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第84話 騙し合い

勇者がどんどん魅力のない悪役になっていく

「噂の出どころに仕立て上げる?」

 王は思わず、勇者の言葉を繰り返した。

「証拠がないと民衆は王であるあんたの話を信じない。なら、証拠があれば信じるってことだろ?」

「そう単純な話では……」

「単純な話さ。民衆なんてもんはちょいと道筋を立ててやれば、あっという間にそっちに流れる。要はお墨付きを与えてやるのさ。『こいつは悪だから、いくら叩いても構わない』っていうな。そうすりゃ、民衆は俺のことなんかすぐに忘れて、悪者叩きに夢中になる」

「……魔王の次はあの者に責任を擦り付けるというわけか」

「身も蓋もない言い方をすればその通りだ。ただ……よく考えてくれよ、王様。こいつはあんたにとってもそう悪い話じゃないんだぜ?」

 勇者はくつくつ笑ったかと思うと、真剣な顔をして王を真っ直ぐに見据えた。そして続ける。

「あんたは俺を殺そうとした。到底、許せるもんじゃあない。それを俺の()()()()に協力してくれるだけで、水に流そうと言ってるんだ。こんな破格な条件はないぜ? 身の振り方をよーく考えなよ、王様。あのアレンとか言うガキ一人を差し出せば、全て穏便に済むんだ。もし協力を拒めば、どうなるか分かるよなぁ?」

「……どうなると言うのだ?」

 王は敢えて勇者の質問には答えず、何も分からないという素振りで尋ね返した。それは言わば答え合わせだった。

 今までの僅かなやり取りから、王は勇者の性格を分析していた。勇者は人攫いの責任を、魔王に擦り付けていた。そしてそのことに対して、罪の意識や良心の呵責を抱いているような素振りはない。勇者から感じるのは、今まで築いてきた地位への固執と、それを奪った者に対する怒りと憎しみだ。

(この者は……虚栄心の塊だ。地位を守るためなら、他者を利用することも厭わない。そして疑い深く執念深い。その反面、詰めが甘い。碌な人間では……)

 心の中でそう言いかけて、王はふと気が付いた。

「その時はあんたを殺すまでだ」

「……ふっ」

 勇者が答えると同時に、王は嘲るように鼻で笑った。

「……何がおかしい?」

 その態度を侮辱と受け取った勇者は、不快感を露わにして尋ねる。

「なに、こちらの話だ。別に其方のことを笑ったわけではない」

 王はそう言って勇者を宥めた。その言葉通り、王は勇者の言葉を笑ったわけではない。

 今回の一件で王はアレンたちを疑いながら、世界の覇権を手にするために彼らを利用した。その結果、得たのは覇権ではなく窮地だった。もし欲目を出さずに静観を決め込んでいれば、勇者が城まで乗り込んでくることもなかっただろう。全ては自分の見通しと詰めの甘さが招いた事態だ。

(虚栄心の塊で他者を利用することも厭わない。そして疑い深い反面、詰めが甘い。……まるで余のことではないか)

 王は勇者への寸評がそっくりそのまま自分に当てはまることに気が付き、その皮肉さを笑ったのだ。

(国のためも私欲のためも結局は利己……。余とこの者は同じ穴の狢というわけか)

 そう思うと、可笑しくて仕方ない。自嘲的な笑いがこみ上げてくると同時に、王の頭にはある一つの考えが浮かんできた。勇者と自分が同じということは、つけ入る隙があるということではないか? 王は考える。

(余は口車に乗る形であの帽子の男を利用した気でいたが……実際はあの男に踊らされていたに過ぎない。奴は勇者と戦うために、言葉巧みに余を利用したのだ。そして……()()()もまた余を欺き利用した。勇者は世を欺き、あの者は余を欺いた。ならば、余は勇者を欺く。勇者の嘘から始まったこの騙し合い、終わらせるにはやはり嘘こそ相応しい。しかし……余の力だけでは心許ない。勇者を欺き通すには、あの者の知恵が不可欠だ)

 そう考えた王は、如何にも追い詰められたような顔をして勇者に尋ねる。

「……本当にあの者を差し出せば、今回の件は水に流してくれるのだろうな……?」

「あぁ、もちろん。約束は守るぜ」

 王の問いに勇者はニヤリと笑い、調子よく答えた。だが、王はその言葉を信じてはいなかった。自分が嘘を吐いているのならば、勇者もまた嘘を吐いている。王はそう直感していた。

「一つ聞かせて欲しい。何故、あの者なのだ?」

「あの野郎は俺に生意気な口を利きやがったからな。それに奴は俺に強い恨みを持っている。あの手の輩はほっとくと何をしでかすか分からない。早めに処理するに限る。後はあんたらへの警告だ」

「……警告?」

「これから先、俺に盾突いた奴はあいつと同じ運命を辿ることになるだろうぜ」

「つまりは見せしめということか……。分かった。貴殿の要求に従おう」

 王は低い声で唸ると、苦渋の決断で勇者の要求を呑んだ……()()()()()


 アレンは一人、途方に暮れていた。勇者に手も足も出ずに敗北を喫し、ガラルドを犠牲にして逃げ延びたという事実は、アレンの心に重くのしかかった。

 彼を苦しめていたのは、敗北と仲間の死だけではない。アレンが今置かれている状況もまた、彼を追い詰めていた。今アレンはベシス城の地下牢に閉じ込め垂れていた。

 兵士たちと共にベシスまで戻って来たアレンとエトンの二人は、クリフの指示により例の客間で待機していた。それからしばらく後、物々しく兵士たちがやって来たかと思うと、アレンは身柄を拘束され、口を開く間もなく地下牢へと押し込まれてしまった。まさに一瞬の出来事だった。

(一体、何がどうなってるんだ……)

 口を開く気力もなく、アレンは心の中でつぶやいた。

「ハハッ! 無様な姿だな。この間の威勢はどうした?」

 その時、アレンを煽る声が響いた。神経を逆撫でする聞き覚えのある声。顔を上げると、鉄格子の先にニヤニヤと見下すような笑みを浮かべた勇者が立っていた。

「なっ……! 何でお前がここにいるんだぁぁぁ!!」

 勇者の姿を見た瞬間、アレンの中に再び怒りの炎が燃え上がった。衝動的に勇者へと詰め寄るが、鉄格子に阻まれアレンの怒りは届かない。それを見た勇者は、楽しそうにアレンを挑発する。

「ほらほら、どうした? 家族の仇が目の前にいるんだぞ? 見ているだけでいいのか? まぁ、牢屋の中じゃあ手も足も出ないか。あの大男と一緒だな」

「大男……?」

 勇者の言葉にアレンはピクリと肩を震わせる。

「お前のお仲間だよ。かっこつけてた割には情けない最期だったぜ。散々悪あがきをしてくれたが、結局俺に手も足も出ずに死んじまったからな」

「が、ガラルドさん……。よくも……! よくもぉぉぉぉ!!」

 アレンは怒りに身を任せて両手で鉄格子を握り締めると、あらん限りの力でガシャガシャと揺り動かした。しかし冷たい金属音が響くばかりで、それ以上のことは何も起こらない。当然だ。素手で鉄格子をこじ開けるなどできるはずがない。

「ハッハッハ! まるで動物園のチンパンジーだな!」

 勇者はアレンを揶揄すると愉快そうに高笑いをした。アレンはしばらくの間ガシャガシャとやっていたが、やがて観念したかのように動きを止めて勇者を睨みつけた。

「どうして……お前がここにいるんだ……」

 アレンは低く唸るような声で勇者に尋ねた。

「ちょっと野暮用があってな。それが済んだから、ついでにお前の様子を見に来たんだよ。元気そうで安心したぜ。何しろお前がいないと、この話は成り立たないからな」

「今のこの状況もお前の仕業か……。俺をどうするつもりだ?」

「お前には俺の評判を落とした落とし前をつけてもらう」

(落とし前……)

 その言葉から、アレンは勇者が何を考えているかを予想する。答えを出すのにはそう時間はかからなかった。

「……俺に責任を被せて潔白を主張するつもりか。つくづく卑怯な奴だ」

「その通りだ。察しがいいな。それとも、あの狸オヤジに聞かされたのか?」

 勇者の何気ない返答を聞いたアレンは、再び思案する。

(狸オヤジ……おそらく王のことだろう。この口振りからすると、王とはもう話はついているみたいだな……)

「まっ、どっちでもいいや」

 勇者はそう言うと、くるりと背を向けて出口へと歩き出した。

「ま、待てっ! 話はまだ……!」

 アレンは慌てて勇者を引き留めるが、勇者は振り向きもせずに出て行った。地下牢に一人残されたアレンは、再び途方に暮れるのだった。

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