14束 縛
空気が透明になってゆく。きん、と張りつめた冷たいガラスのような中に、僕等は溶かされてゆく。
そして、熱い息は奪われる。 その息吹は人のものでなくてはならない。
苦痛から解放を願うただ人のーーー
息が、出来なかった。いや、息は出来ていた。 ただ、息をしているという意識がないのだ。 そら。 白。白。 まぶしすぎない程度の白い空間に落ちてゆく。
ただ、音も無く、何も聞こえない。スローモーションで自分が壊れてゆくあの、死に向かう瞬間によく似ていた。 微かに光る、出口なのか入り口なのかわからないそれに、引き寄せられ吸い込まれてゆくのだろう。 ぼんやりと、そんなことを思いながらゆっくりと瞼を閉じた。不思議と恐怖は感じられなかった。 静穏とも違う、ただ神経が麻痺しているだけなのか、そもそも神経なんて存在するのか。肉体より むしろ自分という一つの個体の意識が、それだけが強く残った。 かすかに、自分を呼ぶ声を聞いた気がした。
おもむろに、瞼を持ち上げると、夜だった。
綺麗な上弦の月だ。風が、頬をなでてゆく。つい、今し方感じたような熱は、もうなかった。 仰向けになっていた体が妙にだるかったが、起きあがると、手に冷たいものを感じた。見ると雨上がりなのか、芝にはまだ水滴の 後があった。それを心地よく感じると同時に、ジーパンがわずかにしめっていることに気づき、あわてて起きあがると、やっと周りの風景に気がついた。森だ。ここはどこだろう。 森は森だが、私の思い当たる森などたかが知れている。 現状で当てはまるとすれば発掘場の裏山のさらに裏側がかろうじて緑が残っていたくらいだ。