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第97話 見え透いた罠

もう少し展開を進めなかったけど、力尽きたので次回に持ち越し

 あの日から俺は、この世の春を謳歌していた。見せしめの公開処刑は想定以上の効力を発揮し、俺の悪評はあっという間に治まった。王も王子もすっかり大人しくなり、俺に反抗はおろか意見することもなくなった。だが、俺の存在は兵士たちに秘されたままで、城内を歩き回ることもままならなかった。兵士たちに自分の存在を悟られないように、こそこそと行動しなければならなかったのだ。

 そんな不自由な生活を強いられた俺は状況は打破すべく、王にある要求を持ちかけた。特別戦力として俺をベシスに常駐させるというものだ。内外の敵から国を守る代わりに、衣食住を保証する。王からの直々の依頼でという大義名分があれば、俺の存在は公のものとなり、堂々と城内を歩き回れるという寸法だ。(我ながらナイスアイディア。さすがは俺だ)

 結果、王は要求を承諾し、俺は正式にベシスの傭兵となった。こうして国の後ろ盾のもとに晴れて自由を手に入れた。食べたい時に食べ、眠りたい時に眠る悠々自適な生活。豪勢な食事、高級なベッド、国中の美女……。俺はそれらを存分に堪能した。

 こう書くと俺だけが一方的に得をしているように思うかもしれないが、それは大きな間違いだ。この話はベシスにとっても大きなメリットがある。俺の存在によって、ベシスには絶対の平和が保証されるのだ。

 この世界中のどこを探しても、俺に敵う者は存在しない。魔王も俺の敵ではなかった。唯一、魔王を討つために共に戦った二人の仲間だけは、俺に匹敵し得る力を持っていたが、奴らはもういない。俺と対等に渡り合える者は、もうこの世界にはいないのだ。例え世界中の人間が束になってかかってきたとしても、俺を倒すことは不可能だ。それ程までに力の差は明白なのだ。

 ベシスと戦うということは、俺を敵に回すということだ。負けると分かって戦を仕掛ける馬鹿はいない。俺はいる限りベシスに手出しをする者はいなくなる。つまり俺は抑止力というわけだ。俺は平和を守り、国はその報酬を支払う。これは決して一方的な搾取などではなく、互いの利益を尊重した対等な契約なのだ。

 こうして武力のみならず権力をも手にした俺は、名実共にこの世界で最強の存在となった。もはや誰も俺には逆らえない。最強であるこの俺に盾突こうなどと無謀な考えを起こすのは、よっぽどの愚か者だろう。だが、いつの世にもそういう愚かな人間はいるものだ。

 あの日からどういうわけか、エトンは大人しく俺に従うようになった。仲間が死んで相当がっくりきているはずだが、落ち込んでいるような素振りはまるで見せなかった。普通なら諦めがついたのだろうと考えそうなところだが、俺にはそうは思えなかった。

 俺の知るエトンは、直情的な堅物だ。そう簡単に仲間の死を受け入れられるような性格ではない。あの従順な態度も不可解だ。あいつは仲間が死んだからと言って、大人しく従うような物わかりのいい人間じゃない。怒りに身を任せて襲い掛かってくる方がよっぽどあいつらしい。あの態度は何かを企んでいると考えて間違いない。大方、俺に忠誠を誓った振りをして、何かコトを起こそうという魂胆だろう。まったく分かりやすい奴だ。この期に及んで俺に反抗しようなどと、愚かとしか言いようがない。しかし俺はその愚かな勇気に免じて、エトンが行動に出るのを温かく見守ることにした。企みを叩き潰すのは簡単だが、俺を出し抜こうと必死に努力していると思うと、いじらしくさえ感じられた。ここは思いっきりやりたいようにやらせてやろう。そしていつか気付くだろう。それが全て無駄な努力であることに。どう足掻いても俺の力には決して勝てないという事実に。

 そんなある日、俺は王からある話を聞いた。何でもシゼに野盗が住み着き、近隣に被害が出ているらしい。そこで王は野盗狩りのために、数名の兵士をシゼに向かわせた。だが、何日経っても兵士は戻ってこなかった。おそらく返り討ちに遭ったのだろう。野盗を狩るつもりが、逆に狩られてるんじゃ世話ないぜ。

 戻らぬ兵士に業を煮やした王は討伐隊を結成し、再びシゼに兵士を送り込んだ。しかし結果は同じだった。兵士は一人として戻ることなく、討伐隊は消息を絶った。この世界の兵士は、盗っ人にすら劣るのか? まったく笑えるぜ。そりゃあ魔王に手も足も出ないはずだ。

 冷ややかな感想を抱く俺とは対照的に、事態を重く見た王は解決のために俺に白羽の矢を立てた。


「……チッ」

 ガタガタと揺れる馬車の中で、俺は軽く舌打ちをした。次々に兵士を失い打つ手をなくした王は、俺に野盗退治を命じた。最初は「そんなことのために力は使えない」と断るつもりだったが、王は"契約"を利用して、俺にシゼに向かうように迫った。


『我が国は其方を特別戦力として受け入れた。であるならば、このような時こそ戦うのが道理であろう。よもやあれだけの贅を享受しておきながら、戦わないなどと言うつもりではあるまいな? 今まで其方を養っていたのは、肥え太らせるためではない。有事の際に存分に力を振るってもらうためだ。余は穀潰しを抱えるつもりはない』


 俺は王に浴びせられた言葉を思い返した。偉そうに言いやがって。今、思い出しても腹が立つ。プライドを大いに傷付けられた俺は、半ば追い出されるような形でシゼへと向かうことになった。

(大体、あの言い草は何だ? あれが人に物を頼む態度か? そもそもの問題は、野盗ごときに手を焼いているテメェのところの兵士だろうが! よくもまぁ、あんな偉そうな口が利けたもんだ。クソッ! 戻ったら覚えてやがれよ。偉そうにできる立場じゃないってことを思い知らせてやる)

 俺は心の中で呪詛の言葉を吐いた。そのおかげで少しだけ気が晴れた俺は、向かいに座っている人物に目をやった。

 その人物は祈るように組んだ手を額に当て、黙り込んでいる。静かで落ち着いた様子だが、その瞳からはギラギラと燃えるような決意が見え隠れしている。ついに行動に出る決心がついたようだ。相変わらず考えていることが筒抜けだ。あまりの分かりやすさに、俺は思わず苦笑した。

 どこからか話を聞きつけたエトンは、野盗退治への同行を申し出た。「誰かが困っているのを見過ごすわけにはいかない」と述べていたが、それが表向きの理由であることを俺は見抜いていた。どうせ野盗との戦いに乗じて、俺に不意打ちを仕掛けようという魂胆だろう。まともにやり合って勝つ見込みがない以上、取るすればそれしか考えられない。

 俺がエトンの裏切りを予期しながら今回の野盗退治への同行を許可したのは、力の差を思い知らせるためだ。エトンは俺への不意打ちを狙っているようだが、その目論見は確実に失敗するだろう。何故なら不意を突く暇など存在しないからだ。例え野盗が何頭いようと俺の力を持ってすれば、一瞬で片が付く。時間にして物の数秒だ。

(計画が失敗に終わった時、こいつはどんな反応をするだろう? きっと絶望に苛まれて、今度こそ真の服従を誓うに違いない)

 ガタガタと揺れる馬車の中で、俺は一人ほくそ笑んだ。


 シゼに着いた俺たちを待っていたのは、静寂だった。野盗などどこにも見当たらない。馬車の中でしばらく待機してみたが、野盗が襲って来る気配はまるでない。

「……っんだよ。野盗なんてどこにもいねーじゃねーか! とんだ無駄足だったな」

「待ってください。戻るにはまだ早いんじゃないですか?」

 引き返そうとする俺を、エトンが引き留める。

「何も出ないんじゃ、どうしようもねーだろうが。他に何をしろってんだよ?」

「確かにここには討伐対象はいないようです。ですが、実際に兵の皆さんが失踪している以上、この地で何かが起きているのは確かです。それを調べる必要があるのではないでしょうか?」

 いつになく饒舌なエトンを見た俺は、すぐに気が付いた。こいつは俺を誘い込もうとしている。見え透いた罠だ。そこで俺は敢えて、エトンの話に乗ってやることにした。完璧な絶望を見せつけてやるために。

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