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夢の中で精気を吸う魔物といえば

前回のあらすじ

解決夢部(仮)を立ち上げたのは同級生の女子、更には正体がリアルで悪夢を食べる獏というおまけつき。

主人公と獏の会話は彼女の属する組織の話に及び――



「ふーん、で、本局とかもあるんだ」

「地球の中心にあるんですよ~。ちなみに私は日本支局に所属してるんです。ほら、これが証です」


 そう言って前髪の脇に付けてあるヘアピンを指差す。

 俺はそれに目を近づけた。

 ファンシーな造形の、鼻を長くしたブタみたいな生物を模った紫色のヘアピン。

 生き物の足元には小さな日の丸とアルファベットの文字がある。

 

「ふーん……D・Eってあるけど何の意味?」

「ドリーム・イーターの略ですよ~」

 

 目の前のヘアピンが上に移動してノヘっとした獏天の笑顔が現れる。

 

「そういえば自己紹介してなかったね~。私、獏天優夢っていうんですよ~。あなたは?」

「は?」

「そのネクタイの色、私と同じ一年生だね、何組の人?」

「に、二組だけど……」

「えっ、私の組?」


 ま、まさかこいつ。


「……あー! わかった、鍋……倉くん、だっけ?」

「鍋島」

「そうそう、鍋島くんだよね、窓際の後ろの席にいる」


 言いようの無い屈辱感を味わいつつ頷く。


「ごめん、休み時間とか鍋島くん、いつも机で寝てるからはっきり顔憶えてなかったんですよ~」


 はい、クラス全員のお言葉を代弁しちゃいましたね。

 まあ十分自覚してるし別にいいけど、こうキッパリ言われると面白くない。


「じゃあ、頑張って」


 内心むっときたのでここを出ようと彼女に背を向けた。

 

「待ってください~!」


 こちらの肩を掴んできた。

 

「ちょっと、な、何?」

「行かないでください~! ここの部員になってくださ~い」

「ええ!?」


 肩に食い込んだ手を放そうと体をゆすったが離れない。

 運動神経は鈍ちんのクセに何だこのバカ力は!


「放課後ここに来たって事は、部活入ってないんでしょ~、悪夢見たりするんでしょ~。いつでも悪夢食べるから部員になって~、せめて体験入部だけでも~」


 揺するのを止める。


 そうだ、その為にここへ来たんだった。

 さっきの女子も悪夢を食べて貰ったようだし、こいつ本当に獏なんだろう。

 あの寝汗びっしょりの恐ろしい悪夢とおさらば出来るなら体験入部位してやってもいいかな。


「わ、わかった。悪夢を何とかしてくれるなら体験入部するよ」

「やったあ! あ、ありがとう~、私の他に三人部員を集めないと、この部立ち消えになっちゃうんです。ほんと助かりますよ~」

 

 三つ指ついて何度も頭を下げる獏天を見て何とも気恥ずかしくなる。

 

「いいよ、そこまでしなくても」


 俺の言葉に満面の笑みを浮かべた獏天が立ち上がった。


「じゃあ私が部長で~、鍋くんが副部長ですね~」

「だから体験入部だって」

「そうでしたね~、じゃあ副部長(体験)にします~」

「何だよ(体験)って!」

 

 

   □ ■



「ん?」


 放課後、部室の戸を開けると漠天がこちらに背を向け横たわっているのが目に入った。

 そういや今日の体育はマラソンだったな、運動が苦手な漠天にとって相当HPを削るイベントだったんだろう。

 そう思いながら靴を脱いで畳へ上がる。


「な、鍋くん……」

「何だよ、無理するな。寝てろ」

「こっち、来てくださいよぉ」 

 

 ゾクっとするような色っぽい声に驚いて立ちすくむ。

 それに追い打ちをかけるよう背を向けたままの獏天が手を持ち上げると、妙にやらしい動きで手招きして来た。


「な、何? 気味悪いんだけど」

 

 何やら異性不純交友的な危なさを感じた俺はその場を動かずそう言い返した。

 

「ああんっ!」


 持ち上げた手を引っ込めた獏天が苦しそうに体をよじらせ始めた。

 思わず駆け寄って側にしゃがみ込む。


「うふっ、捕まえましたよ~」


 こちらのうなじが両手で掴まれた。

 そして例の馬鹿力でそのまま引き倒されてしまった。


「こっちに来ないからぁ……こうしちゃったんだよぉ?」


 鼻息がかかる程顔が近い。

 そこで気付く、いつものほわほわとした目とはまるで違う潤んだ艶やかな目になっているのを。

 ちろりと出た舌先が唇をペロリと舐める、それはまさに獲物へ爪を喰いこませた捕食者の口。

 

「ちょ、ちょ、ちょっと待って、取りあえずその手を放そう、な?」

 

 震えた声を出す俺のうなじに回された両手に力が入る。

 それと同時に顔へ吐息がかかった。


「鍋くぅん、これから二人っきりでぇ、すっごいことしようよぉ」

「すすすすっごいこと……って何?」

「鍋くんのぉ、知ってるえっちぃな事、ぜ・ん・ぶ。ううん、それ以上のぉ、すっごい! こ・と」


 こちらの体に胸を押し付けてきた。

 って何この感触? 

 むかし遠足で具合が悪くなって、おんぶしてくれたおっさん担任の背中を思い出す。

 つまりぺったんこな肉感。


「獏天」

「なあに? 気持ち良過ぎてイっちゃいそうなの? いいですよ~、遠慮しないでイちゃってください~」

「お前、こんなに胸なかったっけ? つーか男の胸だろそれ」


 いやらしい獏天の顔にかすかな衝撃の色が浮かび上がる。


「何言ってるんですか~、早く感じてくださいよ~! 早く早く~!」


 今度は両手両足を体に絡み付けてきた。

 

「誰だ、お前!」


 そこへ地面と空気を震わす大きな声が部室中に響いた。


「こら~、そこの私、鍋くんに何ヤラシイ事してんですか~!」 


 天井が勢いよく吹き飛び、そこに巨大な獏天の顔が現れた。

 

「よりによって私に化けて鍋くんに忍び寄るなんて~!」


 天井から巨大な手が伸ると、俺に絡みついている獏天を指先で摘まもうとする。

 

「むひゃひゃひゃひゃ……気づかれたでござるか、はいちゃらばい!」


 素早く俺から手足を外した獏天が虹色に変化すると花火のように弾けて消えた。

 

「あ~、逃げた! こんにゃろですよ~!」

 

 瞼を開けた俺の目に映ったのは、ぶすっと頬っぺを膨らませた獏天の逆さ顔。

 慌てて膝枕から体を起こした拍子に、獏天の顎と俺の頭がゴチンとぶつかってしまった。


「いてっ!」

「ふぎゃ!」


 幸いにもお互いぶつけた所は少々赤くなっただけだった。


「い、今の夢だったのか。しかし何だ今の夢?」

「何言ってるんですか~、えっちぃな夢ですよ。あ~、熟れ過ぎて腐る寸前のバナナや柿みたいなこの味! いつもの美味しい鍋くんの夢を期待してたのに、とんでもないの食べてしまったですよ~! ベッベッ!」


 顎をさすっていた獏天がベロを出して左右に顔を振る。

 

「にしては変な夢だったな。その……胸が全然無いお前出て来て、最後にヘンテコな事言って消えたぞ」

「胸が……無い……? 失敬な~、私はスポーツブラつける位の胸はありますよ~、ほら~」


 そう言って揺れるというには程遠い胸をぐっと突き出す。


「わ、わかったから。それより夢に出てきたお前って何者なんだよ」

「あれはですね~、私の姿を真似た夢魔ですよ~」

「夢魔? それってもしかしてサキュバス? RPGとかに出てくるアレ?」


 コウモリの翼が生えた全裸女性の姿が頭に浮かぶ。


「確か人に淫らな夢を見させて、精気を吸い取るとかいうモンスターだよな」

「そう、それなんですよ~。ぬぬ~、鍋くんの夢を食べるという私のかけがえのない楽しみを奪った罪は許せませんよ~!」


 いつものほわほわ顔に見えるが精一杯怒っているのだろう、ハエが一回りしてから止まるような何ともノロい猫パンチを両手から繰り出している。


「今度こそ、コテンパンにして思い知らせてやりますよ~」

「今度こそって……、そのサキュバス知り合い?」

「知ってるも何も、百年以上前からの、犬猿の仲ですよ~」

 

つづく

次回、獏VSサキュバスの壮絶な戦いが幕を開ける!


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