23事 情2
「・・・そうとも言えます。それより、あなた方は一体どこから来たのです?ーーいいえ、どうして、ここへ来れたのですか?」トヨもすかさず言う。
「・・・・それは・・・」私がどうしたものかと上月を見ると、彼は一度こちらを見て、それからトヨに向きなおった。
「ーーーつまり、どこから来たのか、はわかっているんだな?俺達が、歩いて来たとは考えられない?」
「武器も食糧さえ持たずに?ここから一番近い村でさえ、二十日。まして今は東の地よりの戦に女子供さえ出払っている様。どうして歩いてなど来られましょう?」
「戦・・・?ここにも戦はあるのか。なるほど、俺達が捕らえられたのもその所為か。」と、上月は一人で納得する。それにしびれを切らしたのか、
「ーーーーー如何にしてここへ来られました?返答次第ではこれからあなた方の身、守り切れませぬ。」と、トヨが言う。
「・・・そんな怖い顔しなくたって・・・だからね、上月言うよ?」
「・・・・。」上月は不本意のようだ。まあ、そりゃ相手から聞き出したいこともあるんだろうが、ここはなんとしても彼女に味方になってもらわなくては。
「あの、ええと、首飾りがあって・・・それが光っていつのまにかここに来てたりしたんだけど…」私のしどろもどろな言葉にトヨとオミヤは顔を見合わせ、頷く。
「その、首飾りというのはどのようなものです?」今度はオミヤが聞く。彼は、まだ俺達を胡散臭く思っているらしいが、目は真剣だった。
「えーっと・・・ちょっとかしてください。」トヨに筆をかりると、板に俺達をここへ連れてきた元凶を描き始める。黒曜石の土台に、勾玉が四つ、それから見たこともない大きさのラピスラズリより明るめの石。細部についてはあまり覚えていなかったけど、だいたいあっているはずだ。
「『栄翼の瞳』俺達はそう呼んでいたんだ。丁度、この土台にはまっていた石を俺・・・僕が見つけて・・」
「この馬鹿が、石に操られた所為で・・・いや、石の力が強すぎたのか・・・とにかく、気づいたらここにいた。」上月が横から絵の修正を入れながら言う。なるほど、彼の方が記憶力がいい。細部もしっかり見ていたわけだ。
「それでっ・・・それでその石はどうなりました?」トヨが聞く。顔色が悪い。明かりが足りない所為ではないだろう。
「いやぁ、それが・・・」私は期待されている視線を受け、言いよどんだ。
「消えました。」上月がきっぱりと言う。
「消えた、というより俺達が見失ったのかもしれない。何せ右も左もわからない森のなかだ。もしかしたら、あるかもしれないが・・・もしその石が俺達を連れてきたのだとすれば、当然堤の側にあるはずだが、無かった。・・・あまり期待はできんな。」
「・・・そんな・・・」トヨが真っ青になって、うつむく。
「あれ、あなたの物だったのか?それとも・・・なにか大事なものだった?この、蓬莱で。」私は出来る限り静かに聞いた。いくらショックとはいえ、どちらかといえば私たちの方が絶望に近い。知っていることは話してもらわなければ。
「・・・・私が話します。よろしいですね、姫・・・?」オミヤが言う。トヨは頷くだけだ。
「そちらにとって口外したくないことならば、無理には聞かないが?」上月が言う。
「いいえ。あなたがたは、姫の命運を握っているやもしれません。差し支えない限りは、話しましょう。」オミヤは言う。
「まず、この葉月の姫トヨ様は、巫女でもあり、この村の首でもあらせられます。・・・あなたがたで、もう何人目となるか、中つ国からの渡り人が最近増え始めたのは・・・・」オミヤはそこで少し言葉を切って、上月の反応を伺う。