03遭 遇
名鉄金山駅で下りてから、徒歩7分程度のところの少し大通りからそれたあたりに上月の家はあった。 最も、彼の実家は安城市のほうにそりゃあもうでかい豪邸をかまえているのだが。
「あー、そーゆーわけで、上月ん家いるから。・・・うん、平気。何かあったらこっち電話して。携帯高くなるし。…じゃね。」 カチャ、と受話器を置き、部屋を見渡す。
「相っ変わらず殺風景な上に生活感のない部屋…」 上月は、一人暮らしだ。故あって、中学の時から親元を離れている。そのときは私の家の近くの学生用マンションだったのだが、今はもう少しリッチな2LDKのマンションに住んでいる。20畳近いリビング・キッチンが、嫌みったらしいったら。大学生でなんで一人でこんなとこ住んでるかなこの男は。フローリングに多分防音もついてるし、比較的新しい部類じゃないかと思う。しかもさ、普通大学の男って、キッチンとかあんまり綺麗にしてない奴が(私の友人では)多いんだけど、なんてゆーか、こういうのって 性格が現れるよな。塵一つない。 そこまで観察して何やら自分が嫁を見張る姑のような感じがして嫌になり、テレビをつける。
「なんか、エビス、無いみたいだったぞ。」そこで、上月が近くのコンビニの買い出しから戻ってくる。
「・・・ええっ。コンビニって、置いてないのかなあ。あ、電話借りたから。」
「多分売り切れたんだろう。仕方ないからラガーと黒、一番搾りと、バド、買ってきた。」 そう言って、テーブルに置く。ごとっと、重そうな音が響く。
「アサヒも美味しいんだよ。・・上月もビール?」上月は私と違って洋物派だ。
「一人でボトル開けるわけにもいかんだろ?」 そう言うと買ってきた物を冷蔵庫に入れ始めた。 今夜は、すきやきだ。
「それにしても、凄いよなああの細工。シンプルイズベストな感じで、俺は好きだけど。」鍋を突っつきながら、遺跡で出た装飾品を思い出す。
「どうでもいいが、お前またなんか拾ってこないだろうな?」上月はすかさず肉を奪いながらビールをあおる。これでもう三本目だ。
「何それ。またって何?」私はふいに聞かれた意味をつかみかね、聞き直す。
「学習能力のない堤には記憶力も抜けてるようだな。過去、お前が行ったあやしげな神社仏閣でよりによって何拾ってきた?」私の箸がとまったのをいいことに今度は新しい具を入れ出す。 こういうのを手八丁口八丁っていうんだ。
「うっ。・・・そ、それは。えーと。階段上の地縛霊さんに、妖怪になりかけた血統書つきペルシャ猫のセリアさん。それから…」 卵をかき混ぜながら、思い出す。変な話だが、私はそういう類のものに好かれるらしく(嬉しくもないが)過去にマイナーな神社仏閣を巡ったとき、一緒に観光してしまったことがある。
「もういい。」上月はうんざりしたようにさえぎって、卵をときはじめる。
「いや、でもっ、まさかそんな今回ばかりはないだろ。だって弥生時代だろ?ありえないよ。そんな、どっかの物語じゃあるまいし。」糸こんにゃくを摘んで力説する。
「・・・だといいんだが。異変があってからじゃこっちが迷惑するんだからな。」そう言ってまた肉を奪いながら、もくもくと次の具を入れる。
「わかってるよ。」私はぶ然と答えた。そのとき私はきっと平気だと思っていた。体調が悪くなることもなかったし、なにかを拾ってきた覚えもなかったのだから。
文章が若くて恥ずかしい。。。