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第63話 闖入者

キャラ付けのために特徴的な口調にしたら、ム○クみたいになりましたぞ

「一体、何があったんだ! 何故、あの女がここにいたッ? 説明してもらおうか!」

 クリフは怒りと驚きが入り混じった顔で、アレンとガラルドに問いただす。

「あのヤロウ、兵士に化けて忍び込ンでヤがッたンだヨ。俺らを殺すつもりだッたンだとヨ」

「それで……貴様らは忍び込んで来た魔族と戦うこともなく、仲良くお喋りをしていた……と」

「しョーがねェだろ。エトンを人質に取られちまッたンだからよォ」

 クリフのもっともな指摘に、ガラルドは不服そうに口を尖らせた。

「貴様らもあの時、奴の力を思い知ったはずだ。あれだけの数をたった一人で……近付くことすらままならなかった。その魔族が目の前に現れたんだぞ? 奴を討つ絶好の機会だった。たとえ人質を取られようと、刺し違えてでもこの場で倒すべきだったんだ。それを逃したのだから明らかな失態だ」

「フンッ! エラそうに抜かしヤがッて。まるでテメェならあのヤロウを倒していたとでも言いたそうだな」

「その通りだ。もし私が貴様らの立場だったら、人質もろとも魔族を討っていただろう。私にはその覚悟と責任がある」

「おゥおゥ、勇ましいこッて。口では何とでも言えらァな。そもそも、あのヤロウの正体を見破ッたのはアレンだゼ? お前じャ変身した魔族に気付かず、城中を引ッかき回されるのが関の山だろうヨ」

「何だと?」

「ヤるか?」

「二人とも、落ち着いてください。ここで言い争いをしても、何の解決にもなりません。争っている場合じゃありませんよ」

 アレンは剣呑な空気に怯むことなく、毅然とした声で二人を諌めた。仲間であるエトンが魔族に連れ去られた。フランツの死を嘆き悲しんでいる暇はない。魔族の襲来がかえって彼を冷静にさせていた。

「しかしもし、また奴が忍び込んで来たら……」

「おそらくそれはないでしょう」

「何故、そう言い切れる?」

 クリフの質問に、アレンは答える。

「魔族は『大事な話をしに来た』と言っていました。そして『それが済んだ』とも。俺たちを殺そうとしたのは、あくまでそのついでです。目的を達した以上、奴が再びここを訪れることはないでしょう。さらに奴はエトンを連れ去り、俺たちにベシスに来るように言い残して去って行きました。もう魔族の目的は、この城には無いんです」

「つまり、もう奴と戦う機会はないと言うわけか……」

 理路整然としたアレンの説明に、クリフは小さくつぶやいた。そのつぶやきにガラルドが反応する。

「どういう意味だ?」

「今後ベシスは勇者がこの国に攻めて来た場合を除き、彼らに対して積極的な武力介入を行わない。もうシゼに兵を差し向けることもないだろう。貴様らとの協力関係もここまでという訳だ」

 クリフは突き放すように冷たく言い放った。突如、告げられた支援の打ち切りにアレンとガラルドは動揺する。

「話を聞いてなかッたのか? エトンを奪われたンだぞ?」

「それは貴様らの問題だろう。我々には関係のないことだ」

「シゼには多くの女性たちとマーガレット王女が捕らえられています。それはどうするつもりですか?」

「陛下は『武力に頼らない外交努力で解決する』と仰っていた」

「なーにがガイコウドリョクだ。要は魔族の力にビビッたッてだけの話だろ? あァ、情けねェ」

「何とでも言え。我々は陛下の御意向に従うまでだ」

「ヘッ! ベシス軍の隊長ともあろうお方が、まるで操り人形だな。さッきはあンなに威勢が良かッたのに、部下のカタキを取ろうッていうキガイはねェのか? これじャあ、死ンでいッた兵士も浮かばれねェな」

「フンッ、やはりシゼの人間は(けだもの)と変わらぬ蛮族だな」

「あァ?」

クリフの発した"シゼ"という単語に、ガラルドは過敏に反応した。

「貴様はシゼの悪鬼(オーガ)だろう? ようやく思い出したぞ。貴様らシゼの蛮族共には、散々苦しめられたからな。手当たり次第に他国に攻め入り、土地と人々を食い荒らす……。魔王と勇者に国を奪われて、少しは他人の痛みが分かったか? あんな国、滅びて当然だ」

「なンだァ? テメェ……」

こめかみに青筋を立てたガラルドを挑発するように、クリフは続ける。

「それにしてもシゼ軍の兵士は魔王によって全滅したと聞いていたが、よもや生き残りがいたとはな。たった一人生き残ったということは、かなりの腕なのだろう。それとも、我先に逃げ出したから死なずに済んだか? そうだとしたら、称えるべきは腕よりも逃げ足の速さだな」

「……どうヤら、ヨッぽど死にてェらしいな」

 売り言葉に買い言葉、クリフとガラルドの両名は再び一触即発の状態に陥った。そして事態は先程よりも深刻だった。両名ともに、抜き身の剣を構えて睨み合っている。この二人はとことん相性が悪いようだ。それに加え、国同士の因縁が互いの敵対感情にさらに拍車をかけた。今にも斬り合いが始まりかねない危険な雰囲気だ。

「止めてくださいよ! こんな所で争ってる場合じゃないって、さっきも言ったじゃないですか!」

「これだけ侮辱されて、黙ッてろッてのか? 邪魔するならアレン、お前もタダじャおかねェゼ」

「ほぅ、これは驚いた。貴様のような(けだもの)でも、皮肉を理解する知能があるとは。その賢い(おつむ)も褒めてやらねばな」

「……その口、永久に黙らせてヤるヨ」

 アレンの制止を無視するようにクリフは挑発を繰り返し、ガラルドはまんまと誘いに乗る。

「やっちまえ!」「行けー! 隊長ー!」「くたばれ、蛮族野郎!」

 集まった兵士たちは二人を止めるどころか、口々に野次を飛ばして事態を悪化させるばかりだ。敵意と怨嗟が入り混じった無数の視線が、ガラルドとアレンに突き刺さる。兵士たちにとって彼らは、敗北の怒りと屈辱をぶつける恰好の的だった。

「……最悪だ」

 アレンは吐き捨てるようにつぶやいた。


 辺りが異様な熱気に包まれる中、クリフとガラルドは剣を構えて睨み合っている。

 ガラルドが勝てば、兵士たちは報復を仕掛けてくるはずだ。多勢に無勢。仮に襲いかかる兵士たちを斬り捨ててこの場を切り抜けたとしても、ベシス兵を手にかけた彼らはお尋ね者に身を落とすことになる。そうなればもう、勇者との戦いどころではない。

 かと言ってガラルドが敗れれば、自分も無事では済まないだろう。ガラルドを斬った勢いそのままに殺されるか、騒ぎの責任を押し付けられて処刑されるか……。いずれにしても、楽観視できるような状況ではない。アレンは最悪の事態を覚悟した。その時だった。

「はいはい、失礼しますぞ。ちょっと通してくだされ~!」

 そう声がしたかと思うと、興奮する兵士をかき分けて一人の人物が部屋の中へとやって来た。真っ黒なローブに身を包んだその人物は、クリフとガラルドの間に割って入った。ローブに身を包んでいるため体型は分からないが、顔を見る限り瘦せ型だろう。身長はアレンよりも少し高く、スラッとした印象を受ける。鮮やかな白銀の髪をしているが、伸びすぎてぼさぼさだ。鼻筋は通っており目鼻立ちは良さそうだが、それ以上に気になるのは目元だ。両目を覆うように、見慣れないおかしな物を着けている。

(何だ? あれは……)

「おや、そこのお方! それがしの着けているこれが気になるご様子ですな? これはそれがしが発明した、その名も『見エルダちゃん』! ぼやけて見えない遠くの物が、はっきりくっきりよく見えるという優れものなんですぞ~! ちなみに見エルダちゃんというのは『見える』という動詞と、それがしの名前を組み合わせた実に遊び心溢れる素敵な名称でして……」

 アレンの視線に気付いたその人物は、(せき)を切ったようにペラペラと喋り出した。突如現れた謎の闖入者に圧倒されたガラルドは、毒気を抜かれたように口をポカンと開いた。そしてつぶやく。

「何だ? このミョウチキリンな姉ちャんは?」

「……ベシスお抱えの"魔法研究家"だ。とは言っても長年目ぼしい成果も挙げられず解雇寸前だがな。お抱えより、お荷物と呼ぶ方が適切だ」

「いやはや相変わらず手厳しい! それは言いっこなしですぞ、クリフ殿~!」

 ガラルドの問いに答えたクリフは、呆れ顔でその人物に尋ねる。

「それで……何の用事だ? 研究室にこもって調べ物をしていたのではなかったのか?」

「そのことですが、少々お力添えいただきたくてですね」

「一体、何だ? 私が貴君に協力できることはあるとも思えんが」

「いえ、用があるのはクリフ殿にではなく、そちらのお二方でして」

 そう答えるとその人物は、アレンとガラルドに向き直った。

「まずは自己紹介をば……。それがしはエルダと申します。先程クリフ殿のお話にもあった通り、この城で魔法について研究をしておりますぞ。実はあなた方に二、三お聞きしたいことがありましてですね。ここでは何なので、それがしの研究室にお越しいただけますかな?」

「……分かりました」

 この険悪な状況から抜け出せるのなら何でもいい。そう考えたアレンは、エルダの申し出を二つ返事で受け入れた。

 無数の殺気を背中に受けながら、アレンたちはその場を後にした。

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