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栄翼の瞳  作者: 水城四亜
26/79

26休 息

「なんか、寒い・・・」私は用意された布団らしきものにくるまった。床が固いのは仕方ないにしても、毛布がわりの布が、わりと薄くて夏が近いとはいえ夜は冷え込むからあまり保温性があるとは思えない。このままではいつまでたっても眠れやしない。ごろん、と寝返りを打って上月を見る。

「堤・・・気づいたか。」

「・・・何が?」

「トヨ、と言っていたな。」

「それが何か?」

「わからないか?トヨというのは卑弥呼の後の女王の名だ。」

「あれ?イヨじゃなくて?」

「トヨを間違えて読んだらイヨとなった・・・という書物も多かった。偶然にしては出来すぎだとは思わないか?」

「じゃ、ここが邪馬台国ってこと?ありえないよ。・・・ここ、何処だろう?」

「あの、遺跡だとすればここはT市だろうな。」

「変だ。」

「ああ。ここは、やはり俺達の学んだ弥生時代とは違うものだろう。実際、シャーマンというのはそれほど凄い力を持っていたのか?・・・それにしてもあのトヨの力はそれとはかけ離れた大きさを感じる。奇妙だ。何かが欠けている・・・何だ?」上月は考え込む。

私も同じように考えてはみたが、さっぱりわからない。

すきま風でも入るのか、やはり少し肌寒い。

「・・・・上月。」私は上月を見た。彼はそれだけでわかったらしく、

「お前が風邪でもひいたらかえってやっかいだからな。」そう言って布を持ち上げる。

「サンキュー。ああ寒ー。」私はもぞもぞと床を移動して上月の布に潜り込み、自分のをその上にかける。

「・・・久しぶりだよな、こーゆーの。」小さい頃よく一緒に寝た。一つの毛布のなかは私たちの城で、自分たちだけの世界があった。

私たちは共犯者だった。

懐かしくなってーそんなに昔のことではないのに、自分は年をとったな、なんて思いながらーつい、 笑みがこぼれる。

「・・・・そうだな。お前って、人肌好きなのな。お子様。」

「お子様で結構。だってさ、こうしてると言葉なんかよりきっとよくお前のことわかるんだよ。・・・動物もそうなんじゃないかな。」

「俺は動物か。・・・一瞬ひぐまの親子にでもなった気分だぞ。で、何がわかるんですって、堤センセイ?」上月の低い声が楽しげに響く。

「少なくとも、健康だよね。あと、喜怒哀楽とか・・・そうなんじゃないのかなって、思うけど。」

「相変わらずファジイな奴だな。」

「いいじゃん。上月にはわかるんだろ?問題なし。」

「勝手な言いぐさだな。今無性にお前の将来が心配になってきたよ俺は。お前・・・女の方がよかったよな。おふくろさんは女の子欲しかったんだろ?」

「でもじいさんは男がよかったみたいだぜ?」

「封建社会。」

「くだらねぇよなぁ。俺が女だったら、いらなかったのかよ・・・?」

「その時は俺がもらってやるさ。他にもらいてもいなさそうだし、な。」

「・・・そりゃどーも。お前が女なら・・・引く手あまたで競争率高そうだよな。俺高見の見物でもしてるかもよ?」

「嘘つけ。そんなにおとなしいかよお前が。」

「ばれたか。そ。強欲だからね、月から迎えに来るかもよ?」

「俺は泣き泣きつれてかれるわけか・・・?」

「ばぁかっ。お前が別れを惜しんで泣くような奴かよ。きっと、月の支配者とかにのし上がっちまうんだ。 で、俺をこき使うんだな。」

「そいつはいい手だな。安月給でな。」くっくっくっ、と上月が笑う。

「・・・俺は高いぜ?」一度いってみたかったんだよな、この台詞。そしたら、てっきり笑われるかと思って いたのに上月は、

「・・・知ってるさ。」なんて、言うので会話が切れてしまった。

まあ、話し疲れていたのでちょうどいいところでは あったが。

二人でいるせいか、だんだん温かくなってきた。それとともにさっきまで寒々としていた心が、少し温かくなったようだ。上月はなんだかんだ言っていつも元気をくれる。恥ずかしい言い方だけど、彼に助けられている事は確かだ。

私は大抵のことならなんとかなると思ってきた。実際何とかならなかったことは無かったし、特に落ち込んだときでもある程度なら自分自身で回復できる自身があったし、今もそう思う。でも、何故だろう。上月がいると、何時どんなとき何が起こってもきっと大丈夫だ、と思うのだ。

彼がいるから、私も頑張れるはずだと。彼という存在は私にとってきっとかけがえのないものなのだと思う。彼以外の誰も彼にはなれなくて・・・そういう彼が、私が一緒にいることを許してくれているのは私にとってこれ以上ない喜びだろう。

「上月ーーー」私は呼びかける。半分眠くなった瞼をかろうじて止めながら。

「・・・・?」上月が先を促す。

「俺、嬉しいんだ。」

「主語が、抜けてる。」彼も言葉が途切れている。それでも私の声を聞いてくれているのだろう。

「上月・・・彰という人間がいてさ・・・俺がいて・・・だから」俺は暗く吸い込まれていく意識のなか伝えた。

「ありが・・と。」

こんなにも臆病で脆弱な精神が抱えていた不安。

君がいるだけで、少し強くなれるのだと。

これからも側にいさせて欲しい、と。

その思いが伝わったかどうかはわからないが、 私は満足してそのまま眠りについた。

久しぶりの安息というやつに。



「・・・・そんなこと、知ってるさ。」



サービスシーンですな。(何の)

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