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獏が悪夢はマズイと言いました

ボロい解決夢部(仮)に足を踏み入れた主人公。

小汚い室内で目にしたのは、クラスメイトの優夢ゆうむと別なクラスの女子が口づけをしそうなシーン。

当然主人公は大興奮するのだが――

 ま、ま、まさか女同士でキス!?

 驚いた俺は足がもつれ、その場に尻餅をついてしまった。

 そんな間抜けな俺の目に、信じ難い光景が飛び込んできた。

 膝枕で目を閉じている女子の鼻や口から、とぐろを巻いた紫色の煙が溢れだしている。それを獏天がすうっと口で吸い込むと、ゆっくり上半身を起こし、顔に掛かった長いもみあげを手で払った。


「はいっ! 悪夢解決しました!」


 獏天がパチンと両手を叩く。

 それと同時に目を閉じていた女子がむくりと起き上がる。


「どうですか~、気分は?」

「う、うーん。何か怖い夢を見たようだったけど……今はとてもいい気分」

「らりひゃはは、悪い夢を食べ……いえ、悪い夢を見ない様深層意識に暗示をかけましたからね~。もう大丈夫ですよ~」


 漠天に礼を述べて立ち上がった女子が、尻餅姿で固まっている俺にちょっと驚いたような顔を見せ、そのままそそくさと玄関へ行ってしまった。

 戸を閉める音が部室に響く。


「……ぴぇぇ~、すっぱいですよ~! ああいう、友達から見捨てられる悲しい夢はホントすっぱいですね~!」


  あぐら姿になった獏天がレモンをかじった様なすっぱい顔をプルプルさせる。


「たまには美味しい夢をバクバク食べたいよ~、獏なだけに。なんつって。らりひゃはは!」

 

 自分の言ったシャレにお腹を抱え、首を左右に振って笑い出す。その目が俺と合う。

 固まった笑顔のまま目を激しくパチパチさせた獏天が素早く正座姿になった。


「お、お待たせです~。さささ、どうぞです~」

 

 そう言って自らの太ももをペチンと叩いた。


 どうぞって言われても……、寝ている女子から何か吸い取ったっぽいし、それに夢を食べるとか言ってなかったか?


 俺は精一杯の笑顔でノーサンキューとばかりに手を振った。

 そして熊に出会った時の対処法よろしく獏天と目を合わせたままゆっくり立ち上がると玄関へカニ歩きを始めた。

 

「み、見た?」


 青ざめた笑顔で獏天が訊いて来た。


「え、何を?」


 目を合わせたままぎこちなく玄関に向かう。

 

「聞いた?」


 青ざめた笑顔が小さく震え出した。


「え、何を?」


 玄関にたどり着いたのでそろりと靴へ足を伸ばす。

 突如漠天が四つん這いになると、もの凄い勢いでこちらへ向かって来た。

 その勢いたるやゴキブリやフナムシを彷彿とさせ、仰天した俺はまたもや尻餅を着いてしまった。

 そんなこちらの両足を獏天ががっちり掴む、その姿はまるでジャパニーズホラー。

 

「見た~? 聞いた~?」

「か、かんべん!! かんべんしろってー!!」

 

 きっとこの時の俺は楳図かずお画風な顔をしていただろう。


「らりひゃ~、しょ、正体がバレると私、私……大変な目に遭っちゃうんですよ~」

 

 うつ伏せの獏天が顔を上げた。

 その顔は涙に鼻水にまみれた酷い有様であった。

 さすがに憐れみを覚えた俺は両足を放すよう促した。

 それが済むと「座ってちょっくら話をしよう」と提案した。

 

「で、結局お前の正体って何なの?」

「獏! 獏一族の末裔なのですよ~!」

「バク? それって、動物園にいる鼻を長くしたブタみたいなやつ?」

「それは想像上で描かれた獏に似てるって理由で名前付けられた動物のバクですよ~! 私は幻獣とか伝説の生物とか言われている方の獏! いわゆる人知を超えた存在っていうんですか~」

「じゃあ、お前って……、人間じゃないの?」

「今は人間の構造体にしてますから、一応人間ですよ~」

「構造体……まあいいや、夢を食べる獏が何しにこんな高校来てんの?」

「それはですね、我ら獏一族は人間の悪夢を食べるという崇高な使命があるからなのですよ~、えほん!」


 そう言って控えめな胸をポンとたたく。

 

「あー、絵本でも獏は悪夢食べるってあるもんな。でも膝枕して食べるってのは知らなかったな」


 俺の言葉に何故か目が泳ぎ始め、手の動きが挙動不審になる。


「そ、それはですね~、私だけの発動条件というか、スペシャルスキルというか……」

「じゃ、普通は違うの?」

「うう~、皆さんは寝ている人に意識を集中して見つめるだけで悪夢を食べれるんですよ~。でも何故か私は出来ないダメダメさんなんですよ~、うう~」


 獏天がベソかきそうな顔で自分の頭をポコポコ叩く、その姿を見て何故こんな部を立ち上げたのかがわかった。

 普通見知らぬ人に膝枕なんかされないだろう。でも、見た目百パー人畜無害そうな女子に、『あなたの悪夢解決しますよ~』と言われれば、それ程抵抗なく膝枕されると思う。恐らく、そんな発想でこの部を作ったのだろう。

 獏一族の落ちこぼれなりに一人で頑張ってるんだな。

 そう思うと目の前にいる漠という未確認生命体に同情心が湧いてきた。


「ところでさっき、すっぱいですよ~とか言ってたけど、夢って味とかあんの?」

「え、味?……そーですね~、人間の味ふうに表現するとですね~。可笑しく楽しい夢はジューシーなお肉の味! フォアグラーな味! わくわくどきどきする夢はピリ辛スパイシーな夢、四川料理にサムゲタン、激辛カレーな味なのですよ~」

 

 目を輝かせて溢れそうになるヨダレを拭く。

 何その表現、引き合いに出したその料理食べた事あんのかよ! と突っ込みたくなったが黙ってる事にした。 

 

「で、悲しい夢はすっぱい味。お婆ちゃんが漬けた梅干しみたいな味。手が滑ってお酢まみれになった、ちらし寿司の味」

 

 今度は眉間に皺を寄せて口をすぼめる。

 

「そして~、怖い夢とかの悪夢は……うっ!」


 口に手を当てると今にも嘔吐しそうな顔をする。

 

「お、おい、大丈夫か?」

「ってな位、マズッ! マズッ! 激マズッ! 恐らく人間でいう闇鍋、ジャイアンシチュー」

 

 急にベロを出すと顔を左右に揺らして腕でバッテンを作る。

 

「驚いた。悪夢を食べるっていうから、てっきり美味しいんだと思ってたけど、そんなマズかったんだ」

「そう! そうなんですよ~、やっと人間に知って貰えた~。本局からの命令と魔力を上げる為だから仕方なく食べてるんですよ~」


 崇高な使命で食べてるんですよ~、えほん! とか言ってたけど、本音はそれか。

 まあ、大体そんなもんだよな、実際のところは。しかし……

 

「魔力上げるって何?」

「魔力というのはですね~、夢を収める胃袋を広げる為の元というか~。ともかく悪夢を食べれば食べるほど夢をた~くさん胃袋に収められるんですよ~」

「ロープレの経験値みたいなもんか。お前食べるの好きそうなんだから、悪夢ガシガシ食べて胃袋広げればいいじゃん」

「そこまで無理して悪夢食べなくても、今のままで十分かな~、と思ってるんですよ。てへっ!」

 

 自分の頭をコツンと叩く。

 ダメだコイツ、俺と同じポンコツ思考だ。

ポンコツ同士のボーイミーツバク、さてどんな化学変化を起こすのか。

つづく

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