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怪奇討伐部Ⅵ-Star Handolle-  作者: グラニュー糖*
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悪魔と人間の頼み事

第一話 空のあとで




 空から流れ星が落ちた。

 それは燃え尽きず、生命の海へと落ちた。

 そして信号が消えた。


 今日一日、天体の問題で不可思議なことが二つもあった。

 一つは先程の流れ星、もう一つは日本の某所に飛来してきた大きな海賊船だ。


 空からカエル、牛、魚、お金が降ってくることは昔から観測されていたことだ。

 これを『ファフロツキーズ』という。

 だが海賊船が、しかも一隻のみが空から舞い降りたことは記録にない。

 これはUFOと仮定しても良いのではないだろうか。


 宇宙については、まだ誰もわからない。


「……こういった情報となっています」


 僕は先輩刑事である上原さんにネットのサイトを見せながら話した。


「ふむ……これくらいの情報量なら彼らのことも守れるだろう」

「ムジナくんたちのこともですか?」

「そうだ。それに、彼らが狙われることになったら……黒池ちゃんは手段を選ばなくなるだろう?」

「それもそうですね。先輩がそんなところまで考えてくださっているのに驚いたので……すいません」

「先輩を何だと思ってんのこの子……」


 先輩の呟きをよそに、もう一度スマホに目を向け、操作する。次に表示したのはSNSだ。


「朝のニュースで反響を呼び、SNSでも話題になっているみたいです」

「起きてすぐあのニュースでしょ?そりゃインパクト強いって」


 あのニュースとは、ビルの上に佇む海賊船をカメラに映して緊急生放送をしたものだ。

 結局出てきたあの女の子についてはカメラには映らなかった。


「……予想以上に拡散スピードがひどいな……」

「先輩のアカウントで『あれは信憑性のないものだ』って投稿すればいいじゃないですか。先輩、芸能人並のフォロワー数でしょ?」

「あのな、口を閉じていた方が良い時もあるんだってば。変なことを言うと怪しまれる」

「……そうですか……」


 ……警察って、難しいな。


 ____プルルルルッ!

 突然、電話が鳴り出した。僕のスマホだ。

 僕は先輩に一礼し、廊下に出てボタンを押した。

 画面を見ると非通知になっている。


「……もしもし?」

「皇希」

「!?」


 ノイズがひどいものの、誰からの電話かすぐにわかった。


 ヘラだ。

 彼のみが僕のことを下の名前である『皇希』と呼ぶ。


 どういう理由で『そっち』に送ったのかを聞きに連絡を入れたのだろうか?


「……ヘラですか?」

「そうだ。皇希……お前には話しておきたいと思ってな……」

「何でしょうか」

「船は壊れてしまった。もう動かない。皇希、アシリアと話しただろ?だからお前には知ってほしかった。……アシリアが死んでしまったことを」

「なんだって!?」


 思わず大声を出してしまい、ハッとなった僕は左右を見てみる。幸い、誰も聞いていないようだ。


「耳が痛いぞ……。それより、マリフに天体観測ができるか頼んでくれないか?あのタコ足、地球に攻めて来ないとは限らないからな……」

「タコ足?」

「だが、見るときは必ず解像度を下げることだ。本で調べたが、あいつはかなり危険な奴らしい。これはマリフを守るためだ。……こんなことを頼めるのはお前だけだ。だからお願いだ、協力してくれ」


 僕は呆気にとられた。

『今日一日で』こんなに話が変わっていくなんて。それに、ヘラが僕を頼るなんて意外すぎる。


「……珍しいですね。ヘラがそんな声を出すなんて」

「……うるさい」

「もしかして、奥歯噛み締めちゃってます?」

「うるさいってば!」


 音割れするほど叫ぶ。

 ……もしかすると変なことを言ってしまったのかもしれない。


「……ごめんなさい」

「……俺も、ごめん」

「とにかく、僕の課で動いてみます。情報操作は先輩に任せますが、よろしいですか?」

「好きにしてくれ。……マリフにもよろしく伝えておいてくれ」

『ねーねー、ヘラ、誰と話してるのー?』

「あっ、ちょっ、おい、ムジナ!あっち行ってろって言ったのに!」

『だって遅いもーん』


 ムジナくんも元気そうだ。

 今日もヘラと遊んでいるのだろう。


「ふふ、ムジナくん、こんにちは」

『あー、黒池だー!こんにちはー!』

「ったく……そろそろ切るぞ」

『やだー、もうちょっとお話ししたいー!』

「皇希だって仕事中なんだぞ!」

「その仕事中に電話をかけてきた人が言うか」

「だー!もう、うるさい!じゃ、頼んだぞ、皇希!」


 ブツッ……と音を立てて切れる通話。

 僕はスマホをポケットに戻し、部屋に戻った。


「誰だったんだい?」


 先輩は椅子に腰かけ、クルリと回りながら彼のスマホをいじった。


「ヘラとムジナくんです」

「ほう、ムジナくん!久しぶりだね、元気にしてた?」

「はい。もうちょっと電話したいって騒いでましたけどね……」

「電話してもよかったのに。ムジナくんはお兄さんを介してからじゃないと連絡できないからね」

「毎日ヘラと遊んでいますからその辺は大丈夫でしょう。それと先輩、ヘラからお願いがあります」

「ん?」

「実はですね……」


 僕はヘラのお願い事を先輩に話した。もちろん解像度のこともだ。


「天体観測か……外に出ないとできないことだな。囚人の外出は向こうの人の管轄だ。黒池ちゃんや山野くんが行ってくれれば問題ないと思うが……」

「僕から話しておきます。信じてはくれないと思いますが……。マリフが人間ではないことはわかっているようなので大丈夫だと思います」

「そうか。じゃあ行っておいで。そろそろ終わりの時間だから終わったらそのまま帰るといい」

「わかりました。ありがとうございます」


 僕は部屋を出てロッカーに向かう。

 その前に食堂に向かった。


「師匠?いますか?」

「む?どうした、黒池」


 長テーブルの上にたくさんの和菓子が用意されている。その真ん中の席にいたのが僕の師匠であるリスト・ウルム・ラーンだ。

 彼はモグモグと食べながらこっちを見た。


「マリフのところに行きますよ」

「マジで!?えーっと、これは……」

「リストくん、私たちで片付けておくから君は行っておいで」


 師匠にかけられた声の主を見てみると、僕の体は固まった。

 左の男の髪は僕から見て左の髪が白、右の髪が黒で、右の男はその反対だ。二人とも背が高く、顔がいいので女性人気が高い。いいものが二倍ということも理由とされている……らしい。


 彼らは通称「白黒兄弟」と呼ばれている同じ警察官だ。本当の兄弟なので、彼らのコンビネーションは僕でも驚くような隙の無さであり、正確だ。

 しかし上から目線の言動なので、彼らのことをよく思っていない人が多いのも事実だ。僕もその一人である。


 警察はよくペアになることが多く、捜査一課の「日高照夫」と「影中響」のペアは仲が悪いことで有名だ。同級生だが、どうして揃いも揃って警察官になったのかは不明だ。


「「げっ……白黒兄弟」」

「弟子も同じ反応をするなんてさすがですね!」

「うるせぇ。なんでお前らがここにいるんだよ。今は……夕方か。お昼はとっくに過ぎてるぞ」

「お昼は抜きにしたんですよ。誰かさんの客のせいでね」


 思いっきりこっちを見て言い放つ。

 ヘラの言葉が本当なら、今回の仕事は打ちきりだ。犯人がいなければ、死んでしまえば真実は闇の中なのだから。


「じゃあ『片付け』てくれ。甘くて美味しいぞ」

「甘ったるいのは苦手でしてね。じゃ、楽しんでいってください」


 代わる代わる話していた二人が手を振る。

 師匠が振り向いてあっかんべーしてから走って食堂から出ていった。


「なんだよ、感じ悪いな!!」

「あの二人、女の人から人気で毎年バレンタインチョコをたくさん貰っているのにほとんど捨てているらしいですよ」

「えぇ?!甘いのならオレが食べるのに」

「あはは……」


 ブツブツ言いながら師匠は僕のロッカーを開けて帽子を取る。

 僕は鞄を取り出した。




「おっ、黒池じゃん」


 刑務所に到着した。

 刑務所にしては明るく、クリーム色と薄緑の塗装がしてある。クリーム色が上で、薄緑より範囲が広い。


 いつものようにマリフは牢屋の中で発明をしている。この頭脳で建物のセキュリティ向上に貢献している。本人が楽しいと言っているので、ウィンウィンの関係らしい。


 ……前より物が増えている……。


「魔力は大丈夫なんですか?」

「あー、うん。なんとかなってるよ。頭しか使ってないからそこまで減らないし」


 マリフは棒つきキャンディを食べながら返事をする。

 彼女は悪魔であり、カリビアさんの師匠であり、そして並行世界を見ることができるのだ。


「ならよかったです」

「ここに来たってことは何かやってほしいんだろ?言ってみな」

「はい。話が早くて助かります。実は、ヘラに天体観測を頼まれまして……よろしくと言ってました」

「ん?……あぁ、神話生物のことか」

「神話生物……?」


 神話というのであれば、キメラとか蛇女とか……その辺りだろうか。


「クトゥルフとか興味あるか?……いや、その顔を見たところ知らないみたいだな」

「すいません……」

「大丈夫。解像度下げりゃなんとかなるっしょ」


 そう言って工具を取り出すマリフ。

 ヘラと同じことを言っている。

 なら正当な対処法なのだろうか。……だろうか?


「でもよく言わんとしていること、わかりましたね。やっぱり見ちゃいましたか?」

「そりゃね。最近は情報量が多くなってきて頭痛もひどいけど……コントロールはきくようになってきた」

「それは良かったです。それで……どうでしょう?引き受けてくれますか?」


 マリフは黒髪の上にあるゴーグルをいじりながら目を瞑った。自分の頭脳と相談しているのだろう。


 解像度を下げるということは『よくわからないもの』として観測するため。理解してはならないということを指している。何者かを理解してしまった時点でゲームオーバーなのだから、命がけの依頼だということになる。


「……いいよ。その代わり、また美味しい食べ物の情報教えてくれよ。ハンバーガー飽きた」

「……イチゴ味の飴食べればいいじゃないですか」

「普通すぎて面白くないだろ」

「……天才の考えることはよくわかりませんね……」

「あ、じゃあ和菓子持ってきてやるよ」

「よし乗った!連絡はお手製スマホでやってくれ」


「ほいっ!」と投げられた二つのスマホ。

 どこにも会社のマークが無いところ、本当に手作りのようだ。どうやって電波を繋げられるようにしたのだろうか。


「あ、ありがとうございます……?」

「毎日細かく送っていく。近づいてきたり、変な動きがあったら電話するよ。な、良いだろ?看守サンよ!」


 隣で見ている看守が首を縦に振る。

 上の人に聞かずに承認するほどマリフはただ『悪魔なので危険だから牢屋に入れている』という認識になっているのだろう。

 世間は世界間の危険性をわかっていないと如実に表していた。


「……マリフ。気をつけてくださいね」

「アンタこそな。それとリスト!」

「何?」

「これをやるから黒池を頼んだぞ」

「……何これ?」


 鉄格子の間から渡してきたのは、人間界では作れそうにないものだった。

 真ん中にスフィアのようなブニョブニョしたテニスボール大の珠があり、周りを覆うように金色の輪っかが二つ付いている。

 真ん中のものは綺麗な丸ではなく、常に蠢いている。


「魔力抽出装置だ。あのワープ装置を応用して作ってやったんだ、感謝しな。一日の使用量は限られるが、それで魔法が撃てるようになる。イメージしな。イメージすればするほど、強力になる」

「マリフ……!ありがとう!」

「それと黒池」

「はい?」


 マリフがまた後ろを向いてガサゴソと漁る。そして前を向いたとき、その手には紙が握られていた。


「説明書だ」

「……どうして僕に?」

「整備はアンタがするんだよ。こいつは毎日周りの魔力を吸い取って回復する。その魔力は自然を元にしていてな。同じところから吸い取っても次の日には無くなっている。だからリビングで植物を育てたら解決することなんだ。あぁ、上原に頼んでもいいぞ。あいつ、暇してるしな」

「どうして自然なんですか?」

「そんなの簡単だろ」


 マリフはよいしょ、とホワイトボードを取り出した。縦回転するものだ。裏には数式がズラッと並んである。……読めないが。


 本当に何でもあるんだな……。


「シフから聞いたことないか?自然と神秘は比例しているって。自然を壊して物を作ることで人間は科学的なものとして証明していく。自然を破壊し尽くしたら神秘は無くなっちまう。それと反対に神秘の塊である自然を増やしたらどうなる?人間が完全に理解し得ないことが増えるんだ。少しでも神秘が増えると『人間ではない別の生き物』が過ごしやすくなるってことさ」

「……聞いたことあります。神が行ったことを解明してしまい、科学的なものとして発表したことにより人間は信仰を失い、これ以上の進化が見込めなくなってしまったことを……。だから魔界を手に入れようとした、そうですよね?」


 マリフは頷く。

 僕たちが魔界に行った理由はそれぞれ違うが、大きな目的は『魔界を手に入れること』だった。

 それに手を貸したのはマリフだった。だが刑事として動いていた僕とキリルは単独行動を始め、紆余曲折の末、スパイ行為をしていたマリフを逮捕したのである。


「そ。だからだよ。頑張って育てておくれ」

「まったく……人任せですね。わかりました。頑張らせていただきます」

どうも、グラニュー糖*です!

現在、「怪奇討伐部完結直前・pixivと同じところまで進める祭り」を開催しております!

こっちでは表紙を載せられないことが本当に残念ですが、楽しんでいただけると幸いです。

本当はイラストを見て読むほうが良いんですけどね!


なお、pixivからそのままドンしてるのでルビやら何やかんやがpixivのコマンドのままになっている場合があります。それを見つけた際はお手数ですがお知らせしていただくととても嬉しいです。もちろんコメントなどもお待ちしております!


ではでは〜

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