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第54話 王の決断

2022年最後の投稿。来年も頑張ります。メリークリスマス。

 突如の事態に驚きながらも、アレンは青年を観察する。

 年はずいぶんと若く見える。自分と同じぐらいだろうか。恐ろしく端正な顔立ちに加え、艶やかな白銀の髪色は見る者の視線を捕らえて離さない。

 服装も洗練されている。赤いマントを身に纏い、その下は真っ白な詰め襟のジャケット。同じく真っ白なスラックス。膝丈の黒いブーツで足元を固め、腰には宝石をあしらった細身の剣を帯刀している。

 青年は赤いマントを翻し、つかつかと玉座へと歩み寄る。国王の前だが、全く臆した様子はない。

(おかしい……)

 アレンは訝しんだ。それは青年自体ではなく、周りの様子に対してだった。

 招かれざる闖入者が現れたにも関わらず、誰も青年を止めようとしない。王の警護のために集められたであろう兵士たちは、誰一人として剣を抜くこともなく、ただ立っているだけだ。呼ばれてもいない人物が王の元へ近付くなど、あってはならない緊急事態のはず。それなのに何故、誰もこの不審者を取り押さえようとしないのか? 

「無礼者! 合議の真っ最中だぞ! 其方の出る幕ではない。今すぐに自分の部屋に戻れ、アルフレッド」

 王は威厳たっぷりに青年を叱りつけた。名前を知っているということは、王にとってこの青年は身近な人物であるということだ。

「確かに私は貴方に比べれば若輩者……。ですが! この国を憂う気持ちは誰にも負けません! 罪のない者たちの命が、勇者たちの手によって奪われた……。貴方はこのような非道な行いを見過ごすおつもりなのですか!? 父上!」

 青年は国王をそう呼んだ。それが誰も彼を取り押さえない理由だった。

 青年は不審者などではなく、ベシスの第一王子、アルフレッド・ド・ドレスティアその人だった。

 黙り込む父に、アルフレッドはさらに問う。

「勇者が各地から女性を攫っているということは、我が国に対する主権の侵害です。これはベシスへの敵対行為に他なりません。それを捨て置くつもりですか? 攫われた女性たちは……マーガレットはどうなるのです? まさか見捨てるおつもりですか?」

 アルフレッドの歯に衣着せぬ物言いに国王は渋い顔だ。誰もが国王に遠慮して自分の意見を言えない中、このずけずけとした物言いは実に頼もしい。親子という血縁関係のなせる業だ。

 アルフレッドは王女のことを「マーガレット」と呼び捨てにした。もしも王女の方が年上ならば、彼は王女を「姉上」と呼ぶはずだ。つまり二人は兄妹ということになる。

(俺と同じか……)

 アレンは思わず心の中でつぶやいた。アレンとアルフレッド。奇しくも二人は同じ状況だ。

 勇者に妹を連れ去られ、その身を案じる兄。アレンはたちどころに王子に親近感を抱いた。そしてそれはアルフレッドも同様だった。

「私には()の者の気持ちが痛い程よく分かります。家族を奪われどれだけ深い悲しみに包まれているか! 妹を拐されどれだけ激しい怒りに燃えているか! 父上は私の出る幕ではないとおっしゃられましたが、兄として妹の身を案ずるのは当然のことです!」

 アルフレッドはアレンを手で指し示し、高らかに叫んだ。アレンがアルフレッドに親近感を抱いたように、アルフレッドもまたアレンに共感した。妹を攫われた兄という共通点が二人を結び付けた。

 平民と王子。身分の違いはあれど、妹を心配する気持ちに貴賤はない。

「……よし」

 沈黙を貫いてきた国王がおもむろに口を開いた。その場にいる誰もが固唾を呑んで次の言葉を待つ。

「其方らの話はよく分かった。余は――」


「それでは今しばらくこの部屋でお待ちください」

「チッ、まーたここでオアズケかヨ。人を待たせるのが好きだね、この国の連中は」

 扉を閉めた兵士に向かって、ガラルドが毒づく。

「まぁ、そう言うな。先方にも色々と準備が必要なのさ。兵への通達や装備の用意、進軍経路の確認……。それらの準備が整ってようやく動けるというわけだ。組織というのは動くのにとにかく時間がかかるものだ。一月(ひとつき)二月(ふたつき)、下手すれば数十年なんてのもザラだぞ」

「ま、まさかそこまで待たされませんよね……?」

 フランツの言葉にエトンは不安そうに恐る恐る尋ねた。

「そこまで時間を要するのであれば、一旦解放されるはずだ。再びこの部屋に通されたということは、そう時間はかからずにお呼びがかかるだろう。それに散々『時間はない』と脅しをかけたしな」

「それならイイけどヨォ。それにしても本当にセンセーの言ッた通りになッたな。まさかマジで国を動かしちまうなンてなァ……」

 ガラルドはしみじみとつぶやいた。

 国王との謁見終了後、彼らは再び先程の客間へと通された。彼らの話を聞いた末に、国王はある決断を下した。

『其方らの話はよく分かった。余は拐された者たちの救出に力を尽くす。準備を急げ』

 国王は彼らの話を受け容れ、シゼに兵を送ることを決断したのだ。

「私もびっくりしました。本当にベシスを動かしてしまうなんて……。やっぱりフランツさんはすごいです! アレンさんもそう思いますよね?」

「えっ? あ、あぁ……」

 エトンに話を振られたアレンは、上の空で生返事をする。

「ボンヤリしてんなァ。さッきまでの威勢はどうした?」

「いやぁ……何だか今頃になって、思い切ったこと言っちゃったなぁと思って……」

「それで気が抜けたッてか? だらしねェなァ」

「でも、王様の前で話をするなんて誰だって緊張しますよ。アレンさんは立派でしたよ。ちゃんとご自分の言葉で最後まで話をしたんですから」

「王が兵を動かす決断を下したのは、王子の説得があったからこそ。そしてその説得を引き出したのは、間違いなくアレンの功績だ。王子がアレンの言葉に共感し、王を説得してくれたおかげでこの国を動かすことが出来た。よく私の考えを汲み取って話を進めてくれたな」

 思いがけない称賛の言葉に、アレンは照れ臭そうに頭を掻いた。

「余計なこと言わないように必死でしたよ。王子様が俺に共感してくれたのも、たまたま同じ境遇だったからってだけで……」

 自分が口にした言葉でふとあることに気が付いたアレンは、フランツに尋ねる。

「フランツさん、一つ聞いてもいいですか?」

「何かね?」

「ベシスの王女様が勇者に攫われたなんて話、どうやって調べたんですか?」

 アルフレッド王子がアレンに共感したのは、勇者に妹を攫われたという共通点があったからこそだ。フランツの話を聞いた国王はひどく驚いた様子だった。あの反応は国王もその事実を知らなかったということだ。さらにフランツは魔女の言葉を捏造した。あそこまではっきりと言うからには、何か決定的な証拠を掴んでいるに違いない。アレンは続ける。

「女神も魔女も、王女様の話なんてしてなかったですよね? 少なくとも俺はフランツさんの話を聞くまで、王女様のことなんて知りませんでした」

「確かに俺もセンセーと行動するヨうになッてしばらくタつが、そンな話聞いたコトねェな」

 アレンの言葉にガラルドも同意する。

「きっかけは街中で耳にした『ここのところ、マーガレット様を見ていない』という些細な噂話だ。最初は気にも留めなかったが、魔女の話を聞いてピンと来た。『王女が表に姿を現さなくなったのは、勇者が関わっているんじゃないか?』とな」

「それで王女サマの話をして、カマかけたッてワケか」

「その通り。王女の話を聞いた王は冷静に振る舞ってはいたが、明らかに反応を示した。そこで魔女の言を借りて、一気に畳み掛けたというわけだ」

「もし王サマが反応しなかッたら、どうするつもりだッたンだ?」

「たとえ反応しなかったとしても、言うことは同じさ。シゼに行くように差し向けるのが目的だったからな」

「それで結局、どうやって王女様の行方を調べたんですか?」

「調べてはいない」

「えっ?」

 フランツの返答に、アレンは思わず聞き返す。

「魔女の話を聞いた後、我々は兵士たちに捕らえられてしまったからな。王女の件はあくまで今までの証言を基にした推理、可能性の話さ」

「……つまり勇者が王女様をシゼに連れ去ったって言うのは……」

「状況的にはかなり怪しいが、実際にいるかどうかは行ってみなければ分からないな」

 フランツはあっさりと自白した。彼は勇者による王女誘拐の証拠など掴んではいなかった。ただ有利に話を進めるためだけに、魔女の言葉を捏造したのだ。

 三人の話を黙って聞いていたエトンが慌てて割って入る。

「も、もしシゼに王女様がいなかったらどうするつもりなんですか!?」

「その時は魔女が嘘を吐いていたということにする。シゼに王女がいると言ったのはあくまで魔女。少なくとも彼らはそう認識している。我々は魔女の妄言にまんまと乗せられたということにすればいい。今さら真実なんて確かめようもないしな。『死人に口なし』というやつさ」

 フランツは臆面もなく、そう言い放った。

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