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怪奇討伐部Ⅵ-Star Handolle-  作者: グラニュー糖*
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【R-15】トラウマ

第九話 第四の関門




「なんでついてくるのさ」


 部屋の境目を越えるとヘラが不満そうに呻いた。


「行き先は同じだからね」

「行き先って、月光がこんなところに何の用だよ?」

「この先に伝説の宝、『皇天の(エンペラーズ・ゴブレット)』というものがあるんだ」

「『皇天の杯』?うーん……誰か言ってたかな……?聞いたことないぞ?」

「最近情報が出たらしいからな……おじさんだって聞いたばかりだ」

「ふぅーん……」


 レインが適当に返事をし、次の部屋へと足を踏み入れる。

 全員が入ったところで部屋の雰囲気が変わった。


「わ!?内装が変わったぞ!」

「みんな、気を付けて。はぐれないようにおじさんに掴まってなさい」

「でも変わったっていっても、お花畑だよー!」

「あ!ムジナ!危ないから先に行くな!」

「だーいじょーぶだって!」


 赤、白、黄色、ピンク。

 いい匂いで綺麗なお花の中を走っていく。匂いが普通よりキツいこと以外は特に変なところはない。あとは……


「あれ?」


 誰かが前に立っていることだけだ。


「他にここまで来れた人、いるんだ……。……あれ?ヘラ?レイン?月光さん?どこ行っちゃったんだろ……まぁいいや」


 前に着物を着た人がいる。

 真っ白で、雪のようだ。

 薄暗い洞窟の中でこの白は少し目が痛くなるかもしれない。


「こんにちはー」

「……」

「聞こえないのかな?」


 近寄ってみよう。


「ねぇ、君は____」


『彼女』が振り向く。



 その瞬間、〝花が全て枯れた〟。



 腐っていく。腐臭が発生する。

 何が何だかわからず、振り向いてヘラに助けを求める。


 こんなことになるならヘラの言うことを聞いてみんなで行動すれば良かった……!


「ムジナ」


 聞き覚えのある声だ。

 この人が発している……?


「き、君は……!」


 青い髪。

 真っ白な着物はリストの着物と反対向きに着付けられている。


 そして……



「会いたかった」



 星のように輝く瞳。


「……アシリア……!」


 彼女は死んだはずのアシリアだった。

 なぜここにいるのか、着物を着ているのかなんてどうでもいい。

 再会の喜びが勝り、オレはアシリアに向かって走り出した!


「アシリア、アシリア!!よかった、死んでなかったんだね!」

「……」

「アシリア……?」


 様子がおかしい。


 アシリアが完全にこちらを向こうとする。


 なぜだろう。震えが止まらない。


「……や、やめて……!」


 こっちを見たアシリアの顔が血まみれになっていた。


『どうして見殺しにしたの』


 白い着物に赤が拡がって滲む。

 ずっと放置していたものかのように黄色く汚れ、赤と黄色が混ざっていく。


「いや、いやだ……やだっ……見たくない!」


 叫んでも頭に響く呪いの言葉。

 腐敗した花畑を走って戻ろうとした時、誰かにぶつかった。


「痛っ!」

『……ムジナ……』


 男と女の声だ。

 記憶の隅っこに、最後に残ったのが悲鳴だった声。


 赤と黄色に塗りつぶされた思い出。

 見上げると、二人は血まみれの姿で笑っていた。


「お……お父さん……?お母さん……?」


 いるはずのない二人がオレに手を伸ばしてくる。

 古いものだからだろうか、長袖の中で腕が腐って落ちて……。


 伸ばし返したいが、やってしまうと命の危険を感じるのでグッと堪える。


 よくよく見ると、お兄ちゃんが殺すときに振り下ろした斜めの鎌の痕がお腹に____。


「うっ……うぷ……」


 生々しい傷口に、吐き気がする。


『ムジナ』

『ムジナくん』


 左右からも聞き覚えのある声が聞こえた。

 嫌な予感がしているが、見るしかない……。


「……シフ……ハレティ……」


 あぁ、これは罰なんだ。

 ちゃんと死神として自立していないから。

 誰かの死をずっと引きずっているから。だから……。


『ムジナ』

「……お父さん……?」

『お前には死神になる資格はない』


 いきなり何を言い出すかと思いきや、そんなこと……。


「どうして?!オレが殺してないから!?」

『……』

「わかった。わかったよ!そこまで言うなら……オレが……オレがっ!」


 手元に自分の鎌を呼び出す。

 そして構えた。


「オレが殺さないと、許してくれないんだろ?!!!うあああああああっ!!!」

『……だからお前はダメなんだ』


 お父さんに当たる直前。

 鎌は霧散した。


「!?」

『諦めろ。お前にまで死神の辛い仕事はやらせたくないんだ』

「や、やるかやらないかはオレの勝手だろ!?」

『お前は過去に囚われすぎだ。現に、周りを見てみろ。今ここに集まっているのは、お前が後悔しているから存在しているんじゃないか』


 ……確かに、お父さんとお母さんを殺すことは『死神の決まり事』だ。いけないことだとわかっているのに、お兄ちゃんを止めることができなかった。ずっと……後悔してきたんだ。


 シフは……言わずもがな。目の前で自爆されたんだから……忘れられないに決まってるじゃないか。それに、俺たちが戦っているのは、またヘラとシフとオレで暮らしたいからだったのに……。


 ハレティは……敵とは思えない。むしろ守ってくれたんじゃないかって思い始めたんだ。ヘラに言ったら「正気か?」って言われるだろう。でも、霊界が使えなくなり、代わりに贖罪としてシフが人柱になって……。

 一番の被害者はハレティなんじゃないかと思う。ハレティはただ巻き込まれただけだ。正当防衛をした果てに、魔界を狙った人間たちに殺されたんだもん。


 アシリアは……あれは本当に予想できなかった。どうしてあんな大きな変なモンスターが出てきたんだろう。シアエガとか言ったっけ?倒しきったわけではないし、それに逃げられたのは商人ちゃん……いや、ナイアーラトテップの力があったからだ。もし、もう一度戦えと言われれば、確実にあのタコ足みたいなのに貫かれて死ぬだろう。


「なら……なら、過去なんて捨てろって言うの?」

『……』

「何とか言ってよ!!」

『……』

「あの時も……何も言ってくれなかったじゃないか!ばか……ばかばかばか!!」


 グーの手にした両手でお父さんの体をポカポカ殴る。が、まるでゾンビのように腐った体を殴っているので気持ち悪いし、気分も悪くなっていく。

 グチャグチャと音が鳴るがお構い無し。今、オレがしたいことをしているからだ。目的を変えることはない。


「ばかああああっ!!!」


 __________


「うああああああああっ!!!」

「どうなってるんだ、ここは……!」


 先行したムジナは空を叩き、泣き叫ぶ。


 それを追いかけたヘラは突然膝から崩れ落ち、震えている。その……なんだ。甘い吐息と言えばいいのか……?


 そしてレインは……。


「う、うああ……あああ……っ……ごめん……ごめん……っ」


 空を叩くことはないが、隣で泣き崩れている。

 どうやら全員周りが見えていないらしい。


「まさか……幻を見せているのか?この花が……?」


 白い花を見る。

 何もならないが、もしかすると自分だけがここに来る前から狂っているので花の影響を受けないのかもしれない。

 それはそれで悲しいが、ここはさっきの礼ではないが助け合わないと宝を手にするどころか帰ることすらできない。


「……おい、レイン。レインくん。聞こえているかい?」

「あ、あああ……ああ……ひっぐ……えぐ……」


 聞こえていないようだ。

 何が見えているのかはわからないが、戻ってきてもらわないと進まない。


「あのな、何か後ろめたいことがあるのはどの生き物だって同じなんだ。君だけじゃない。まぁ記憶もロクに残らず、狂ったおじさんが言えることじゃないがな」


 ……と言っても三人のうち誰も聞いていないようだ。

 こうなったら……!


「……ここは意を決するしかないか……!」


 まず泣き崩れているレインを抱え、目を背けたい状態になっているヘラの隣に移動する。

 ヘラをおんぶし、首に手を回してもらったあとにレインをお姫様抱っこする。

 そのまま走り、ムジナの元に向かう。


 この方が長期戦になるよりダメージが少ないと判断した。


「「うわあああああん!」」

「ちょっとは黙れ、ガキ共!!……ほら、行くぞ!」


 一度レインを下ろし、右腕で抱え直す。もちろんヘラが落ちないようにバランスを取りながらだ。

 そして左腕でムジナを抱える。

 一見不可能に見えるが、ここにいる全員はほぼ人間ではないので問題ない。


「うああああっ!」


 手元でムジナが暴れる。

 一体何が見えているのだろうか……。

どうも、グラニュー糖*です!

現在、「怪奇討伐部完結直前・pixivと同じところまで進める祭り」を開催しております!

こっちでは表紙を載せられないことが本当に残念ですが、楽しんでいただけると幸いです。

本当はイラストを見て読むほうが良いんですけどね!


なお、pixivからそのままドンしてるのでルビやら何やかんやがpixivのコマンドのままになっている場合があります。それを見つけた際はお手数ですがお知らせしていただくととても嬉しいです。もちろんコメントなどもお待ちしております!


ではでは〜

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