけ込んできた人物。
「ちょぉぉぉーっと、いつまで寝てるのよ!寝汚い男は嫌われてよ!」部屋のドアを開けるとともに聞こえた美声は、惰眠をむさぼっていた私の目覚ましがわりになった。 私は、布団からもぞもぞと這い出して、枕元の懐中時計をみる。まだ、八時を少しすぎたあたりだ。
「・・・おふぁようご・・ざいます。涼子さん。」 入り口に仁王立ちしている女性は、上月の血縁にあたる、瀬野涼子さんだ。私は頭が半分寝てるのを感じながら、髪に手を入れる。
「あら、京介。来てたの?おはよう、こんな美女に起こしてもらえて朝からしあわせねーきょーちゃんっ。ところで、上月のバカ彰は?」彼女が上月と居合わせる現場には、出来ればいたくない。
「ここですよ。・・・朝からその女子高校生のノリ、やめてくれませんか。いい年なんだから。」隣の部屋から出てきた上月が言う。
「出たわね、女の敵。・・いい年なのは認めるけど、あんたに言われると腹が立つわ。あ、玄関ちゃんと閉めといたわよ。」涼子さんはこの家の合い鍵を持っている。その経路は上月が話したがらないのでいずれまた、ということで。
「だいたいこんな朝っぱらから何の用です?旦那と喧嘩でもしたんですか。」 朝っぱら、というわりには上月はすでに着替えているし、隙がない。どこかで涼子さんが来ることを察知したのだろうか。
「あら茜也さんとは仲良しよ。」茜也というのは瀬野茜也さんといって、涼子さんの旦那さんの名前だ。前に写真を見せてもらったけど、優しそうなひとだった。確か、どっかの図書館で働いているとか。
「それで?」上月があきれたように聞く。
「ああ、そう。大変なのよ。承のアホが・・・」思いだしたかのように真剣になる。
「・・承がどうしたって?」
「倒れたんですって。」
「ええっ。」