27始 動
目が覚めると、首が重かった。
原因はわかっていたので、その腕を持ち主にかえすようどかし、隣の主を眺める。
ご丁寧に狙ってやったとしか思えない素晴らしい寝相で毛布半分を占領しているのが、目下爆睡中の 彼の友人だった。
上月彰はしばらくその温もりの中でまどろんでいたが、人の気配を感じ少し上体を持ち上げた。しばらくして、ぱたぱた、という音がしたかと思うと部屋の扉が開きフジエとアキジが入ってきた。
「失礼いたします。・・・おはようございますよくお休みになれ・・・て、まぁ。申し訳ありません、まだお休みでしたのね。」フジエは御簾から少し顔を出して丁度上月の下で眠る堤の姿を見た。
「もう、起きます。」上月は外からの涼しい空気に少し肌寒さを感じながら答えた。
「まあ、では開けてもよろしいかしら。今日は特別に良い気候ですのよ。」アキジはそう言うとさっさと内側から窓を少しだけ開ける。日の光が少しずつ部屋を満たしていく。
「こちらにお召しかえをご用意いたしました。朝餉は姫様がたがご一緒したいとのことでしたので、後ほどそちらへご案内いたしますわ。 あら、アキジ油壷が切れているんじゃなくて・・・・?」フジエはてきぱきと動き始める。その間に上月は彼の友人を起こそうと、声をかける。
「堤、起きろ朝だぞ。」そういって体を揺さぶる。普段なら、彼の方が起きるのは遅く、目覚めもすこぶる悪い。役割としてもよっぽどのことがない限り、彼より堤の方が早く起き、寝起きの悪い彼を起こしている。 しかし今日は逆だった。いつも眠りの浅いはずの彼の友人は今日に限ってそれこそ熊が出ても起きないような熟睡っぷりだ。こういう場合、起きてから彼が起動するまで時間がかかることがわかっているので、早く起きてもらわなければならなかった。
そして、何度かそうするうちにどうやらやっと目を覚ましたようだった。
「・・・・」目は開けていないが、声のする方に反応している。
「堤、起きたか?」
「・・・・ん・・うー・・・か、みつき・・・?」うっすらと目を開く。あまり焦点があっていないようだった。
「よし、起きたな。ほら、さっさと支度しろ。フジエさんとアキジさんもいるんだぞ。」あと少しだな、と思いながら毛布がわりの布を折り畳む。
「・・・?あれ?フジエさんとアキジさん。」
ぼんやりと二人の姿を視界のはしにとめたらしい。
「ああ、堤様?お目覚めになりまして?それでは、のちほど迎えに上がりますので・・・あ、それはこちらに。」フジエは上月の持っていた布を回収し、アキジを連れて部屋を出て行く。
「・・・上月。」声にメリハリが出てきた。
「やっと起きたか。全く、珍しいことしないでくれるか?また雨でも降りそうだ。」
「・・・はよ。悪かったな。いやだと思うなら自分がまず直せばー?少しは俺の苦労がわかったろ?」私はやっとはっきりしてきた頭を少しふって、ふてぶてしい友人の顔を見る。彼は大きめの箱に入った洋服らしいものを広げていた。
「何、それ?」近寄り同じように広げてみると、やはり洋服だった。しかし・・・
「これを・・・着ろってか・・・?」何故だかわからないが、私たちに用意された服は白が基調のオミヤなどが着ていたものではなく、どちらかというと派手な色が数種類使ってある民族衣装じみたものだった。
「服だけじゃないのか・・・?」上月がそう言って服をびろっと広げた下には複数の装飾品が並べてあった。
「・・・賭けてもいいけど、絶対似合わないと思う・・・」私はびらびらした衣装を眺めながら、呻いた。