僕の初恋#6
携帯電話にショートメールが届いた。
それは、もう来ることがないと思っていた相手からのものだった。
「先日はありがとうございました。次回のご来館を心よりお待ちしております」
お堅いビジネスメール。
それがさよからのものであることはすぐに分かった。
権田が予約したことを受けて、返信してくれたのだろう。
自分が連絡先を教えれば、たいていの女はその日のうち、長くても次の日には連絡をよこす。
こんなに蔑ろにされたことはない。
いつもなら腹も立つところだったが、今はさよから返信が来たことがただ嬉しかった。
それでも、涼は嬉しくて、何度も同じ文章を読み返した。
涼はメールで返そうか迷ったが、電話をかけてみることにした。
出てくれないかもしれない。
番号を押すだけなのに、心臓が異常なほど音を立てた。
手が汗でじんわりぬれる。
耳元で聞こえるコール音が、やたらはっきりと聞こえた。
3回、4回、5回。
そろそろ諦めようとした時、コールの音がふいに止んだ。
さよが出たのだ。
けれど、さよは話さない。
「もしもし、さよさん?」
僕の声に、さよは「はい」と消え入りそうなほど小さな声で答えた。
「さよさん、切らないで。お願いだから」
自分でも驚くほど切羽詰まった声で、さよは向こうで黙っていた。
「今度、また、会いにいきます」
涼の声に「ご来館をお待ちしています」と、今度ははっきりと答えた。
僕たちの会話はそれ以上続かなくて、暫くの沈黙の後に形式的なお別れを述べて電話が切られた。
なんだかよく分からない電話だった。
ものすごく警戒されていた。
でも、本当に嫌なら電話なんてかけてこないだろう。
それとも、遊んでいる人間だと怪しまれたのか。
それでもさよに会えることと、電話で話せたことで涼は今までにないほどの喜びを感じていた。