表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/131

第76話 次の手

登場人物が増えると台詞の書き分けに苦労する

「で、その『やるべきこと』ッてのは、何なンだ? モチロン、これからどうやって勇者のヤローと戦うかッてのは予想はつくが……。王子サマをこの場に連れてきたのも、何か関係があるのか?」

「もちろんありますよ。アルフレッド殿下には、魔族を倒して勇者の秘密を暴いた英雄として俺たちに協力してもらいます」

「魔族を倒した英雄だァ? 確かに王子サマは俺らと一緒に戦ッたが、魔族を倒したのはアレン、お前じャねェか」

ガラルドの言葉に、アレンは首を振る。

「事実はそうかもしれません。でも、現実はそうじゃないんですよ」

「どういうコトだ?」

「今の都の様子を見てください。俺たちが魔族を倒して女性たちを救い出したことで、勇者の悪事は広く知れ渡りました。そして人々は、戦いに参加したアルフレッド王子を英雄ともてはやしています。人々にとってそれが真実なんですよ」

「でもヨォ、実際に魔族を倒して手柄を立てたのはお前だろ? お前はそれでいいのかヨ?」

「どうだっていいですよ、手柄なんて。俺の目的はあくまで勇者を討つことですから。それに、その方が都合がいいですからね」

「都合がいい……と申しますと?」

 話を聞いていたエルダが口を挟んだ。

「俺なんかよりこの国の王子様が魔族を打ち破った方が感動的じゃないですか。現に人々は王子が魔族を倒した英雄だと信じて盛り上がっています。英雄である王子が勇者と戦うことを宣言すれば、人々はその選択を支持するでしょう。俺にとっても、今の状況はすごく都合がいいんですよ。ベシスが国を挙げて勇者と戦ってくれるのなら、こんなに心強いことはない。もし俺が魔族を倒した張本人だと名乗り出たら、この熱狂に水を差すことになりかねません。俺にとって、勇者を倒して仇を取ることが全てなんです。それさえできれば、手柄や名誉なんてどうだっていい」

 アレンは冷たく澄んだ力強い声で、はっきりとそう断言した。

「お前の考えはヨくワカッた。それで、具体的にはこれからどうするつもりなンだ? いくら王子サマと民衆が勇者との戦いを声高に叫ンでも、王サマが判断を下さない限りはコトは動かないハズだゼ。何たッてこの国は()()()()()だからな」

 皮肉めいた口調で、ガラルドはアレンに尋ねた。それはアレンに対してではなく、アルフレッドととりわけクリフに対して発したように感じられた。

「私たちが頼めば、王様も力を貸してくれるのではないでしょうか? アレンさんたちは今まで勇者たちと戦って勝利を収めてきた実績がありますし、勇者の裏の顔を暴いたのもアレンさんたちです。それに……今回の魔族との戦いで私たちは無事に王女様をお救いしたじゃないですか? 王様だって私たちに恩義を感じているはずです。きっと快く協力を……」

「……いや、それはどうだろうか」

 エトンの話を遮るような形で、アルフレッドが口を開いた。

「確かに父上は少なからず其方らに感謝していることだろう。其方らのおかげでマーガレットの所在が分かり、無事に救い出すことができたからな。その上、()()()殿()の妹君は、マーガレットの命の恩人だ。もし妹君がいなければ、マーガレットは今頃……。無論、私も深く感謝している。私個人の意見としては、勇者を討つために最大限できる限りの助力をしたいと考えている。ただし――」

 アルフレッドはそう言って一旦、話を区切った。一同はアルフレッドの次の言葉を待つ。

「これはあくまで私の考えであり、父上も同意見とは限らない。以前話した通りに父上は冷徹なお方だ。マーガレットのことを感謝しているからと言って、力を貸してくださる保証はない。戦いとなれば、我が国の今後を左右することになるからだ。恐らく父上は、積極的に勇者と関わらないという方針を固持するだろう。そもそもシゼに兵を送ったのは、勇者に連れ去られた女性たちを救い出すという名目だったはずだ。結果的に魔族と交戦することにはなったが、父上は最初から表立って勇者と争う気はなかったのだ。そして、勇者が直接領土に攻め込みでもしない限り、その姿勢は変わらない。()()()()もなくなってしまったからな」

「お姫サマが無事に戻ッてきたから、これ以上勇者と()り合う理由はない。後は好きにヤッてくれッてか? こッちは命懸けで戦ッたッてのに、薄情なモンだな」

「仕方ありませんよ。一国の主と平民じゃ、見えているものは違いますから。俺たちにとって大事なものでも、王様にとっては取るに足らない小さなことなんですよ」

 不服そうにぼやくガラルドに、アレンは冷たく言い放った。皮肉めいた内容だが、その口調は素っ気なく、非難の意図は感じられない。

「それじゃあ、これからは私たちだけで勇者と戦うつもりですか……?」

「そうできるなら一番いいけど、多分それは難しいだろうな」

 不安そうに尋ねたエトンに、アレンは答える。

「俺たちは今まで女神、魔女、魔族と戦ってどうにか勝利を収めてきた。でも、それらは全てギリギリの勝利だ。俺たちが勝てたのは奴らが油断していたからというのが大きい。それに運が良かった。本来の力の差を考えれば、俺たちが奴らを打ち破るなんて到底無理なんだ。現に俺たちは多くの仲間を失った。これまでの勝利はその犠牲の上に成り立っているんだ。こうして生き残れたのもたまたま運が良かっただけで、一つ間違えば命を落としていたのは俺たちの方だったかもしれない」

 アレンの言葉にアルフレッドは深く頷き、同意を示した。

「確かに……魔族の力は凄まじかった。死者を操って戦わせるなど、実際にこの目で見た今でも信じられん。まさに人智を超えた力だった。その魔族を配下に置いていたということは、勇者も相応の力を有していると考えるべきだろうか?」

「はい、そう考えて間違いありません。実際に勇者は魔王軍を倒していますから。それも各国が魔王軍の力に手も足も出ずに苦戦する中、勇者は僅か数十日でそれを成し遂げています。そう考えると、少なくとも魔王以上の強さであるということは確実です」

「サギ師のクセに、力は本物ッてワケか。タチの悪い話だ。シマツに負えねェな」

 ガラルドはやれやれと頭を掻くと、アレンに尋ねる。

「とりあえず状況はワカッたが、それでこれからどうするつもりなンだ? (ベシス)はアテにならねェ。かと言ッて、俺らだけで勇者と()り合うのは分が悪い。八方塞がりじャねェかヨ」

「前にフランツさんがこう言っていました。『国家は国益を最優先に動く』と。国は自国の利益にならない行動は取りません。言い換えれば、利益になると分かれば国は動くということです。それなら後は単純です。勇者との戦いが、この国にどれだけの利益をもたらすかを示せばいいんですよ。直接国益に繋がると分かれば、王様も喜んで力を貸して()()()()でしょう。俺に任せてください。次の手ならもう、考えてますから」

 そう言うとアレンは不敵な笑みを浮かべた。


「此度の働き、実に大儀であった。無事に娘を取り戻すことができたのも、其方らの活躍があってこそ。改めて礼を言うぞ。して、余に話とは?」

 王座に深く腰掛けた王は礼を述べると、威厳たっぷりに尋ねた。

 その後、アレンたちはエルダに腕輪の調査を任せると、再び王の間へと訪れていた。アレンは挨拶もそこそこに本題を切り出す。

「陛下から直々に御礼の言葉をいただけるとは、身に余る光栄。話というのは他ならぬ勇者についてです。今回の一件で陛下にもお分かりいただけたと思います。勇者が世界を救う英雄などではないということが。私たちは今後も勇者を討つために、戦いを続けるつもりです。つきましては、引き続き陛下にお力を貸していただきたいのです」

「ふむ……」

 アレンの言葉に国王は目を閉じ、顎に蓄えた長い髭を撫でた。しばらくそうした後に王はおもむろに口を開く。

「……確かに勇者の蛮行は度し難い。早急に手を打つ必要があると余も考えておる。だが、先の魔族との戦いで我が方は多くの兵士を失った。まずはそれを立て直さねばならぬ。それに戦おうにも、勇者が今どこで何をしているのか皆目見当がつかぬ。闇雲に兵を動かしても、疲弊するばかりだ。まずは軍を立て直し、それから勇者の居場所を突き止める。そうして順を追って動かねば、とても戦うことなどできないだろう」

 王はもっともらしい理由を付けて、アレンの要請を断った。アルフレッドが事前に話していた通り、勇者と事を構える気はないということだ。

「お言葉ですが陛下、この戦いはベシスのためでもあります。もしも勇者が他の国に討たれれば、このベシスは少なくとも数百年の間、世界の覇権から遠ざかることとなるでしょう」

「何だと? どういうことだ?」

 聞き捨てならないアレンの言葉を国王は思わず問い質した。それを見たアレンは、研究室で見せたのと同じように、またしても不敵な笑みを浮かべるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ