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第80話 提案

アレンの台詞が炭○郎みたいになっちゃった

 打倒勇者のために揃えたベシスの精鋭たちは、勇者の圧倒的な力の前に為す術もなく瓦解した。自らの勝利を確信した勇者は、意気揚々と話を続ける。

「俺は魔王から大勢の人間の命を救ってやったんだぜ? 感謝はされても恨まれる筋合いはないはずだ。確かに俺の行いで傷付いた者もいたかもしれない。だが、何も人を殺したわけじゃないだろ?」

「『人を殺したわけじゃない』……だと……?」

 その一言に、アレンはぴくりと肩を震わせた。

「……本当に誰も殺していないと言うのか……?」

「まぁ、誰も殺していないと言うのは語弊があるな。確かに俺は戦いの中で魔王の手先を何人も殺した。だが、奴らはこの世界の支配しようとしていた悪だ。仕方ないだろ? 悪は滅ぼさねばならない」

「……なら、俺の家族や村の人たちは全員悪人だったとでも言うのかッ!!」

 突然激昂したアレンを、勇者は訝し気に眺める。

「どこかで見た顔だな。確か……何とかいう村の生き残りだったか?」

「ティサナだ! 俺はお前が焼き払ったティサナ村の唯一の生き残りだッ!」 

 アレンは叫ぶ。

「俺の家族はお前に焼き殺された! 妹はお前に連れ去られた上にシゼ城で惨殺された!! どうして俺の家族が殺されなきゃならないんだ!? 魔王とは何の関係もないただの村人だったんだぞ!」

「おいおい、ちょっと待てよ。お前の村に火を放ったのは魔女で、お前の妹を殺したのは魔族だ。俺は直接手を下したわけじゃないし、命令もしちゃいない。あいつらが勝手にやったことだ。まさかあいつらがそんなことをしていたなんて、俺も知らなかったんだよ」

「嘘を吐くなッ! お前は妹を攫った証拠を消すために、村に火を点けたんだ! 俺の弟はそれを止めようとして命を落とした! 魔女と魔族もそう言っていたぞ!」

 アレンの叫びに、勇者は苦い顔をした。その表情からは怒りと不快感が見て取れた。

「……やっぱりあいつらが喋ったのか。そうでなければここまでたどり着くはずがないからな。それで……あいつらはどうした? 姿が見えないようだが」

「奴らは死んだ」

「は?」

 予想外の返答に、勇者は素っ頓狂な声を上げる。

「死んだだって? まさかお前らがやったんじゃないだろうな?」

「俺たちはお前らの秘密を突き止めた。それに気付いたお前の仲間たちは、俺たちを殺そうとした。だから倒した」

「まさか、あいつらがやられるとは……にわかには信じられんな」

 勇者は唸るようにつぶやくと、腕を組んで何事かを考え始めた。そして何かを思い付いたらしく、いやに晴れやかな顔で口を開いた。

「そうか……あいつらは死んだのか。しかしまぁ、そういうことなら仕方ない。お前は家族を失って、俺は仲間を失った。つまりはこれでおあいこってわけだ。ここはお互い痛み分けってことで手を打とうじゃないか」

「……は?」

 予想外の勇者の提案に、今度はアレンが素っ頓狂な声を上げた。

「あいつらは人を殺し、その報いを受けた。罪を犯した者はそれを償わなければならない。残念だが仕方ないことだ。俺は仲間の罪を認め、お前の罪を赦そう」

「俺の罪……だと……?」

「お前は俺の仲間を殺したんだろ? これが罪じゃないなら何だってんだよ」

「……だったら、お前が犯した罪はどうなるんだ?」

「確かに俺もまた罪を犯した。だが、ちょっと待って欲しい。それは命を持って償わなければならない程の重罪なのだろうか? さっきも言った通り、俺は魔王を倒して多くの命を守った。その功績に比べれば、俺が犯した罪の重さなんて微々たるものだと思わないか?」

 勇者の身勝手な理屈にアレンは言葉を失った。一見筋が通っているように思えるが、単に責任から逃れようとしているだけに過ぎない。アレンは勇者に問う。

「……つまり、魔王を倒した見返りに見逃せと言いたいのか……?」

「いや、そうは言ってない。俺はただ、『殺されなきゃならない程の罪を犯したのか?』と聞いているだけだ。俺は世界を守るために、仕方なく多くの命を奪った。だが、俺が手を汚さなければ、もっと大勢の命が失われたことだろう。それに比べてお前はどうだ? 復讐のために人を殺すのが正しい行いだとは俺には到底思えない。だからこそ、もうこれで終わりにしようと言っているんだ」

 勇者の提案に、アレンは愕然とした。こいつは何を言っているんだ? 本を正せば、こいつの行動が全ての始まりだろう? こいつが村を訪れなければ、故郷を燃やされて両親が死ぬことも、弟が命を失うことも、妹が無惨に殺されることもなかった。それを「もうこれで終わりにしよう」だって? どの口が言うんだ? 何様のつもりだ? こいつは一体、何なんだ?

「俺を殺してもお前の家族は戻ってこない。多少は気が晴れてもそれで終わりだ。これ以上、罪を重ねるな」

 勇者の言っていることは概ね正しい。だが、あまりにも空虚でまるで心に響かない。それはその言葉が実体のない言い逃れの詭弁だからだ。

 怒りで鼓動は早まり、呼吸はヒューヒューと浅くなる。アレンは体を震わせながら、どうにか声を絞り出す。

「ふざけるなッ……! 俺は必ずお前を殺す……! この手で必ず家族の無念を……!」

「もし今のお前を見たら、その家族は何と言うかな?」

 アレンの言葉を遮るように、勇者は言った。

「なん……だと……?」

 勇者の口にした「家族」という単語に、アレンは思わず反応を示した。

「復讐心に囚われた今のお前を見たら、家族はきっと悲しむぞ。そしてこう言うはずだ。『私たちのことはもう忘れて、自分の人生を生きなさい』……ってな。もう止めろ。復讐なんて虚しいだけだ」

 勇者の言葉を耳にした瞬間、アレンは全身の血が沸騰したような感覚に陥った。アレンにとって勇者は家族を失う原因の発端であり、憎むべき仇だ。その仇が悪びれた様子もなく、家族の言葉を()()()いる。それは家族に対する侮辱以外の何物でもない。

(お前が俺から家族を奪ったんだろうが! お前がいなければこんなことには……! お前が……お前が……お前が……お前がッ!!)

「お前がッ!! 俺の家族を……語るなぁぁぁぁ!!!!」

「まァ、少し落ち着けヨ。そうカッカしてたンじャ、いい考えも浮かばねェだろ。センセーがそンなに感情的になッたコトがあッたか?」

 怒りの絶叫が響き渡る中、低く太い声がアレンを制した。声の主はアレンの肩をポンと叩くと、勇者の前へと進み出た。

 声の主はガラルドだった。先陣を切って勇者に向かっていったはずのガラルドだったが、勇者が巻き起こした颶風(ぐふう)によって、いつの間にか遥か後方まで吹き飛ばされていたのだ。

「コトを起こした張本人が、『復讐なんて虚しいだけだ』ときたか。なかなか面白い冗談だ。だが、笑えねェな」

 そう言うとガラルドはいつになく真剣な表情で勇者を睨みつけた。

「別に冗談を言ったつもりはないんだがな」

「なら、本心か? ますます笑えねェ」

 ガラルドは吐き捨てるようにつぶやくと、剣を構えて勇者に突きつけた。勇者は不敵に微笑む。

「力の差を見せつけられても怯まないとはな。その度胸に免じて、せめて苦しまないようにすぐに楽にしてやろう」

「俺らを皆殺しにするつもりか?」

「初めは見逃してやろうかとも思ったが、気が変わった。お前らに生きていられると色々と都合が悪いんでね」

 勇者はガラルドの後方のアレンを一瞥する。

「特にあの俺をひどく恨んでいる奴。ああいう奴は放っておくと何をしでかすか分からん。火種は早めに消しておくに限る」

 勇者はそう言うと、すらりと剣を抜いた。その瞬間、とてつもない威圧感がガラルドを襲う。

(コイツは……)

 剣を構えた勇者の立ち姿を目にしたガラルドは思案する。

(コイツは本気で俺らを全員消す気だ。もしそうなったら、今までの苦労も犠牲も全て水のアワ……。今ここで一番重要なのは、"反撃の目"を残しておくコトだ。そのためには……)

 思案を終えたガラルドは、勇者に話を持ち掛けた。

「なァ、ひとつ提案があるンだが……聞いちャくれねェか?」

「何だ? 命乞いか?」

「いいヤ、そうじャねェ。俺らを始末するにしても、この人数を一人で相手するのは骨が折れるだろ? もッと手ッ取り早くケリをつけるイイ方法があるンだヨ」

 意味有り気なガラルドの台詞に興味を抱いた勇者は、ガラルドに尋ねる。

「……何だ? その方法というのは」

「一騎打ちしヨうゼ。俺とアンタの二人でヨ」

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