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栄翼の瞳  作者: 水城四亜
45/79

45敗 滅

前述した通り、残酷な表現が出てきます。各自の責任で閲覧してください。

風が強い夜だった。雲は細い月を隠したり、出したり、地上に広がる生臭い争い事などとは無縁で、ただ在った。



あれから幾度か敵に襲われたが、オミヤが剣を構える前にすべてが終わっていた。ようやく岩山の真下に来て、それまで遮られていた月の光が自らの主人を照らした。

「ヒコ、どうした?」オミヤは先に行ったはずの伏が戻ってきたのを確認すると、剣を鞘に戻した。

「こちらへ向かってきます。」ヒコはそれだけ言うと、トヨの横へ控えた。

「待ちましょう。」トヨはそう言って、一つの方向を見つめた。




やがて、枝を踏み分ける音がし、闇の中から一人の男が現れた。

「……俺を覚えているか……」その男は、そばに一人の老人をつれていた。

老人がゆっくりと手を上げた。

「ええ、覚えているわ…。」トヨは嫣然と微笑んだ。

「むっ!!風上へ!!」伏の男が叫んだが遅かった。老人が手にした粉末は風にのって、男達が吸い込んだ。

「ぐっあぁぁ……!!」男達は喉をかきむしる。しかし、それは毒ではなかった。誰もが地に伏したが、それはただ、身体の自由を奪うものだった。

「……相変わらず、甘いこと…」トヨはそれをものともせず男を見つめている。

「…命を奪うのはいつもお前たちだ。」老人はしゃがれた声で言う、幾らか自分でも吸い込んだのだろう。

「そうね。」トヨはひざまずくオミヤを冷ややかに見て、首をかしげた。

「…面倒ね。」その一言で、回りの木々が燃えた。一瞬にして、火がついた。燃えた木はそのまま男達に倒れてくる。

「…ギャァアアアアアア!!!!」肉を焼く臭いと、生木を焼いた煙りが立ち篭める。オミヤは必死にそばにいる主人を見ようとしたが、煙が邪魔をして見えない。何より、息ができなかった。

「ひ…め…」オミヤは咳き込み、必死で酸素を求めた。

「だって、いらないって言ったのに、勝手についてくるんですもの。」トヨは冷ややかに言った。ここへくれば石のこともわかってしまう。だからはじめから彼等を叩くだけの人数しか要らなかったつまりこの場にいるのは自分だけでよかった。もともと伏は途中で返すつもりだった。それが出来なかったから、途中から分けた。それが彼女なりの慈悲だった。

「……あなたと、同じような男がいた。石を必死に守っていたわ。バカね、あの石はもともと我等がつくり出したものなのに…その本当の姿さえ知らずに、石を守っていたわ。」トヨは結っていた髪を解く。途端、その黒い髪が赤い炎に映え、舞い上がる。

「……それは、我が父。」男は剣を握りしめた。この女に剣などというもので立ち向かうことがどれほど愚かなのかわかっていたが、彼には彼の父が残したこの剣をたずさえるだけの理由があった。暗く、今も胸の底で燃える炎が。

「……わたくしを殺しても、石は戻らないわ。」

「我を愚かだと思うか…?いや、それすらお前にとってはこの木々ほどにも価しないものなのだろう……!!」老人がトヨめがけて走った。男が何か口走る。

大地が朱に染まった。

「……礼を言う……」老人は息たえた。深くえぐられた腹から大量の血が滴った。もの言わぬ岩となったそれを一瞥して、トヨは男の前に進む。

「……愚かな。人は何故死に急ぐ……?」トヨは寂しそうにそれでも何も感情がこもっていない瞳で男を見た。

「……それが、人であるかぎり、お前にはわからぬ。我にはお前に向ける剣がある、お前を殺す理由がある。愚かだと思うならばそれでも良い、ただ、お前には我が何故お前に向かうのか、それだけは知り得ぬ。この先どれほどのモノを壊し、どれほどのモノを奪っても…!!お前にはわからぬのだ……とこしえに……!!!!」男は、剣を振り上げた。





「…………兄様……………………?」炎はたえることなく森を焼いてゆく。岩肌がそれに照らされて赤々と色付いている。

私は少女の悲鳴を聞いた。

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