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栄翼の瞳  作者: 水城四亜
31/79

31思 案

「・・・・・つまり、馬鹿彰と京介ちゃんは承と同じ状態にあるってこと・・・・?」

その女性は目の前にあるノート型パソコンのキイを片手で打ちながら、右手の受話器に話しかける。

どうやらホテルの一室のようで、彼女は今バスローブ姿。

洗い晒しの髪もそのままーおそらくバスルームから出たところで電話が鳴ったのだろうー綺麗な足を組み、椅子にもたれ掛かるように座っていた。

「『ああ、多分。僕がそちらにいるわけではないからいまいち想像が難しいけれどね。・・・ところで、君はいつまでそこにいるつもりなんだい?』」心配そうな、それでいてどこか楽しげな心地よいテノールが受話器から聞こえる。

「そうねーっ・・・・あたし一人じゃあどうしようもないわね。ぞっとしないわ、この部屋、死体三体と一緒に寝てるようなもんなのよ。・・・・・せめてあなたがいたらこの馬鹿者たちをどうにか移動できるのに、ね?」そこで女性はふとベット側を振り返り、ダブルベットの一つを占拠している三人の人間の体を眺める。

暗くて、ここからではただ眠っているようだった。

「だいたいねぇ!どうしてこんな時期に図書の入れ替えなんてあるわけ!あたしがどんな苦労して二人をここに運んだか・・・!」思い出すだけで腹が立ってくる。

瀬野涼子は血縁にあたる上月彰と、その友人の堤京介が同じく彼女の血縁である上月承と同じように仮死状態になってしまったのをごまかすために、大枚はたいた上、か弱い女が車で運んできたのだ。この苦労はどうしてくれようか。

彼女をそうした原因の男どもにどのくらいの貸しができるのか密かに頭で計算しながら、溜息をつく。

「『・・・あのねぇ、涼子さん。そのことなんだけど、実は仕事でT市の博物館にある書籍をお借りすることになったので・・・・多分、明日にはそっちへいけると思うんだけどね・・・?』」遠慮がちに言った声は涼子の声のトーンを1オクターブ確実に変えた。

「ええっ!だめじゃない、そんなこと早く言って頂戴よねっ。やだ、当然手伝ってくれるわよね?もちろん、お礼はさせるわ。で、いつごろ来るのよ茜也さん!」

「『そうだなあ、約束が十一時になってるから・・・』」ぱらぱらと手帳をめくる音がする。

「『お昼、一緒に食べようか。久しぶりにさ。十二時半にそこのロビーへ行くよ。それでいい?』」

「いいわ。・・・・ふふ。元N工大の魔術師、お手並み拝見させていただきます。」

「『よしてくれよ、僕は落ちこぼれなんだから。』」苦笑したようなそれでいてすがすがしい声が聞こえる。

「・・・嬉しいのよ。本当に久しぶりなんですもの。」

「『・・そうだね。じゃ、明日。お休み、涼子さん。』」

「・・・グッド・ナイト・・・旦那様。」涼子は受話器にキスをすると、電話を切り、濡れた髪に手をやった。

「・・・ほんと、手がかかるんだから・・・・」そう呟いてまた、ベッドに横たわる動かない体たちに呟いた。









「・・・っくしゅ!」


「どうした?風邪か?」


「あああ。大方、涼子さんあたりが文句でも言ってるんじゃないのぉ~?」


「なるほど。」私たちはいまこの世界に来てしまったはじめの場所に向かっている。そう遠くはないのだが、 あやしまれないように回り道をしていたら二十分ほどかかってしまった。鬱蒼と繁る緑が良い具合に私たちをかくしてくれる。先頭にオミヤ、次に上月、そして私。少し急な崖を上っている最中だった。


「よし、着いた。さて、手分けして探そう。そう広い範囲じゃないはずだ。」上月が言う。


「わかった。じゃあ俺こっち。」そう言って自分がこの世界に来たとき寝ていた芝生を通り越した反対側へまわる。


「蛇とかいるかもしれないから気をつけろよー。」


「・・・・行く前にいうなぁっ!!」よけい怖くなるではないか。ただでさえあまりに野生野生しているものだから何が出てくるのかわからないというのに。



「それにしても、いったいどうして無くなったんだろう・・・」


1ここに来たときに落とした。(まだある可能性が高い。)


2涼子さんの方にある。(俺達には見つけられない。)


3だれかが持っていった。(誰がそんなものここにあるって知ってるんだよ。)



「うーむ。現時点では3が有力か。でもまてよ・・・動物か何かが持っていったってのは・・・・無いかな。ああああ、もう、こんなところでもののけ姫ばりの猪とか出たらどうしよう。嫌だなぁ、死んじゃうじゃないか・・・。」しかし、私たちを元の世界に返す手がかりとなる唯一のものなのだ、文句は言えない。
がさがさと道をつくりながら、気がつくと小高い丘の上まで来てしまっていた。


「・・・・へぇえ、ここからだと村の屋根が見えるんだなあ。広いな・・・・。」自分のいた場所ではまず見られない雄大な景色。日本も昔はこんなんだったんだろうか、そう思うと少しだけ淋しくなってしまう。
「あ、違う。せつないって感じだ・・・。にしてもほんとに石どこいったんだろーう。おーい石やーい、石ちゃんやーい。お願いだからさー出てきてほしーんですけどー・・・。」


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