鉄は溶かすためにある。トラップは壊すためにある。(ヘラ談)
第八話 第三の関門
「飲み終わったら出発な」
もたれていたヘラが重心を取り戻し、腕を組む。
「ヘラは飲まないの?さっきあれほど動いたのに」
「パンチの一発や二発くらいで休憩入れるほど柔じゃねぇよ。……まぁアレ走ってたらさすがに飲んでたかもしれんが」
チラッとコースを見る。
……でも、よく考えたら……これ、行かないといけないんじゃ……?
「なに微妙な顔してるんだ?」
「これ、次のところがあっちなら行かないといけないんじゃないかなーって」
「……っ!!!」
____あっ、めっちゃ嫌そうな顔した。
「あ、そうだ。向こうに誰かいたぞ。まだリタイアしてない強い人、いるんだな」
「へー!誰だろ?早く行こーよ!ヘラ!」
「引っ張るな引っ張るな」
そんなこんなで翼を広げて飛ぶヘラに抱えてもらいながら移動していると、確かに人影があった。その人は体のどこかが痛いのか、前屈姿勢のまま動かない。
「どうしたんだろ……」
「……げっ」
「ヘラ?」
「行くならお前らだけで行け」
「えっ!?ヘラ、何で?!」
問答無用で下ろされる。ゴールまで五十メートルくらいだ。
オレはヘラに持ち上げられるレインを尻目に向こうの人に駆け寄った。
「あのー、大丈夫ですかー?」
「こ、腰が痛くて……この体勢から動けないんだ……」
「これが巷で噂の『ぎっくり腰』!?」
「大声で叫ぶな!響く、だろ……あいてててて……」
「じゃあ支えてあげ……わ!?」
「だから大きな声____っ!?」
双方、動きを止める。
なぜなら、誰がどう見たってこの人は……!
「月光さん!?」
「どうしてムジナがここに?!」
騒いでいると、ヘラがゆっくりと下り立った。
「だから言ったろ」
「だって、だって月光さんとは気づかなくて……!」
「いや別れて一日も経ってないと思うぞ」
「ううう……」
隣に移動し、頭の後ろに腕を回したレインが何か言いたそうにしている。
「おい、じいさん」
「じいさんじゃない、オジサンと呼べ」
「一緒じゃねーか!で、三人は知り合いなのか?」
「レインが来る一、二時間くらい前までヘラの家にいたよー」
「そうなのか……。ふぅーん」
パッとしない表情で月光さんを見るレイン。月光さんは、ふっ、と笑った。
「何か用でも?」
「いやぁ……どうしてここで止まってるんだ?じ……いや、オジサン、まさか……」
「あぁ、そのまさかだよ。競争して……負けたのさ」
「負けた?でも地下で負けたなら死んでるはずじゃ……」
「本来はね。でも実行される前に君たちが来たから……。それでクリアされたから、一時停止したんだ」
「えっ、じゃあ……」
ゆっくりとレインは後ろを向く。
オレとヘラもつられて見ると、後ろから……シュイイイイン!!という音とジャキジャキという音を発する刃物が……!!
「わー!!あからさまな処刑グッズが!!」
「チッ、今までどこに隠れてやがったんだ!とにかくレインは月光を連れて次に向かえ!ムジナ、二人で止めるぞ!」
「お、オレ!?」
「クリアした者しか開かないかもしれないしな。俺たちはどうにかして入るから!ほら、ゴー!ゴー!」
ヘラが叫びながら指示し、レインは頷いて月光さんをおんぶしようとしている。
オレたち子供の上半身はあるだろう回転刃はどんどん距離を詰めてきていた。
「来てる来てる!」
「……マスター」
「廻貌!やっと起きたか!」
「起きてたが、面白くて放置してたんだよ。あれは知っての通り防衛装置だ。自動で動くから誰も制御していない。だから存分にやれ!」
「元からそのつもりだったよ!行くぜ!」
氷はおそらく切り刻まれてしまうだろう。水蒸気も効かない。なら、横から闇を飛ばすしかない!
「関節部分を狙え!」
「そりゃっ!!」
右手を前に出し、狙いを定めて少し後ろに展開されたいくつもの闇の弾を発射する。
今体の直線上に機械があるのだが、弾は左右にズレてから勢いよく機械のある中心へと向かっていった。
「ヘラ!エガタ!」
「おう!斬り落としてやる!!」
「命令するなっての。……でもま、マスターを守るのが義務だからな」
弾は命中し、機械の鉄パイプはオレから見て左上へと曲がった。軌道が変わったのでこっちに当たることはなくなったがこれからのためにも壊さなくてはならない。
「でやあああああっ!!」
ヘラの炎で強化されたエガタが火花を放ちながら鉄パイプを削っていく。
スパッと斬れないのは太いからなのか、謎の力で拮抗しているのか、それとも……。
「いっけー!ヘラ!」
「よーっし!頑張るぞ、廻貌!」
「まったく、マスターはそういうところがあるからな……。力に飲み込まれるなよ、マスター!」
「そっちこそ!耐えきれずに折れるなよ!!」
前から伝わる温度が変わる。
とりあえず後ろの二人に熱が行かないように氷の盾を作った。
終わる頃にはヘラの炎で溶けているはずだ。
「あああああっ!!どりゃあっ!!」
仕上げとばかりに勢いよく蹴り飛ばす!
熱された鉄にヘラの顔が苦痛に歪むが、それに気づいたオレは急いで水蒸気を吹っ掛けた。そして駆け寄る。
「いてて……ありがとう……ムジナ」
「当然でしょ!ヘラがオレを守るなら、オレはヘラを守るもん!」
オレとヘラが話しているとき、後ろから声が聞こえた。月光さんとレインが話しているようだ。
「これが悪魔の本当の力か……。あの時は節約していたと聞いたが、使い放題のここではあれが常なんだな……」
「そーだぜ。ま、ヘラのピンピンさ加減でここでも魔力が回復するってわかったし!安心だな!」
「俺はモルモットかよっての」
「ありゃ、聞こえてた?地獄耳ぃ!」
「褒めてるのか貶してるのかどっちだよ」
エガタを異界に戻しながらブツブツ言うヘラの後を追う。チラッと壊れてしまった機械を見るが、もう動きそうにない。
「あはは、許してよー」
「しょうがないな……」
「やったー!さ、次行こ、次!」
「本当にやる気あるのかな……」
どうも、グラニュー糖*です!
現在、「怪奇討伐部完結直前・pixivと同じところまで進める祭り」を開催しております!
こっちでは表紙を載せられないことが本当に残念ですが、楽しんでいただけると幸いです。
本当はイラストを見て読むほうが良いんですけどね!
なお、pixivからそのままドンしてるのでルビやら何やかんやがpixivのコマンドのままになっている場合があります。それを見つけた際はお手数ですがお知らせしていただくととても嬉しいです。もちろんコメントなどもお待ちしております!
ではでは〜