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第73話 涙の再会

「GWを利用してたくさん書くぞ!」と思ったのに、つい遊んじゃってこの章を書き上げるだけで休みが終わった

「オーイ! アレーン!」

 誰かが自分の名を呼んでいる。拳で目元を拭い、声のする方向に顔を向けると、ガラルドを先頭にクリフ、アルフレッド、エルダがこちらに駆け寄って来るのが見えた。その後ろでは兵士たちの一団が地面に伏せている。どうやら彼らも無事に戦いを切り抜けることができたようだ。アレンは、ほっと安堵の溜め息を吐いた。

「ガラルドさん、どうにか持ちこたえてくれたんですね」

「当ッたり前だろ。こンなトコロでヤられてたまるかッてンだヨ。それヨりも、あの女はどうした?」

「魔族なら倒しましたよ。ほら、あそこに」

 アレンはうつぶせに倒れている魔族を指差して答える。

「確かに倒したヨうだが……本当に死ンでンのか? あの女には散々、苦しめられたからな。死ンだフリしてるのかもしれねェ」

「兵士はどうなりました?」

「兵士? それなら急に動かなくなッちまッたヨ。そのおかげでここまで来れたッてワケさ」

「それなら大丈夫だと思います。あの兵士たちは魔族に操られていました。それが動かなくなったってことは、魔法が消えたってことです。ちょうど魔女が死んで、骸骨たちが動かなくなったのと同じように」

 アレンの言葉を受け、アルフレッドとクリフの二人はしみじみとつぶやく。

「そうか……終わったんだな……」

「……部下たちには悪いことをした。私の判断のせいで、こんな辱めを受けさせることになってしまった。いくら操られていたとは言え、ベシスのために共に戦った仲間に剣を向けるなど、とても顔向けできん」

「それを言うなら私も同罪だ、クリフよ。お前だけが抱え込むことではない。きっと彼らは私たちを恨んでいるだろうな。『命懸けで国に仕えてきた見返りが、この仕打ちか』と……」

 自分たちの行いに自責の念を抱く二人に、アレンは異論を口にする。

「そうでしょうか? 兵士として戦う以上、命を落とすかもしれないという覚悟はできていたはずです。それに魔族を倒さなければ、あの人たちはずっと操られたままでした。お二人が苦しい思いをしながら戦ったおかげで、彼らを魔の手から解放できたんです。俺たちがすべきことは、連れ去られた女性たちを助け出すことです。とにかく今は先に進みましょう。それが今の俺たちにできる一番の手向けです」

「うむ……そうかもしれないな。確かにこんなところで挫けていては、それこそ部下たちに顔向けできん」

「アレンよ、其方の言う通りだ。犠牲となった彼らのためにも、我らがやり遂げねばな。彼らの死を無駄にしてはいけない」

 アレンの力強い言葉に触発された二人は、気を取り直したように頷いた。

「……」

 一方、エルダはまるで夢から醒めたようなぼんやりとした表情で、その場に立ち尽くしていた。

 辺りには大量の兵士の遺体と魔族の死体が転がっている。「自分の目で実際に魔法を見る」という彼女の願いは、見事に叶った。しかし念願が叶ったにも関わらず、彼女は鬱屈とした気分だった。

 魔法を復興させて人々がまた魔法を使えるようになれば、誰もが幸せになれると信じていた。それがどうだ? 実際に目にした魔法は、死者を無理やり動かし戦わせるという醜悪極まりないものだった。おまけに魔族は、自分の魔法が仇となり死んだ。夢にまで見た魔法は、夢のように素晴らしいものでは決してなかった。

「……あぁ、そうか」

 エルダはぼそりとつぶやいた。幼い頃、彼女が呼んだ本の中にはこう記されていた。「人々の行く末を案じたムラトハザルは自らの手で全ての研究成果を破棄し、魔法を封印することにした」と。

「だから大賢者は……」

 辺りに転がる死体の山を見渡しながら、彼女はもう一度つぶやいた。


「はぁ……はぁ……」

 魔獣の死骸を見下ろしながら、エトンは荒い息を上げる。恐怖と興奮で鼓動が早まっているのが分かる。胸が苦しい。だが、そんなことは言っていられない。咄嗟の機転で辛くも二匹目の魔獣を倒すことができたが、これで終わりだという保証はない。エトンは急いでぐるりと周囲を見渡す。三匹目が襲い掛かって来る様子はない。

「オーイ! エトーン!」

 誰かが自分の名を呼んでいる。拳で額を拭い、声のする方向に顔を向けると、ガラルドとアレン、さらに三人の人物がこちらに駆け寄って来るのが見えた。

「ガラルドさん! アレンさーん!」

 エトンは二人の名前を叫びながら合流すると、再会を喜ぶ間もなく倒した魔獣の死骸を指差した。

「気を付けてください! 敵が襲って来るかもしれません!」

「敵? ありャ何だ? ……犬? それとも狼か?」

「魔獣だそうです。城から脱走した人間を襲っていたようです。私も城を出たところを襲われましたが、何とか倒しました」

「一人であの二匹を片付けたのか? ヤるじャねェか。大したモンだゼ」

「もう必死でしたよ……」

 二人のやり取りを聞きながら、アレンはしばらく魔獣の死骸を観察した。そしてガラルドに尋ねる。

「ガラルドさんはこの国の出身ですよね? この辺りに生息する野犬とか狼とかではないんですか?」

「野犬にしてはデカすぎるな。狼もこの辺には生息してねェ。エサになるような動物もほとンどいないからな」

「ということは、野生動物ってわけではなさそうですね。さっきエトンが言ったように、脱走を防ぐために魔族が用意したんだと思います」

「死体の次は動物か。あの女も色々と考えるモンだゼ。とにかく用心して進もうゼ」

 一同は敵襲に備えて警戒しながら城へと進むが、新たな魔獣は現れない。結果、彼らは苦もなくシゼ城の入口までたどり着いた。扉から顔を出していた女性は、驚いた様子でアレンに声をかける。

「アレン……君?」

「ミーナさん!? どうしてここに?」

「それはこっちの台詞よ。あなたこそ、どうしてここにいるの?」

 アレンとミーナが互いに質問をしていると、その後ろから少女がおずおずと顔を覗かせた。少女の姿を見たアルフレッドは叫ぶ。

「マーガレット!!」

「……お兄……様?」

 少女は暫し茫然としていたが、すぐに我に返ると城を飛び出しアルフレッドに駆け寄って行く。

「お兄様ー!」

「あぁ……よくぞ……よくぞ無事だった!」

「生きてまたお兄様にお会いできるなんて……私は本当に……ぐすっ……」

「無事で良かった……本当に……うぅ……」

 兄妹はひしと抱き合うと、再会を喜びながら互いに声を上げて泣いた。


 城からは囚われていた女性たちが次々に出て来る。女性たちは互いに抱き合い、無事に解放された喜びを嚙みしめて涙を流している。その様子を眺めながら、エトンはミーナに声をかけた。

「まさかミーナさんがアレンさんのお知り合いだったなんて驚きました」

「私もびっくりよ。まさかこんなことがあるなんて。……これで二度目ね」

「二度目?」

「アレン君には前にも命を救われたの。あの時は救いの里だったわ。もしもアレン君がいなければ、私は今ここにはいないでしょうね」

「そう……だったんですか。私も同じです」

「あなたも?」

「……元々、私は勇者たちの側でした。勇者こそが世界を救う英雄だと信じていたんです。でも、それは間違いでした。アレンさんたちと出会ったおかげで、私は正しい道に戻ることができた。もしもアレンさんたちに出会わなければ、私は今この場にいなかったと思います」

「そう……。あなたも色々とあったのね」

 ミーナとエトンの二人が互いに身の上話に花を咲かせるその一方で、アレンは焦燥感に駆られていた。助け出した女性たちの中に、妹の姿が見つからなかったからだ。

(アニーがいると思って、それだけを頼りにここまで来たのに……。違うのか? ここじゃなかったのか? 何か……何か手掛かりは……)

 そう考えたアレンは、ミーナの存在に行き着く。囚われていたミーナなら、何か内情を知っているかもしれない。アレンは手掛かりを得るためにミーナに声をかける。

「ミーナさん!」

「アレン君、どうしたの? 今ちょうどあなたの話を……」

「それよりも聞きたいことがあるんです。俺の妹がこの城にいるはずなんです。何か知りませんか?」

「妹さんがいるの? 特徴は?」

「年は17で、身長は俺の肩ぐらい。俺と同じ真っすぐな赤毛で、背中にかかるぐらいの長さです。名前はアニーです」

「……驚いたわ。まさかアニーさんがアレン君の妹だったなんて」

「知ってるんですか!?」

「えぇ。確かにアニーさんは私たちと一緒に捕まっていたわ。でも、少し前に魔族にどこかに連れて行かれてしまったの」

「どこに!? 妹はどこに連れて行かれたんですか!?」

「それは……私にも分からないわ。シゼのお城の中を探してみたんだけど、見つからなくて」

「あの……アレンさん」

 二人のやり取りを聞いていたエトンは、思いつめた顔で口を開いた。きっとこの事実はアレンをひどく打ちのめすだろう。彼女は躊躇した。だが、伝えなければならない。

 エトンは意を決し、地下牢で見た光景をアレンに告げた。


「これが……アニー……?」

 地下牢で遺体と対面したアレンは、確かめるようにつぶやいた。両目を抉られ、耳と鼻は削ぎ落され、元の顔が分からない程に顔全体がズタズタに切り刻まれている。

「……違う。これはアニーなんかじゃない。だって、顔が分からないじゃないか。これは別の誰かなんだ。そうだ……そうに違いない……きっとそうだ……」

 アレンはうわ言のようにそう繰り返すと、縋るようにミーナに同意を求めた。

「ねぇ、ミーナさん。違いますよね?」

「……」

 ミーナは何も答えない。答えられなかった。

「……何か言ってくださいよ。違いますよね? これはアニーなんかじゃ……」

「アレン! しッかりしろッ!」

 虚ろな目で壊れたように訴えを続けるアレンを、ガラルドは大声で叱咤する。

「辛いのは分かる。認めたくないのも分かる。でもな、そンなコトをしても現実は変わらねェンだ。残念だが、お前の妹は……」

「……妹はいい子でした」

「はァ?」

困惑するガラルドをよそにアレンは続ける。

「誰にでも親切で、困っている人を放っておけない優しい性格でした。それに働き者で、家族思いで……俺の自慢の妹でした。それなのに何でこんなことに? 妹が何をしたって言うんですか? こんな誰かも分からないぐらいに顔をぐちゃぐちゃにされて……! 何で妹がこんな目に遭わなきゃならないんだ? 何で妹が殺されなきゃならないんだ!? ふざけるなッ! 何で……何でなんだよぉぉぉぉ!!!」

 アレンは堰を切ったように思いの丈をぶちまけると、吊るされた遺体に縋りついた。

「アニー……アニーィィィィィッ!!!!!!」

 アレンは妹の遺体を抱き締めると、声を上げて泣いた。しんと静まり返ったシゼ城の地下牢には、アレンの慟哭だけがいつまでも響いていた。

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