僕の初恋#4
あれから10日が経ったが、さよからの連絡はなかった。
僕は基本的にマメではない。
携帯電話を忘れてもさほど気にしないタイプだ。
マネージャーが管理してくれたし、飲みたい時にいつもの店に行けば誰かに会えた。
だからいつも、携帯電話の意味が無いと言われた。
彼女が出来たって、シビレを切らした相手が来るから、こっちから連絡なんてたいして興味も無かった。
それなのに。
こんなに肌身離さず携帯電話を持ち歩くことなんて。
一度、現場に持ってくるのを忘れた時は頼み込んでマネージャーに取りに行ってもらったほどだ。
相当怪しんでいたけれど。
メールが来るのたびに、ショートメールが来たかもとぬか喜びし、着信のたびに一人で色めき立っては落とされた。
もしかして、さよは僕にからかわれていると思われたかもしれない。
それとも、軽い男だと思われただろうか。
あんなに美しい人だから、もう心に決めた人がいるのかもしれない。
考えれば考えるほど、気持ちが落ちていく。1日の何割、さよのことを考えているだろう。
ドラマや雑誌の撮影が終わると、僕の心はいつの間にかさよの元へ飛んでいた。
休憩中に空を見上げれば、この空は彼女の元へ続いているのだろうかと雲を追ってしまう。
仕事帰りに月を見ればあの日の、たった一度きり会ったさよの顔を思い浮かべた。
いつからこんなセンチメンタルになったのかと、自分で突っ込みたくなるほどだ。
自嘲気味に笑ったり、他の女の子でもいいじゃないかとヤケになってみても、やっぱりさよを思い浮かべていた。
それからさらに1週間経った。
やはり、さよから連絡は無かった。
撮影の合間、ぼんやりしている僕の隣へマネージャーの住田が座り込んだ。
「元気ないけど、何かあったか?」
住田は僕より17才年上で、情に厚い兄貴分だ。
その昔、俳優を目指していたが芽が出ることは無かった。
しかし、優秀な男で社長が見染めて社員となり今に至る。
「何でもないです」
僕の答えにガハガハと大きな笑い声を立てながら、冷たい缶コーヒーをくれた。
「失恋か?」
「違います」と即答したが、僕の気弱な部分が「今のところは」と追っかけるように呟いていた。
「どうした。お前にしては珍しい。ま、こればっかりは俺でもどうにもしてやれないからな。頑張るんだぞ」
そう言うと僕の背中を勢いよく叩いて去っていった。
もう一度会いたい。
そして、自分の気持ちが本当なのかを確かめたかった。
このままでは、終わってしまうだろう。
もう一度、さよに会う。
僕は心に決めた。