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「そのようなことはございませぬ。・・・やはり、お話いたしましょう。姫様には大王より血を受け継ぐご兄弟がおります。最も、その中で位と力と共に相応しいからこそ姫様が首をつとめているのです。ですが、必ずしも万人に認められるものではありませぬ。・・・・アヅミヒメさまもそのうちのお一人。」
「オミヤ、そこからはわたくしが。・・・姉様はわたくしの弟、ナボシの姉にあたります。そういうのも、姉様の母上はわたくしと同じですが、父君が違うので・・・母上は、大王の后となる前はこの邨の巫女でした。今は、母上の妹君であるクルスヒメが姉上の後ろ盾をしていて、都の使者としてこの葉月にも益をもたらしてくれています。問題は、かの君がわたくしの代わりにアヅミの姉上を推薦していることなのです。」
「・・・・なるほど。」
「わたくしは、数いる大王の子供の一人。この世界でそういったものたちには役割があるのです。あなた方が古墳と、そう呼ばれている物ですが、あれのいくつかは古代にこの蓬莱から持ち込まれたものです。あれが、扉。鍵は・・・四尺碧玉石。古来より我等が中つ国へ渡るための道であったのです。ですからそれをわたくしたちーーー番人の許可なく開くことはできませんし、番人の証として四尺碧玉石があったのです。・・・・ところが、最近その扉は確かに開かれていないはずなのに貴方がたのような渡来人が……彼らはいずれも優れた能力を持つ者ばかり。それが、都へ集まっています。本来、扉はこちらから中つ国へゆくもの。それなのに、そんな偶然が幾たびも重なれば当然いぶかしむ人間も出るでしょう。近いうちに、四尺碧玉石を見せろと、クルスヒメさまからのお達しがあったのは先日のこと。・・・あのかたはわたくしがそれを持っていないと確信した上でそのようなことを・・・・石がなければ、わたくしは首の権限を追われます。そうなればアヅミの姉上が新しい首となってしまわれるでしょう。」
「そうだったのか・・・・でも僕たちみたいなのが増えているって、本当なのかい?」
「はい。わたくしが知る限りでは少なくとも五十余名は・・・。蓬莱は異邦人を歓迎しません。中つ国から来た人々はおそらく、都で奴隷となるのでしょう。そういう意味でもわたくしはあなた方を異邦人だと感ずかれたくはないのです。」
「俺達をかばったのはそのためか・・・。」
「ええ、クルスヒメさまに知られたら、即都に連れて行かれてしまいます。あの方は都において権限をお持ちですから・・・。わたくしは、位こそあのあの方より上ですが、この葉月内でのことですし・・・・。お止めすることもできない立場にいるのです。」トヨは悲しそうに言う。
「でも、あの石は無いんですよね。あの、もしよかったらもう一度昨日の場所へーー僕等がここにあらわれた場所へ行って石を探してみたいんですけど。」
「それは、もちろん。このオミヤをつけますし、わたくし自身も探しますから。」
「一つ、聞いてもいいだろうか?」それまでずっと黙っていた上月が言う。
「あなたをとりかこむだいたいの事情はわかった。だが、まだ聞いていないことがある。・・・・どうして石をなくしました?」彼は落ちついて言う。確かに、言われてみれば何故そんなにも大切な石をなくすようなことに なってしまったのだろう?
「!・・・・それは・・・」トヨは言葉につまって、うつむく。
「言いたくなければ言わなくてもかまわない。・・・それと、もしかしたら俺達の知り合いがこちらにいるかもしれないんだ。もしわかるようなら気に留めて置いてほしい。承という名で、俺達よりひとまわり年をとっている。」
「上月・・・!」私ははっとなった。まさか承さんが・・・?でも、承さんの体はまだT市内のホテルにあるはずだ。
「・・・探しているかたは、どのような特徴が・・・?」
「ええとね、綺麗な人なんだ。髪は短くて、少し茶色っぽい。で、色は白くて・・・・上月に少し似てるのかな。上月のいとこなんだ。彼が、中つ国で倒れてね、その原因がどうやら四尺碧玉石みたいなんだ。その直後に僕等もここへ来てしまったけれど。」
「・・・似ているか・・・?」上月の声が気のせいかショックを受けているように感じられる。
「ん、けっこうね。それより承さんが仮死状態ってことは俺達もそういうふうになっているのかな・・・?」私は承さんの状態を思い出して言う。
「おそらくは、そうだろうな。仙都というだけあって、俺達とは根本的に造りが違うのさ。」
「涼子さん・・・なんとかしてくれるといいけど。」私は残してきた体を不安に思いながら、呟く。
もちろん、彼女のことだからぬかりは無いだろうが。
「・・・・とりあえず、あの石を見つけるのが先決だろう。それから宴のことでも考えよう。」上月は箸を置くとそう言った。