ナイアーラトテップの虹の粉
第六話 虹の導き
「うわっ、とと……。……ムジナ!」
「えへへー、ありがとー」
先に地面に到着したヘラにキャッチしてもらう。
飛べるのは飛べるが、ここぞというときのために魔力は温存しておかないといけない。ここは魔界とは限らないのだから。
「あはは、相変わらずヘラはムジナのこと好きだなー」
レインは両手を頭の後ろに回し、呑気に笑った。
「当たり前だろ。ムジナがいなきゃ俺はとっくに死んでる」
「お、おおう」
「ほら、行くぞ。足元、気を付けな」
「はーい!……置いてくよ?レイン」
「い、行く!行くから待って!」
木々の中をずんずんと通り抜ける。特に生き物はいないようだ。むしろ虫一匹すら見当たらない。地下だからなのか、もしくは何かの力が働いているのか。
「そういえば目的地は?どうしてここだってわかるの?」
「匿名で手紙が来てな。この奥に悪い鬼がいるから倒してほしいって」
「えぇ……怪しくない?」
「怪しいとは思ったが……仕方ないだろ。助けを求める手紙なんだから」
レインはニコッと笑う。
そんな顔ができるのは周りに悪い人がいないからなのだろう。
自惚れているわけではない。
魔界は閉ざされた場所。そんなものに触れる機会がないだけだ。怪しむということがあまりできないのだ。
「そろそろ森が終わるぞ。身を隠すものがなくなるから気を付けろよ」
「こんなところに敵なんているのかなぁ?」
「ここにいるのは妖怪だと聞いている。気は抜いていられないぞ。下手すりゃレインより強いんじゃねーの?」
「う、うるせーな!手紙の人はオレを頼りにして送って来たんだぞ。オレが負けるわけない」
「……頼もしい限りだな」
「へへっ、だろぉ?!」
「…………チョロいな……」
二人の会話を聞き流しながら前後左右を確認する。確かにこの先は木どころか草すら生えていないようだ。『生命の息吹』なんてものとは縁のない場所だ。
「……!レイン見えるか?」
「……あぁ。血生臭いのがいるな」
「ムジナ、隠れてろ」
そう言われても何も見えない。
オレの目には二人が急に立ち止まって武器を取り出し警戒しているようにしか見えない。もしも『見えない敵』がいるのなら、とても厄介だ。
「おい、そっちは敵の方だぞ」
「だって見えないもん……敵」
「は?……ったく、俺から離れるなよ」
「うん」
ヘラと話している間、レインがポケットから紙を取り出す。そして魔力を込め、白い湯気のようなものが出てきたその紙を、文字通り、撃ち出した!
四枚ほどの紙は敵がいるあたりを囲むようにグルグルと周り、筒状の光の柱を形成していく。
結界なのだろうか?
こんな結界は初めて見た。
「見たことのない攻撃だな。一日で成長なんてありえねぇ。やっぱ同じくらい時間過ぎたんじゃねぇの?」
「今までも使えたさ」
「じゃあなんで使わなかったんだよ。特にスクーレの旅の時とかさぁ?」
「魔力が足りなかったんだよ。でもハレティの雨のおかげで魔力が満ち満ちてる。ハレティ様々だよ。……お礼がしたかったなぁ」
レインは奥歯を噛み締める。
レインのスーツはハレティのお下がりで、彼が縫った強化魔法が混ぜ込まれた糸が含まれていると聞いた。
今レインが生きているのはハレティのおかげと言っても過言ではない。
ハレティはオレとヘラの敵だ。だが、ハレティはただ正当防衛しただけだ。『ここ』と『あそこ』を変にしたのは主にオレのせいだ。なのに……犠牲になったのはハレティだけだ。
元はと言えば、オレがシフを……人間を呼び込まなければよかったのに。
こんなことになるとは思ってなかった。
どうしようとも、ヘラが守る。自分で傷を付けることも許されない。
ヘラ……。正反対だよ……オレたち……。
「……。ムジナ。お前が今何を考えているのかは大体想像付く。だが、今は戦いの最中だ。……攻撃ができないなら、俺たちを強化してくれないか?死神なら生命力を弄ることくらいできるだろ?」
「うん……そうだね。ごめんね、戦いに参加できなくて」
「問題ない。元から守るつもりだった」
「……あは、言うと思ってた!」
ヘラと背中合わせで立つ。
エガタから伝わる熱が暖炉のように暖かい。
さっきまでの不安が嘘みたいだ。
「……ほー、結界の一族かいな」
どこからか声が聞こえた。
黒池のところで学んだ、俗に言う『関西弁』ってやつだろうか。
だが、声しか聞こえない。
「それに、低俗なインキュバス」
(イラッ)
「お、おさえて、ヘラ……」
「そして死神か____」
ヒュッ!と風が吹き、髪が揺れる。気配を感じ、ヘラの方を見ると……。
ヘラの首が何者かに捕まれているのか、手形が付き、ヘラの体は宙に浮いていた。その顔は苦痛に歪んでいる。
「ひっ」
「ん?……なんや、見えてないんか?」
ポイっと投げられたのか、ヘラは地面に落ちる。
攻撃役がいなくなると大変なので、急いでヘラの方へと行こうとしたその時、かまいたちに行く手を阻まれた!
「うわっ!」
「お前もそうなんやな……腹が立つやっちゃなぁ!」
「ちょ、ちょっと!理由もなしに勝手に話を進めないでよ!」
「ムジナ、伏せてろ!」
遠くからレインの紙が飛んでくる。
謎の敵は「チッ」と舌打ちをし、暴風と共に上に飛んだ。
砂が舞い、思わずむせてしまった。
「げほっげほっ!」
「……しゃーない、今回は勘弁したる。せいぜい地下観光でもしてな。運が悪かったら俺に出会って殺される……楽しみにしてろよ!」
「待て!……くそっ!」
敵はその場で再びかまいたちに変わり、跡形もなく消えてしまった。
「消えちゃった……ヘラ、大丈夫?」
「……あぁ、なんとかな……二人も大丈夫か?」
「直接触られたのはお前だけだ」
「そうか……。まったく、とんでもない野郎に出会ったな……」
ヘラはパンパンと赤いコートに付いた砂を払い、立ち上がる。
「ヘラ、あいつは……」
「あぁ。あれは……誰が何と言おうと、天狗……だな」
「鬼の部下がなぜこんなところにまで……?」
「知るかよ。パトロールでもしてたんじゃねぇの?」
「パトロール……?ふぅん……」
レインは紙とレイピアを片付け、マフラーの先をクルクルと弄り始めた。
「そんなところ触ってたら、いざというときに対応できないぞ」
「わかってるよ。でもあいつ以外いないみたいだから大丈夫だろ」
「だといいがな。……って、方向わかんねーぞ。二手に分かれるわけにはいかないし……」
確かに道は二つに分かれている。
さっきの天狗が見えればどっちに行ったか判別できたのに……。しかし二人もわからないところを見る限り、その場で姿を消したということだろう。
「そんな時の虹の粉だろ。オレが何のために地下に行こうとする人たちに粉の話をしたと思ってんだ」
ほらほら出せよと急かす。
ヘラが目を細めながら瓶を取り出すと、瓶はフワリと浮き、さらに虹色に輝いた。
「どうなってんだ、こりゃ!?」
「わぁ、キラキラ!」
ヘラの手から離れたそれは勝手に動き出し、左の穴の前に移動した。
「まさかこっちに行けと?」
「そういうことだな。行こうぜ!オレたちの明日は虹の向こうにあるっ!」
どうも、グラニュー糖*です!
現在、「怪奇討伐部完結直前・pixivと同じところまで進める祭り」を開催しております!
こっちでは表紙を載せられないことが本当に残念ですが、楽しんでいただけると幸いです。
本当はイラストを見て読むほうが良いんですけどね!
なお、pixivからそのままドンしてるのでルビやら何やかんやがpixivのコマンドのままになっている場合があります。それを見つけた際はお手数ですがお知らせしていただくととても嬉しいです。もちろんコメントなどもお待ちしております!
ではでは〜