25親 愛2
「・・・大丈夫だ。・・・・俺がいるから・・・」上月に言われて私は自分の失態に気づいた。
彼だって、決して 強いわけではないのだ。むしろ、私なんかよりよほど繊細にできている。彼とはそういう人間だ。ならば、 そんな人間にそんな事を言わせてしまった自分はなんと、わがままなことだろう。私は、それ以上何も言えず、言葉をさがして腕で顔を覆った。そして、彼に返すことができたのは、たった一言だった。
「・・・がとう。・・・・・俺がいるから・・・」
自分では不足かもしれないけれど、彼の負担にだけはなりたくなかった。なるわけにはいかなかった。
(ごめんなさい。ごめんなさい。優しくなんか、しなくていいよ。お前にそんな顔させた、悪いのは俺の方だから。悪いのは・・・・)
ふと、遠い昔を思い出したような、デジャヴに襲われて、一瞬意識がはずれる。
「・・・堤?」
「ーーーーーえ?」私はピントがあわないカメラのような状態で、上月を見つめた。上月が確かめるように、 手をのばす。指が、頬に触れる。
「失礼いたします。」いきなり、入り口の扉が開いたかと思うと、二人の女が入ってきた。 私たちは姿勢をただすと、その女たちがてきぱきと寝床を整えていく様を眺める。一分もしないうちに準備は整い、女たちは御簾の前でかしこまり、指をついて、
「私、フジエと申します。お世話をまかされました。」右側にいる女が言う。さっぱりとした顔立ちの綺麗な 女だった。年は同じかそれより上か。
「私、アキジと申します。お世話をさせていただきます。」左側の女が言う。こちらも同じ年の女で、唇がきゅっとつり上がっていて顔全体を妖艶な感じにしていた。二人はトヨが着ていた服よりはやや質素な感じの薄布をかさねたようなものを着ていた。
「足りないことがございましたらお呼び下さいませ。私共ここより二つ先の間に控えております。・・・それ では・・・」とフジエが下がろうとするのをアキジが止めて、
「あの、もし差し支えなければ都の話など、お聞かせくださいまし。」
「アキジ!・・・・申し訳ありませぬ。このような土地におりますと、外のことばかり気がかりで・・・今日はお疲れでしょうから、これで。」と、フジエはアキジを怒ったわりには名残惜しそうなそぶりで部屋を出ていく。
「・・・・上月、俺達って、都の人だったわけ・・・?」彼女たちが出ていった扉を見ながら私は聞く。
「・・・だったらしいな。・・・・どうするんだ明日から・・・。」複雑な返事が返ってきた。