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栄翼の瞳  作者: 水城四亜
20/79

20観 察

「・・・こんな時こそステンレス定規60センチとか、裁断機とか、鋸とか・・・もう百円カッターでもいいから欲しい気分だな。」私が言うと、

「ー同感。どれも定形外のものばっかだけどな。」上月が答える。


とりあえず、入り口を塞いでいるのは木。しかも乾燥しているものだ。と、いうわでティッシュを、転がっていた小枝に巻き付けて、ライターで火をつけようってわけ。我ながら原始的だとは思うけど、何もしないよりはいい。全て燃えなくても足で蹴って折れる程度にはなるんじゃないだろうか。あと、ケータイのエネルギ-パックを使った爆破ってのも考えたんだけど、それだと中にいる私たちまで危ないので却下。

そして、上月の『ラッキー○トライク』と私の『マイルド○ブンライト』一箱分がその犠牲となった。






「あ、のぉ、何をなさっているんですかぁ?」遠慮がちな声が問う。


「見ててわかんない?こっからでるん………………だ?」おそるおそる声のした方を見上げれば、


「あら、怪我の方は大丈夫ですの?」少女がいたりした。



「うー(わあああああっ!?)」目の前に現れた自分以外の人間に驚いて、のけぞりながら悲鳴を上げた。後半は上月に口をふさがれたが。
その少女は、私をしげしげと見つめてから、上月を見る。


年の頃は十二、三くらいだろうか。十五、六と言ってもいいような大人びた顔立ちをしている。美少女だ。
服装は、絹か何かの白で統一された唐時代のものにアレンジを加えてある。
裾が汚れていないというのは、どういうことだ?
そこまで見てから不思議に思った。少女の気配はしなかったのだ。いくら私が鈍感だからといっても、目の前まで人が来ればわからないはずはない。ましてや、上月がいたのだから、その彼まで気づかないというのはおかしい。そして、見るからに彼女は位がありそうな感じがした。雰囲気というのか、明らかに、下女などとは 違う何かを備えているのだった。



「己が態度をまず改めたらどうだ?こいつの傷はおまえ達がつけたものだろう。武器を携帯しない人間を分別なく襲うのがそちらの礼儀か?」上月が私を押さえたまま言う。少女は、少し目をみはりおもむろに右手を牢の木にもっていく。
木にその白い指先が触れた。


「えっ・・・!?」まるで、マジックのように土深く刺さっていた木が、消えていた。
つまりはただの洞穴に化したわけで・・・。
私は思わず指先を木があった場所にかざしたが、指先は空をきるだけだった。
木はあとかたも無くなっていた。


「我等が非、お許しください。本来ならば、このようなことわたくしが許しません。けれども・・・民を責めないで。すべては、わたくしの所為なのです。・・・・わたくしの・・・」少女は衣装が汚れるのも気にせず土下座をする。


「あ、あのさ、とりあえず立って・・・。」私は少女を立たせる。


「それって、別に俺達が殺されるとかじゃあないんだよね?」少女は頷く。


「やった!じゃあさ、とりあえず包帯かなんかええと、この傷のね手当をしてほしかったりするんだけど・・・」
血はとまったとはいえ、布は赤黒く染まっていて、新しい布が欲しいところだったし、やはり血を流したせいか、立ち上がったとき貧血気味なのに気づいた。


「とりあえず、ここを移動しましょう。お手をお借りいたします・・・そちらの方も。」少女は何か見つかることを恐れているようなそんなそぶりで私の手を取る。指先にひやりと柔らかい感触。
(小さい手だなぁ。)そこで、あれ?と思う。彼女が上月と私の手を取って案内するということは、三人仲良く横に並ぶことになる。それで歩くというのはあまりにもマヌケだ。



「わたくしは、蓬莱のトヨ。あなたがたは・・・?」


「・・・堤、京介。」


「上月彰。」彼女の目を見た瞬間、私は総毛立った。
たった今までいた山のなかの洞穴の風がやみ、いつの間にか景色が違っていた。


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