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第53話 青年の主張

中世ファンタジーって必ず王様出てくるよね

「なっ……!」

 フランツの言葉に、その場にいた誰もが絶句した。場の空気が一気に重くなのを感じる。だが、そんな空気などお構いなしにフランツは続ける。

「シゼには連れ去られた女性たちが大勢おります。彼女たちを救い出せば、勇者の蛮行を示す確実な証拠となりましょう。しかし勇者がみすみす自らの悪事の証拠を残しておくとは思えません。我々の手が及ぶより早く、女性たちを皆殺しにして証拠の隠滅を図るでしょう。殺してしまえば秘密が漏れることはありませんからね。勇者はそれを魔王の仕業と主張するでしょう。『死人に口なし』というやつですよ」

 死人に口なし。魔女が死んだのをいいことに、意図的に事実を捻じ曲げた張本人が言うと説得力が違う。いけしゃあしゃあとフランツは言う。

「もしもマーガレット様の御身の安全を考えるのであれば、猶予はありません。勇者が女性たちを手にかける前に、一刻も早くシゼへと向かうべきです。今こうしている間にも、命の危機が迫っているやもしれません」

 フランツは国王の危機感を煽るように一気にまくし立てた。これもまたフランツの作戦だった。

 危機感を煽り決断を迫ることで、相手に考える時間を与えない。そうすることで冷静な判断力を奪い、こちらに有利な条件を選ばせる。詐欺師の常套手段だ。しかし王もさしたる者。フランツの揺さぶりに動じることなく、冷静な態度を保っている。王は知っていた。不安や焦りなどの一時の感情に流されて決断を下すことの危うさを。

 国王という立場上、国の行方を左右する選択を強いられるは日常茶飯事だ。一つの判断の誤りが、家臣や臣民の命を危険にさらすことになる。たとえ火急の事態であっても、よく吟味した上で最善の選択をしなければならない。それが統治者たる者の務めなのだ。

 色のいい返事を得られなかったフランツは、今度は別口から攻めることにした。

「我々の他にも勇者の悪事について知っている者たちがおります。もしも我々の話だけでは信じられないのでしたら、その者たちにも証言させましょう。都にゴードンという町医者がいます」

「ご、ゴードンだとっ!?」

 フランツの言葉に、クリフはひどく驚いた様子で叫んだ。

「突然、どうしたと言うのだ?」

 国王に尋ねられたクリフは小さく咳払いをして答える。

「し、失礼いたしました。その者とは旧知の仲でして……」

「それならば話が早い。クリフ隊長殿のお知り合いということならば、十分に信用できる人物のはず。ゴードン氏の証言が得られれば、我々の話が嘘ではないということがお分かりになりましょう」

「どうなのだ? クリフよ。そのゴードンという者は信用できるのか?」

「はっ。この者の言う通り、ゴードンは都で町医者を営んでおります。実直な人柄で患者や人々からの信頼も篤く、我がベシス軍も怪我や病気の際は世話になっております。確か今日は傷病兵の回診のために、ベシス城まで来ていたかと」

「それならば尚の事話が早い。ゴードン氏に直接聞けば、全てお分かりになるかと存じます」

「それでは急ぎここに連れて参れ」

 王の命令に数人の兵士が部屋を出て行った。まさかクリフとゴードンが昔からの知り合いで、それもこんな大事な時に城まで来ているとは、何たる偶然だろう。いや、もしかしたらこれも全てフランツの計算通りなのかもしれない。

(まさか……。いや、でも……)

 アレンは心の中で否定と肯定を繰り返す。ただの偶然で片付けようとしたが、フランツならそこまで考えていたとしても不思議ではない。

(……だとしたら、とんでもない人だ)

 アレンは横にいるフランツの顔を盗み見た。いつもと何も変わらぬ涼しい顔。国の最高権力者を前にしても、堂々たる態度は健在だ。この人には恐れや緊張というものはないのだろうか?

(……やっぱりとんでもない人だ、この人)

 アレンは心の中でつぶやいた。


 程なくして兵士たちはゴードンを連れて広場に舞い戻って来た。当のゴードンは事情が飲み込めずに戸惑っている様子だ。おずおずと口を開く。

「お目にかかれて光栄です、陛下。それで……どのようなご用件でしょうか?」

「陛下に代わり私から話そう」

 ゴードンの質問に答えたのは王の隣に立っている側近だった。側近はゴードンを見据えて言う。

「この者らは、魔王は既に勇者殿によって討ち滅ぼされたと主張している。その上、勇者殿はその事実を偽り、各地から人を攫っているとまで申している。この者らの話によれば、其方もこのことを把握しているそうだが、それは真か?」

「……既に魔王が討ち滅ぼされたという話は存じ上げませんが、勇者が人を攫っているという話は私も存じております」

「どのような経緯でその話を聞いたのだ?」

 そう問われたゴードンは、アレンに視線を向けながら答える。

「今、そこにいる彼の弟から聞いたものです」

「弟?」

「その件につきましては、当事者の口から話すのが一番でしょう」

 フランツはゴードンが口を口を開くよりも早くそう答えると、アレンに目配せをした。

 ティサナ村で起きた火災と妹の行方、それと君の弟の最期の言葉を話すんだ。ただし、()()()()は言わないようにな。

 フランツは何も言わなかった。しかし確かにそう言った。行動を共にし死線を乗り越えて来たおかげで、アレンはフランツの考えをすっかり理解できるまでに成長していた。アレンは小さく頷くと、ぽつぽつと話し始める。

「俺……私はベシスの山間にあったティサナ村で生まれ育ちました。何もない小さな村だけど、豊かな自然に優しい人たち、それに大切な家族に囲まれて幸せな毎日でした。そんなある日のことです。勇者、魔女、魔族の三人が村にやって来たのは。村の人たちは、世界のために魔王と戦う勇者一行を盛大にもてなしました。その夜……村で火災が起きました。朝から村を離れていたおかげで助かった俺……私は、家族の無事を確かめるために燃え盛る炎の中に夢中で飛び込みました。何とか弟を見つけて助け出しましたが、弟以外は……もうみんな手遅れでした。急いでゴードンさんのところに連れて行ったけど、ひどい火傷でどうすることもできず……。それでも弟は、最後の力を振り絞って真相を伝えてくれました」

「ふむ……どのような真相だ?」

 国王は興味深そうにアレンに尋ねる。アレンは答える。

「はい。私には17になる妹がいます。その妹は勇者に攫われました。弟はそのことを私に伝えてくれたんです。たまたまその現場を見てしまった弟は、勇者の罪を止めるために必死に立ち向かいました。でも、幼い弟が勇者に敵うはずがなく……。魔女は罪の証拠である目撃者(おとうと)を消すために、魔法を使って村に火を放ちました。魔女もまた、魔王の死を世間に知られたくなかったからです。弟はそれらの真相を話し終えると……息を引き取りました。その後はさっき話した通りです。確かに勇者は魔王を倒して世界を救ったのかもしれません。でも、その後のことを考えると……。妹を攫って、村のみんなを焼き殺したと思うと……俺は絶対に勇者を許せないッ……!」

 アレンは使い慣れない敬語で必死に話した。聞くに堪えない拙い敬語だった。最期の部分に至っては、もはや説明ですらない単なる個人的な感想だ。だが、それが良かった。

 朴訥な青年が話す正直な胸の内は、飾り立てた美辞麗句や理路整然とした論理的な説明よりも、遥かに強く聞く者に訴えかけた。

「私は彼の弟の治療に当たり、その最期にも立ち会っております。彼が今した話は、確かに私も伺っております」

 ゴードンはアレンの主張を肯定するように、そう証言した。

「うーむ……。いかがなさいますか? 陛下」

 それぞれの話を聞き終えた側近が、当惑した様子で国王に尋ねる。全ての証言が勇者の悪行を示している。側近も心の中では勇者が()()であると認めているはずだ。

「……」

 しかし王は黙したまま動かない。いくらこの場にいる全員が勇者を「悪」と断定しても、王が不問に付せばそれで終わりだ。黒いものでも王が白と言えば白になる。それ程までに国王の権力は強かった。

「失礼いたします!」

 その時、広間の後方から高らかな声が響いた。その場にいた誰もが、声のした方に視線を向ける。広間の扉は開け放たれ、その先には一人の青年。

「一体、何をお迷いになっているのです! 私にはこの者らが嘘を吐いているようには到底思えません! もはや勇者が悪であることは明白! ただちにシゼに兵を送り、一刻も早く攫われた女性たちを救い出すべきですッ!」

 広間には再び、青年の主張が高らかに響いた。

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