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第66話 大魔法実験 discover magical

タイトルは某番組のパロディです

 実験を提案したエルダは、さらに続ける。

「アレン殿の説によれば、魔法が使えずとも実験は可能ということになります。確かに、魔法は森羅万象の自然現象を人為的に引き起こす技術とも言えるでしょう。基本に立ち返って考えれば分かることにも関わらず、全く盲点でした。いささか魔法という言葉の神秘性に固執しすぎていたようですな。しかしそれなら話は早い。善は急げ、思い立ったが吉日、鉄は熱いうちに打て! これを確かめない手はありますまい! さっそく実験に取り掛かりましょう!!」

 興奮したように早口でまくしたてるエルダに、アレンとガラルドは困惑したように互いに顔を見合わせた。そんな二人の様子など全くお構いなしに、エルダはどんどん話を先に進める。

「まずはアレン殿の提案通りに火を近付けてみましょう! 魔女が放った魔法の炎を再現する訳ですな! アレン殿の説が正しければ、近付けた炎に何らかの変化が生じるはずですぞ。消えるか、揺らめくか、はたまた激しく燃え盛るか……。果たしてどのような変化が起きるのか!? くぅ~! 何だかワクワクしてきましたな~! ではでは、さっそく火の方を……」

「オイオイ、ちョッと待てヨ。こンな狭ッ苦しいトコロでおッ始めるつもりか? この本の山に燃え広がったらどうするつもりだ? 丸焼きになるなンてゴメンだゼ」

 いつの間にか火打石を持ち出したエルダを、ガラルドは慌てて止める。ガラルドの言うことはもっともだ。もし鏡に近付けた火が激しく燃え盛って本に引火でもしたら、たちまち部屋中火の海になることだろう。

「おっと! これは失敬。気になることがあると、つい周りが見えなくなってしまうのがそれがしの悪い癖。では、場所を変えるとしましょう。どこか都合のいい場所は……そうだ! お二方、それがしについて来てくだされ!」

 エルダは鏡を引っ掴むと、勢いよく扉を開け放ち、研究室を飛び出していった。

「行ッちまッたヨ。おもしれー姉ちャンだな」

「とにかく後を追いましょう」

 二人はエルダの後を追い、部屋を出る。研究室には(うずたか)く積まれた本の山と、埃っぽい静寂だけが残された。


「いかがですかな、この場所は? 広く開けている上に、周りに燃え移るようなものもなし。おあつらえ向きに人もおりませんし、実験をするのにうってつけではありませんか?」

 アレンとガラルドが案内されたのは、だだっ広い空間だった。ベシス城内にあるその一角には屋根がなく、吹きさらしになっている。足元は敷き詰められた石床で、その上にはくたびれた矢が転がっていた。

「射場だな」

「何ですか、それ?」

「弓の稽古場さ。向こうにマトがあるだろ?」

 ガラルドが差した方向を見ると、人を模して作ったと思われる藁の塊が等間隔で並んでいる。

「ご明察! お察しの通り、ここはベシス兵の弓の稽古場です。ですが、古くなったため今はもう使われておりませぬ。ですので、滅多に人も来ず、多少危険な結果になろうと問題はないという訳ですぞ」

 ガラルドの言葉をエルダが補足する、矢が落ちているのはそれでか、とアレンは一人納得した。

「という訳で、さっそく実験を開始しましょう!」

 言うが早いか、エルダは火打石で木切れに火を点けて鏡に近付けた。火は静かに揺らめく。

「オイオイ、なンにも起きねェじャねェか。期待してソンしたゼ」

それを見たガラルドは、拍子抜けしたようにつぶやいた。

「いえ、火を近付けた瞬間に微かに揺らめいたように見えました。もう少し詳しく調べる必要がありますぞ」

「そうかァ? もッとワカりやすくハデにヤろうゼ。いッそこのカガミごと燃やすとかヨ」

「とんでもない! この鏡は魔法研究の貴重な品ですぞ!? そもそも研究というのは、そう簡単に結果が出ないもの。思うような成果が上がらずとも決して腐らず、一歩ずつ進んでいくことこそが肝心なのですぞ」

 エルダは研究家としての心構えを説くが、ガラルドは聞く耳持たずどこ吹く風だ。研究という学びの道とは無縁の人生を歩んできたこの無頼漢には、そんな理屈は通じない。

「ごリッパなお考えだが、俺らには時間がねェンだ。いいからソイツをヨこしな」

 そう言ってガラルドは、エルダから強引に鏡と木切れをひったくろうとした。

「で・す・か・ら! 研究はそう簡単には実を結ばないものなんですってば! 急がば回れ、急いては事を仕損じるという言葉があるように……」

 エルダは抵抗し、ガラルドの手を払いのける。その弾みで著しく集中力を欠いた彼女は、手にしていた二つの実験材料を取り落としてしまった。木切れと鏡は真っ逆さまに石床の上に落ちていく。刹那、鏡は地面と衝突した。誰もが鏡が砕け散るのを予期した。だが、そうはならなかった。

 鏡は鏡面を上にして、音もなく地面に着地した。続いて木切れがその上に落ちる。その時だった。落下したはずの木切れが()()()()()()のだ。アレンの目線の高さまで上昇したそれは、再び下降してカランと音を立てて石床の上に転がった。

 あり得ない動きだ。確かに石床の上に力いっぱい木切れを叩きつければ、跳ね返りもするだろう。だが、今は力を入れていないし、叩きつけてもいない。そもそも落ちたのは鏡の上だ。

「これは……」

 エルダはそうつぶやくと、今の騒ぎで火が消えてしまった木切れと鏡とを交互に眺めた。そしておもむろに木切れを拾い上げると、自分の頭の上の高さまでそれを掲げて手を離した。石床の上に落下した木切れは、またカランと音を立てて転がった。その様子を見届けたエルダは、再び木切れを拾う。

「オイ、何をヤッて……」

「シッ! きっと"実験"を続けているんですよ。今は黙って見守りましょう」

 口を挟もうとしたガラルドはアレンに制止され、しぶしぶ押し黙った。

 エルダは先程と同じ様に木切れを頭上に掲げると、今度はそれが()()()に落ちるように手を離した。すると木切れはまたしても跳ね上がった。

「見ましたか、今の動きを!? 通常ならあり得ない動きが連続で! これは決して偶然ではありませんぞ! やはりこの鏡は魔法のみならず、触れた物を跳ね返す力があるようです!」

 エルダは興奮したように、早口でまくし立てる。

「確かにそうみてェだな。でもヨ、そンなにカンタンに決めつけていいのか? 研究ッてのは、一歩ずつ進ンでいくのがカンジンなンだろ? まだ結論を出すには早いンじャねェのか?」

 ガラルドは意趣返しとばかりに、エルダの台詞を引用して異議を唱える。先程と言っていることが正反対だ。

「……つまり実験を続けろ、と? ですが、次は何をすると言うんですかな?」

「ここは『射場』だろ? 弓も矢もある。オアツラエ向きじャねェか」

 エルダの問いに答えると、ガラルドはアレンの方を見てニヤリと笑った。


「ヨーく狙えヨ! ここだゼ、ここ!」

 ガラルドは大声で叫ぶと、胸元に掲げた鏡を指でトントンと叩いた。アレンは小さく頷くと、矢を番え、キリキリと弦を引いて狙いを定める。

 ガラルドの鶴の一声で、彼らは追加実験を行っていた。鏡が矢を跳ね返すかどうかを確かめるのだ。

 エルダは「もし割れでもしたらどうするつもりですか!」と反対したが、ガラルドは「この程度でコワれるヨうならそれまでだ」と取り合わなかった。

 アレンの頬を風が撫でる。それでもアレンは動かない。頬に当たる風の感触は徐々に弱くなり、やがて消えた。その瞬間、アレンは引き絞った弦を離した。矢は空を舞い、一直線にガラルドの持つ鏡の中へと吸い込まれていく。

「危ないッ!!」

 エルダは思わず叫んだ。しかしそれはガラルドにではなく、アレンに向けてだった。

 放たれた矢は見事にガラルドの持つ鏡に命中した。すると矢は勢いそのままに、アレン目がけて()()()()()きた。戻ってきた矢は見る間に距離を詰め、アレンの目前に迫る。エルダはそれを見て声を上げたのだ。だが、アレンは動じることなく、顔を僅かに左に逸らした。矢は右頬をかすめ、後方の壁に突き刺さった。鏡に秘められた力を検証するには、十分すぎる結果だった。


「いや~、どうなることかと冷や冷やしましたが、これでこの鏡の力が立証されましたな! やはり魔法というのは奥深く、そして興味深い。このような場に立ち会えてそれがし、感無量ですぞ~」

 エルダは安堵した様子で実験を終えた二人に駆け寄り、矢継ぎ早にまくし立てる。

「それにしても……鏡を矢で射抜こうだなどと、よく思い付きましたな。それがしにはとても思いも寄らない考えですぞ。豪放というか、野放図というか……」

「テッテー的に納得できるまで調べてヤろうと思ッたのさ。コイツの力がホンモノなら、あのオンナに対抗できるかもしれねェだろ?」

 ある種、侮蔑とも取れるエルダの評価を気にも留めずにガラルドは答える。ガラルドはアレンと同様に、この鏡に魔族打倒の可能性を見出していたのだ。だからこそアレンはガラルドの提案に応じ、実験を行ったのだった。

「なるほど、確かにそうですな。アレン殿もお見事でしたぞ。弓の腕前も然る事ながら、矢をかわした時のあの動き! まるで初めからそうなると分かっていたかのようですな」

「ある程度の予測はしてました。落とした木切れが跳ね上がるのなら、飛んでいった矢はどうなるのか? それを考えたんです」

「鏡は触れたものを"反射"する。すなわち、矢は同じ速度で返ってくる――と?」

 エルダの説明にアレンは静かに頷く。

「一つの結果から、また新たな結果を予測する……。素晴らしい! 研究をする上で非常に重要な考え方ですぞ!」

「俺はただ、フランツさんの……亡くなった仲間の考え方を真似ただけですよ」

 賛辞を贈るエルダに、アレンは素っ気なくそう返した。それは謙遜でも卑下でもなく、紛れもない彼の本心だった。

「確かにな。アレコレ考える様といい、小難しい物言いといい、まるでセンセーだゼ」

「お話を聞く限り、そのフランツという方はとても聡明な御仁だったようですな」

「それはもう。勇者一行の正体を暴いたのもフランツさんでしたから。俺が今、こうしていられるのも……全部フランツさんのおかげです」

 アレンは噛みしめるようにそう言った。ある意味で、フランツはアレンの恩人だった。フランツは全てを失い絶望する彼に、道を示してくれた。様々な困難を共に乗り越え、勇者と戦うための思考法(ぶき)を授けてくれた。

「それはそれは。是非とも一度、お会いしてみたかったものですなぁ」

「案外、アンタとはウマが合ッたかもしれねェな。それにしても……常に俺らの先を行く人だッたが、まさか本当に先に()()なンて、笑えねェヨなァ」

(……本当に笑えない)

 ガラルドの飛ばした質の悪い冗談(ブラックジョーク)にアレンは顔をしかめ、エルダは困ったように苦笑いを浮かべた。

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