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第74話 プロローグ4 ~本物の悪魔~

くぅ~疲れましたw 魔族編、これにて完結です!

 今からおよそ数百年前。風が吹き、雨が降り、川が流れるのと同じように、ごく自然に魔法は存在していた。だが、あまりにも身近すぎるが故に人々は魔法に気に留めることもなかった。風や雨や川に誰も興味を抱かないのと同じように。そしてその誰も見向きもしなかった魔法の原理原則を研究し、体系立ててまとめ上げたのがムラトハザルと言う人物だ。彼のおかげで広く誰もが魔法を使えるようになり、人々は単純労働から解放され、自由で豊かな暮らしを手に入れた。その功績からムラトハザルは『大賢者』と呼ばれるようになった。

 だが、ムラトハザルが研究を始める遥か以前から魔法を使いこなしていた人々がいたという事実は、意外にも知られていない。

 彼らの祖先は古より魔法の原理原則を理解し、使い方を知っていた。祖先から魔法を受け継いだ彼らは、その力を有効に活用し独自の文化を発展させていった。その結果、彼らは世界で最も優れた民族となっていった。

 人々は彼らを羨み、魔法の技術を教えるよう迫った。一方的な要求であったにも関わらず、彼らはその申し出を快く受け入れる。魔法を独占すれば、他民族と圧倒的な差をつけて世界の覇者となることもできただろう。だが、彼らはそんなことは望んではいなかった。魔法とは自然の摂理であり、日の光のようなもの。日の光が万人を平等に照らすように、魔法もまた平等であるべきだ。独占などあり得ない。それが彼らの共通認識だった。彼らは魔法が扱えるという点のみならず、人格もまた優れていた。

 快く魔法を教えていた彼らだったが、一つ問題が生じた。人々は魔法を扱うどころか、その原理原則すら理解できなかったのだ。祖先が残してくれた大いなる遺産によって、幼い頃から魔法に慣れ親しんできた彼らと異なり、素養のない者が魔法を理解するのは容易なことではなかった。人々にとって魔法は、あまりにも複雑で難解だった。中には自分たちの不出来を棚に上げ、彼らを責め立てる者もいた。

「教え方が悪い」

「本当に教えるつもりがあるのか」

「わざと間違ったことを教えて、我らを笑いものにしている」

 彼らはそんな謂れのない非難にもめげることなく、辛抱強く真摯な態度で人々に魔法を教え続けた。彼らの住まう国の王は、彼らの魔法に対する知識や技術を高く評価し、広く魔法を奨励した。その甲斐あって人々は徐々に魔法に理解を深め、それに比例するように国は栄えていった。

 そんなある日、民の一人が旅の商人に何の気なしに魔法を教えた。それを知った王は激怒し、その民と商人を厳しく罰した。

 その数日後、「我が国の民が魔法によって無惨に殺害された」と主張した。さらに王は主張する。「魔法は有益だが、使い方を誤ればこのような惨事を生む。誰もが気軽に魔法を扱えるという状況はあまりにも危険だ。力には責任が伴う。ならば、私がその責任を請け負おう。悪用を防ぐためにも魔法は適切に管理されなければならない」と。

 その主張に賛同する者、反発する者、静観する者、その反応は様々だった。王の主張に世論が揺れる中、彼らは反対の立場を取った。確かに王の言い分は一見筋が通っているように思える。だが、彼らはその中に確かな悪意と欺瞞の匂いを感じ取った。彼らは、王が管理の名の下に魔法を独占しようとしているのではないかと考えた。そして、その考えは正しかった。

「民が魔法によって殺された」というのは、王による狂言だった。魔法の力に目をつけた王は、その力を掌握し他国を支配するために、謀略に及んだのだ。さらに王は煮え切らない民衆を扇動すべく、強硬策に打って出る。彼らを騒乱の犯人に仕立て上げたのだ。民衆は自在に魔法を使える彼らに対して、劣等感や疎ましさを抱いていた。その敵意を利用した。

 国家による"お墨付き"を与えられた人々は彼らを徹底的に非難し、批判し、差別した。共通の敵を作り出すことで民衆は団結し、国内には彼らの迫害の流れが広がっていった。

 斯くして世論は誘導され、平等だったはずの魔法は支配された。魔法を支配した王はその力で次々に他国を蹂躙し、領土を拡大していく。

 "役目"を果たし終えたはずの彼らだったが、国内では未だ迫害が続き彼らは国を追われる身となった。だが、国外では侵略によって魔法への反感が高まっていた。今や魔法は憎悪の対象であり、魔法を広めた彼らは諸悪の根源として、世界中から敵意を向けられるようになっていた。いつしか彼らは「悪魔の民族」という意味を込めて、"魔族"と呼ばれるようになった。

 彼らは対話による相互理解を望んだが、話し合いで解決するにはあまりにも憎悪は深く、話がこじれすぎていた。もはや世界中のどこにも自分たちの居場所はないことを悟った彼らは、新天地を求めて旅立つ決心をした。魔法の力を行使すれば、世界中の国々を力尽くで黙らせることもできたはずだ。だが、平和を何よりも愛する彼らは、力による抵抗を良しとはしなかった。

 彼らはここではない異世界へと旅立った。"共通の敵"と"魔法のノウハウ"を同時に失ったことで、民衆の団結は薄れ、魔法の技術は失われていく。その後、多くの国々から恨みを買ったその国はあっさりと攻め滅ぼされるのだが、国を追われた魔族たちには関係のないことだった。


 安寧を求めて異世界へと旅立った彼らを待っていたのは、過酷な現実だった。そこは昼間でも薄暗い瘴気に満ちた暗黒の世界で、劣悪な環境は彼らの体にある変化をもたらした。僅かな光を少しでも多く取り入れるために白目が見えなくなる程に瞳孔は肥大化し、瘴気によって皮膚は青く、毛髪は紫色に染まった。まさに魔族と呼ぶに相応しい異様な風貌。それでも魔族たちは置かれた状況を嘆くことも、自分たちを追いやった人々を恨むこともなく、争いとは無縁の平穏な日々を手に入れた。平和な時は四百年続いたが、ある一人の男によって状況は一変する。

 男は憤慨していた。自分たちの祖先が迫害を受けて、この世界に逃げ延びて来たという歴史に。祖先を迫害した人々に。戦いの道を選ばずに逃げ出した祖先に。

 男が何よりも憤っていたのが、この史実に誰も怒りの声を上げようとしないことだった。この話をすると誰もが、「もう四百年も昔の話だ」と男を宥めた。それでも男は怒りの炎を燃やし続けた。悪事を働いた者は必ずその報いを受けなければならない。殴られた者には殴り返す権利がある。男はその信念の下に準備に取りかかった。初めは冷ややかな目で見られていたが、明確で力強い演説は人々の心を掴み、賛同者は日に日に増えていく。男の目的は復讐だった。戦力を集め準備を整えると、男は自らを「魔王」と名乗り、奪われた世界を取り戻すために侵攻を開始した。

 侵攻は順調に進む。この世界の人間は魔法の前に狼狽して逃げ惑うばかりで、全く相手にならない。軍隊も彼らの敵ではなかった。どうやらこの世界では、魔法は失われた技術らしい。

 快進撃の理由は魔法の有無だけではない。"参謀"の存在もまた大きかった。参謀の作戦はどれも的確で、特に相手の嫌がる状況を作り出すことにかけては一級品だった。これなら、この世界を奪い返すのも時間の問題だろう。魔王はそう確信した。

 向かうところ敵なしの彼らだったが、勇者の登場が彼らの計画を狂わせる。勇者は彼らを打ち破り、占領した地域は奪い返されていく。得意の魔法も勇者には通用せず、仲間たちは次々に倒されていく。圧倒的優勢から一転、魔王軍は窮地に立たされる。そんな中、参謀が忽然と姿を消した。

 その後も魔王軍は勇者によって討ち取られていく。追い詰められた魔王は残存兵力を集めて、残された占領地に立てこもる。三方を山々に囲まれたその地は守りやすく攻めにくい、敵を迎え撃つには最高の立地だった。ここで態勢を立て直して、勇者を迎え撃つ。しかし勇者の力は圧倒的だった。地の利はあっさりと覆され、遂に勇者が現れた。だが、それ以上に魔王は驚かせたのは、参謀が勇者と共に現れたことだった。参謀の裏切りを知った魔王は、怒りを露わにして魔法を放った。だが、渾身の魔法はあっさりといなされ、勇者の剣が迫り来る。

 死の間際、魔王の視界には裏切り者の様子が飛び込んできた。参謀は恍惚とした表情を浮かべて()()()()()。その瞬間、魔王は理解した。この者は祖先が迫害を受けて国を追われたことに対して、怒りも恨みも抱いていない。ただ、他者が苦しむ様が楽しくて仕方ないのだ。それを見るためだけに侵攻に加わり、そして裏切ったのだ。何て奴だ、狂ってる。この女は……本物の悪魔だ! それが魔王の最期だった。

 魔王の野望はここに潰えた。だが、女の野望は終わらない。もっと人の苦しむ姿が見たい。裏切られたと知った時の驚く顔が見たい。勇者様はどんな顔を見せてくれるのかしらぁ?

 標的を魔王から勇者に移した魔族の女は、悪魔のような顔でニタァっと笑った。

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