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検索履歴

作者: 村崎羯諦

 毎週欠かさずに見ている刑事ドラマが終わり、妻がパジャマを手に浴室へと向かっていった。その姿を視界の隅で見送った後で、先程まで妻が座っていたソファに、ロックが解除されたままのスマホが無造作に置きっぱなしにされているのに気がつく。


 浴室から妻が湯を浴びる音が聞こえてくる。彼女は長風呂で、最低でも二十分は出てこない。俺の頭の中で悪魔がささやく。ちょっとだけ、ちょっとだけならいいだろう。押さえがたい誘惑に屈し、俺はゆっくりと妻のスマホに手に伸ばす。後ろめたさに内心ドキドキしながらも、俺は妻のLINEをチェックしてみる。しかし内容はというと、俺との事務的なやりとりや、会社の同僚との愚痴、女友達のたわいもない会話ばかり。テレビドラマでよくあるような不倫を匂わせるようなものは何一つ見当たらない。安堵しつつも、俺は携帯をいじり続ける。そして、ふと、ネットの検索履歴を調べてみようと思い立つ。ブラウザアプリを起動し、検索履歴画面を開く。


『東京都 山 静か』

『東京都 山 車で行ける』

『東京都 山』


 一番新しい検索履歴は東京都の山についてだった。どこか自然を感じに旅行にでも行きたいのだろうか。確かに結婚してからというもの、海や山といったところに二人で旅行に行くということもない。今度、仕事が落ち着いた時にでも提案してみるのもいいかもしれない。


『寝袋 大人用』

『寝袋』


 きっと山へキャンプに行きたいのだろう。あまりアウトドア好きというタイプではないので、妻の知らない側面を見たようで少しだけ意外だった。


『カーペット 洗浄 自宅』

『カーペット よごれ 自宅』


 先ほどまでまでの履歴から打って変わり、生活臭のする検索履歴が並ぶ。最近買い替えたばかりのカーペットだから神経質になっているのだろうか。しかし、リビングに敷かれたカーペットを自宅で洗うのは大変なんだから、クリーニングに出せばいいのにと心のなかで突っ込む。


『刑事ドラマ トリック』

『刑事ドラマ 犯人』

『刑事ドラマ 現実』


 次に妻が検索していたのは、今ハマっている刑事ドラマについてだった。以前はあまり好きではないといっていたのに、今ではテレビの画面を食い入るように視聴している。人の趣味嗜好というのはわからないものだと一人感慨にふける。


『犯人 捕まらない』

『未解決事件 割合』

『未解決事件 時効』


 さらに刑事ドラマ関係の文字が並んでいく。刑事ドラマにハマっているから、周辺にある色んなワードが気になっているのだろうと勝手に納得する。あることにハマりだしたら色々なことを知りたくなるというのは少しだけ共感できた。しかし、そこでふと、俺はあることに気がつく。


『包丁 よく切れる』

『包丁 廃棄』

『包丁 凶器』


 検索履歴は新しい順に並ぶのだから、刑事ドラマにハマって、それから刑事ドラマ関係の単語を調べたのであれば、履歴に並ぶ順番は逆になるべきじゃないだろうか。


『一般男性 失血死 何リットル』

『一般男性 首 急所』


 今までの検索履歴が頭の中を駆け巡っていく。胸がざわついていく。これ以上先は見てはいけないと俺の理性が警告する。俺は生唾を飲み込む。呼吸を整え、ゆっくりと画面をスクロールし、俺は一番下に表示された検索履歴を確認した。


『夫 殺したい』

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