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第56話 平穏な不穏

えっ!? 年が明けてからもう一週間!?

「……原因は」

「魔女にあるッて?」

 アレンの発言に、クリフとガラルドの言葉が見事に調和する。

「何故、そう思う?」

 興味深そうに理由を尋ねるフランツに対し、アレンは問う。

「魔女が俺たちの前に現れた時のことを覚えてますか?」

「無論、忘れるはずがない。奴がペラペラと話してくれたお陰で、真相を知ることが出来たのだからな」

「そう、問題はそこです。俺たちが真相を掴みかけていることを知った魔女は、シゼについてこう言いました。『シゼにいた魔物(ホネ)は全部、自分が操っている』、と」

 アレンはさらに説明を続ける。

「この大量の骨たちは、魔法によって()()()()()いました。魔女が死んだことで、魔法が解けて動かなくなった――。詳しい原理は分かりませんが、そう考えるのが一番自然じゃないでしょうか?」

「ふむ……。筋は通っているな」

 アレンの説明にフランツは納得したように頷くと、クリフに向き直った。

「今のこの状況は我々にとっても想定外だ。そしてその原因も分かっていない。彼がしてくれた説明も単なる憶測に過ぎない。これが勇者側の仕掛けた罠であるという可能性も考えられる。現時点で言えるのはそれぐらいだ。ただ一つ言えるのは、このままここで手を(こまぬ)いていては、何も分からないということだ」

「……」

 クリフは返事もせずに腕を組んで考え込んだ。お構いなしにフランツはさらに続ける。

「ある意味ではこれは好機とも言える。勇者はシゼへの行く手を阻むために大量の魔物を配置した。それが無くなった今、攻撃や妨害を受けることなく、悠々と目的地まで進めるというわけだ。あくまで、魔女の死によって魔法が解けたという仮説が正しいとすればの話だがな。少なくとも現時点では、勇者は我々が真相にたどり着いたことを知らないはずだ。知っていれば我々を阻止するために、何らかの行動を取っているだろうからな。あるいは、もう既に取り終わった後かもしれない」

「……どういう意味だ?」

「陛下の前でも述べたように、もしも勇者がこちらの存在に気付いたのであれば、女性たちを生かしておくはずがない。『攫われてここに連れて来られた』などと証言されでもしたら、身の破滅だからな。既に女性たちを始末してシゼを引き払ったから、魔物たちを動かす必要がなくなった――という可能性も考えられる。いずれにせよここでこうしていても、何も分からない」

「進むより他はないということか……」

 フランツの話を聞いていたクリフがポツリとつぶやいた。そして隊列に向かって叫ぶ。

「全軍、警戒態勢を維持しながら進め!」

 クリフの命令を受けた兵士たちは、隊列を崩さずにシゼ中心地を目指して進むのだった。


 一行は中心地への道をひたすら真っ直ぐに突き進む。行く手を阻む罠があるどころか、敵の気配すらまるでない。行軍はすこぶる順調だ。順調すぎて恐ろしい程に。

「……落ち着かないようだな」

 周囲を警戒しなが歩くアレンに、フランツが声をかける。

「はい。少し順調すぎるんじゃないかと思って……」

「敵がワンサカ出て来るヨり進みやすくてイイじャねェか。何をそンなに心配してンだ?」

 能天気に尋ねるガラルドにアレンは答える。

「勇者が俺たちに気付いていないのなら、何の問題もありません。でも、もし俺たちの存在に気付いていて、あえて手を出さないでいるとしたら? 逃がさないように奥地まで誘い込んでから、一気に叩くつもりだとしたら? そう考えたら、どうにも落ち着かなくって……」

「そン時はそン時だ。戦ッて勝ちャイイ。そのためにベシス軍に出張ッてもらッたンじャねェか」

「それと……」

「まだあンのか?」

「さっきフランツさんが言ったように、既に勇者は全てを終わらていて、何もかも手遅れだったとしたら? 考えたくないけど、もう妹は……。そう思うと気が気じゃないんですよ」

「いくつもの可能性を考慮して動くというのはいい心掛けだ。私が話したのはあくまで可能性の一つに過ぎない。そう悲観するな。決して楽観できる状況ではないが、悲観に徹する状況でもない。悲観は事実を曇らせ、楽観は事実を捻じ曲げる。大事なのは極限までに主観を排除し、あるがままに事実を捕らえること。そして今は事実を知るために行動する時だ。考えるのはその後でいい」

「そう……ですね。気にしたって仕方ないし、数ある可能性の一つとして頭に置いておきます。でもやっぱり骨が動かなくなったことに加えて、俺たちの動きに対して、勇者側から何の反応もないのは気になりますね。気付いていないのか、気付いているけどあえて見逃しているのか……」

 二人のやり取りを見てエトンが言う。

「何だかフランツさんとアレンさんって、似てますよね」

 エトンの何気ない発言に、アレンはフランツと自分を見比べる。容姿や服装、体型などを比較してみるが、自分の目からは似ているとは思えない。パッと見た印象もまるで違う。都会的でスマートなフランツに対し、自分は見るからに冴えない田舎者だ。

「どの辺が? 自分ではそうは思えないけど……。見た目や雰囲気だって全然違うし……」

「外見じゃなくって、内面の話ですよ。もっと言えば、"考え方"……ですかね?」

「"考え方"?」

「お二人とも常に色々と考えていると言うか、考えていることが同じと言うか、息ピッタリと言うか……。ほら、王様の前でアレンさんが話をすることになったじゃないですか? あの時って事前に何を話すか決めてたりしたんですか?」

 エトンの問いに、フランツは首を横に振る。

「いいや。あの場でアレンが話をすることになったのは、あくまで突発的な事態だ。事前に打ち合わせをする暇などなかった」

「あン時アレンの話がなければ、ベシスの協力も得られなかッたかもしれないワケだろ? 一歩間違えば、ゼンブ台無しになッてたかもしれねェって時に、ヨく的確に話ができたな」

「あの時フランツさんと目が合って、何を求められているのかが何となく分かったんです。何を言うべきか……、何を()()()()()()か……。フランツさんと行動するようになって、少しずつ考え方が似てきたのかもしれません」

 アレンは謁見の場で話した内容をそう振り返った。しかし「似てきた」と言う言葉は適切ではない。

 アレンはフランツに憧れていた。腕力に頼らず頭と話術を用いて人を動かす。そんな魔法じみたフランツの力に彼は驚き魅せられた。そして思った。「自分もこの人のようになってみたい」と。

 その日からアレンは、フランツならどう考えるのかを意識するように心がけた。似てきたのではなく、その様になろうと行動してきたのだ。彼は知らず知らずの内に、師の背中を追って成長していたのだった。

「確かにアレンもセンセーも揃いも揃ッて、次から次へアレコレと考えるヨな。考えてばかりで疲れねェのか? 考えるのは大事かもしれねェが、考えてばかりじャ、頭デッカチになッちまうゼ。そンなに気張ッてちャ長生きできないゼ?」

「ガラルドさんはもう少し考えた方がいいと思いますけどね」

「あァン?」

 アレンの言葉にフランツも頷く。

「確かにな。君の言うことも一理あるが、君は少し思慮が浅い傾向にある。武力には腕力だけではなく頭も必要だ。考えて行動することは、戦いにおいてもかなり重要だぞ」

「そうですね。ガラルドさんの強さに策略が合わさったら、もう手が付けられませんね」

「チェッ、とンだトバッチリだゼ。センセーだけならまだしも、アレンまで口が達者になッちまッたら、かなわねェゼ。口ウルサイのが二人に増えちまッた」

 フランツとアレンの連携に、ガラルドはバツの悪そうに頭を掻きながらぼやく。その様子を見たエトンは、「やっぱりお二人は息ピッタリですね」と笑った。

 和やかな空気。敵地の真っ只中に向かっている最中とは思えぬ程に穏やかな旅路。この平穏な旅路が嵐の前の静けさであることを、彼らは未だ知らない。

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