16神 姫
「それでは、そのものたちは牢にいるのですね。」
微かな衣擦れの音とともに、静かな、けれど芯の通った声が響いた。外は嵐のように風が吹き荒れている。木戸の扉から微かに入るすきま風がそれを教えてくれる。
薄暗い部屋のなかにあるのはただ一つの明かりと物言わぬ調度品たち。
そして、一人の男とまだ、あどけない顔を残す少女だった。
「は、しかし、珍妙な格好をしておりますれば、おいそれとあなた様を近づけるわけにはまいりません。ましては、このような時期では・・・」男は、声からしてまだ若い少年のようだった。
彼と少女の間には二メートル程の空間があり、その先に薄い布で仕切られた一段高い床が見える。この後ろに少女がいるのだろう。この部屋には窓というものはなく、入り口の扉の下のわずかな隙間が空気の入れ替えをしていた。床は板張りで、少年はその床に胡座をかき、じっと薄布の奥を見つめた。
「・・・・しかし、それでは律に反します。聞けば武器も何ももっていなかったとか。やはり、一度会ってみようと思います。」
「トヨ様、なりません・・」
「わたくしが、危険はないと言っても・・・・?」そこから、少女の口調が変わった。あきらかに、傅かれる者の威厳にあふれる声に。
「・・・わかりました。しかし、おひとりではなく、私もお連れください。」少年はしぶしぶと頷く。すると、微かに少女は笑い、
「心配性ね、オミヤは。」その瞬間、彼女は消えた。その場から、指一つ動かさずに。
気配の消えたことに気がついた少年が立ち上がり、勢いよく薄布を開く。
たった今まで自分と話していた存在が消えてしまった。
「姫・・・っ。」
どうどうと、風が鳴る。
嵐を告げる先触れを。
人ではあらぬ、その力を。
獣は猛り、人は闇に震える。
木々は騒ぎ、何かにおびえるように葉を散らす。
自然を従え、理を曲げ、存在する者を忌み嫌う。
それは、恐怖。
それは、権力。
それは、力。
暗き野望と、欲望の渦巻く世界のただ一つの希望。
はい第二部〜。