19発 起
現在入れられているのは洞穴・・ちょうどあのラピスラズリを見つけたような洞穴の入り口に単に木材で格子を作りましたって感じな場所だ。足に入り口から入ってくる月光があたる。くらくらする頭をかかえながら、ほんとに死ななくて良かった、と思った。
我ながら馬鹿なことをしたものだ。痛いなんてもんじゃない。泣く暇がなかったのはよかったが、今でさえ泣きたい気分だ。私は生きていることに感謝して、このまま容態が悪化しないよう祈りながら包帯らしき布を触った。
「・・・出血はあまりないし、傷自体も浅かったからよかったが・・・・」低く、上月が呟くのが耳に入った。私は思わず戦慄を覚えた。
彼が、必死に押さえているだろう怒りは静かに、だが確実に空気を通して私に伝わってくる。一歩間違えれば死んでいたのだから、彼が怒るのも無理はないと思うし、なにより私の身を心配してくれていることが嬉しかった。しかし、彼の瞳はときどき途方もない闇色に染まる。空虚なそれは、いつもの平静さを失っているのだ。そういうときは友人ではなく私の知らない、底知れない何かが彼の心にあるのだということに気づかされ、恐れる。
「上月は・・・・ええと、平気か?」私はあわてて上月のカラダを見回すが、これといって怪我をしている様子はなかった。
「俺はいい。それより、お前の傷が心配だ。ここはお世辞にも衛生がいいとは言えんからな。」上月が元に戻ったことに安心してーーそれを気取られないようにしながら、ごそごそとシャツとジーンズのポケットを漁る。
「手持ちのもの・・・ケータイ、ハンカチ、ティッシュ・・・煙草。」使えそうなものがあるとは思えない。普通の牢屋なら、ピンとかで鍵師の真似だって出来るのに。
「同じく。それにカロリーメイト。」上月はカロリーメイトの残り一本半を取り出して、
「食うか?」と聞く。
「いらん・・・と言いたいところだが、そうも言ってられんだろ・・・」ずるずると体を引きずり、かけらを口に放り込む。すると途端に口の中がぱさついて水が欲しくなる。
「水無しで、もって二日か・・・」上月もそれをほうばりながら言う。
「二日もここに入れとくつもりかね・・・?あやしきは罰せよ、じゃないの?」
「武器なし。知力無し。・・・あとは精神力というか、根性の問題だな。」
「根性ねぇぇ。あったかな、そんなもの。」
信じられないことが起こっている。それも現実にだ。いままで数多くの小説やら漫画やら読んではいたがあくまで自分は安全圏にいるはずだったのに、何が間違ってこんなことになってしまったんだろう。 処刑、されるだろうか。以前何かの本で読んだことがある。たまたまここらへんの時代の本を調べていて・・・・人が神に捧げるために人を生きたまま殺していく・・・・嫌だ。痛いのはいやだ。理不尽だ。だいたいナンセンスすぎる。そんなことを信じてるほうがどうかしてる・・・!
・・・・けれども。彼らには彼らの価値観というものがあったりするので、当然相互理解の道は険しいだろう。て、ことはやっぱり問答無用で生け贄ですか!?ーーーーいやだーーーーーーっ。
「何一人で、百面相やってるんだ。」
「・・・せめて二十面相って言ってよ。」どうせなら、抵抗して死にたかった。それすら出来ないのだろうか?本当に?
「無理心中にしてはロマンが足りないな。」
「何さロマンて。・・・マロングラッセなら食べたいけど。」なんだか無性に悲しくなってしまった。きっと空腹でせつないのだと思う。私は上月によりかかるようにして聞く。
「ライター。持ってなかったっけ?」
「俺に禁煙しろってのか?」すぐ頭上でくす、と笑う声が聞こえる。
「俺も協力するからさ。」