10波 間2
ようやく・・・・
ひゅおおう。
ひゅおおう。
まるで何かの鳴き声みたいに風が渦巻く。
じめじめしてはいるが、沖縄の防空壕に入った時よりはマシだった。土はわずかにしめってはいるものの、地面もある程度の硬度は持っているし、なにより普通の洞穴なのだ。
私は、涼子さんの懐中電灯に照らされた何もない壁面を見ながら、ほっとして自分が照らしている足下に視線を動かした。
「何もないようですね。てっきり、よくある風葬用に使われたものだと思っていたんですが・・・」上月はいぶかしげに涼子さんに言う。
「風葬・・・?」私は嫌な予感がしながらも聞かずにはいられなかった。
「穴の・・・ちょうどお前が立ってるあたりに、死体を置いてそのまま野ざらしに埋葬したってやつだな。」上月はそんなことも知らないのかという顔で言う。
「はじめっから!そのつもりだったんだな!」私は今にも逃げだしたかった。冗談ではない。もしそうなら頭がおかしくなりそうだ。
「・・・そのようね。」涼子さんは半分残念がっているような声で答え、こちらへ反転した。
「!わっ。」
「へぇっ!?」何かに躓いたのか、涼子さんがぶつかってきて、私はそのまま後ろの上月にむかって倒れ込んだ。
「!・・・・重いっ。」幸いにして上月がクッションになって踏みとどまったので地面とご対面とまではいかなかったが、
「・・やめてくださいよ涼子さん、だから、ヒールの高さは控えめにっていつも旦那にも言われてるでしょう?」上月がぼやく。私といえば体が硬直したまま心臓がばくばくいってる。
「あら、それじゃ茜也さんに抱き留めてもらえないでしょう?・・・どうでもいいけど京ちゃん、固まってるわよ。彰。」
「・・・ったく、しっかりしろよ。おい。」返事が出来なかった。
「おいって、立てなくなったわけじゃないだろ?」 上月が呼んでいる。・・・それはわかるのだ。けれども。私の目はある一点から逸らすことは出来なかった。硬直した姿勢のまま、上月に無理矢理立たされてからも、魅入られたようにそれを見つめた。