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第52話 謁見

雰囲気で書いたから、敬語は大概適当だ!

 兵士の登場にアレン、エトン、ガラルドの三人は少なからず動揺した。まだフランツが用意した策の全容を聞いていない。これではベシス国王の前でどう振る舞えばいいのか分からない。

 そんな三人の不安をよそに、フランツはカップに残った紅茶を一気に飲み干して言う。

「ようやくお呼びがかかったか。喉の渇きも癒えたし、丁度いい頃合いだな」

「待ッてくれヨ、センセー。話がまだ……」

「なに、心配するな。全て私に任せておきたまえ」

 フランツはまるでガラルドの言葉を制止するかのように、力強く宣言した。


 広く長い廊下を真っ直ぐに歩く。廊下には一面に赤い絨毯が敷き詰められており、その上には塵一つ落ちていない。王の威光を示すかの如く、隅々まで掃除が行き届いている。

 前には兵士が二人。その後をアレンとフランツが二列になって歩く。その後ろにはエトンとガラルド、さらにその後ろにはまた兵士が二人。前後を武装した兵士に囲まれて歩く様は、まるで連行される罪人だ。

「王様に会うッてだけなのに、ズイブンと厳重だな。こうもロコツだと、いッそスガスガしいゼ。俺らのコトをまるで信用してないッてワケだ」

 ガラルドも同じ思いを抱いていたらしく、当て擦りのようにわざとらしくぼやく。

「万が一に備えて動くのも我々の役目ですから」

「ヘッ、武器はおろか持ち物もゼンブ取り上げられたッてのに、何ができるッてンだヨ」

「殿中だぞ。口を慎みたまえ」

 ガラルドの言う通り、彼らは持ち物を全て取り上げられていた。アレンは大した物は持っていなかったので特に気にしてはいなかったが、ガラルドはそれが気に入らないらしい。不満を露わにするガラルドに対し、フランツは宥めるように窘める。

 そんなやり取りをしていると、前を歩く兵士が足を止めた。目の前には周りを金で縁取られた純白の扉がある。白と金のコントラストが重厚さと荘厳さを際立たせている。

「この先に陛下がいらっしゃいます。くれぐれも粗相のないように」

「百も承知だ。真心を込めた慇懃な態度で臨ませてもらうさ」

 フランツの返答を聞くと、兵士は両開きの扉を二人がかりで押し開けた。

「さぁ、どうぞ。陛下の御前(おんまえ)へ」

 そう促された彼らは、しずしずと王宮へと足を踏み入れる。左右には数十名の武装した兵士たちが入室者を取り囲むように整列している。部屋の奥には壇が設置され、一番高い場所には玉座が配置されている。

 そして視線の先、玉座には一人の男性が座している。顔中を覆う真っ白な髭。頭に乗せた金の冠。赤いマントを羽織り、右手には宝石をあしらった金色の杖を握っている。一目で王と分かる威厳のある風貌だ。

 王座の前には王を守るように屈強な体格の二人の兵士が立っている。よく見ると片方はクリフだ。

「お目にかかれて光栄でございます、国王陛下。私共のためにこのような機会を設けていただき、恐悦至極に存じます」

 フランツはいかめしい顔で鎮座する国王に臆することなく、歩み寄り挨拶の弁を述べた。丁寧な物言いのはずなのに、何故か不遜に聞こえてくるから不思議だ。

「前置きはいい。其方(そなた)らの知っていることを包み隠さず申してみよ」

 フランツの不遜さを見抜いたのか、国王の傍に立っていた男がすぐに話をするように急かした。男は鎧ではなく、高価そうな身なりのいい格好をしている。王の近くに立つことを許されているということは、この男は文字通り王の側近なのだろう。

「畏まりました。四人がそれぞれ話すとなると時間がかかりますので、代表して私奴(わたくしめ)が申し上げます。結論から申しますと、既に魔王は勇者の手によって討ち滅ぼされています。そして勇者はその事実をひた隠しにしております」

「何を馬鹿なことを……。ならば、今世界中を荒らしまわっているのは一体、何だと言うのだ? そもそも、そのような事実を隠して勇者殿に何の得がある?」

 側近は呆れたような口調でフランツの発言を否定する。冷ややかな反応は想定内とばかりに、意に介した様子もなくフランツは続ける。

「自らの罪を隠すためです」

「罪?」

「勇者は自らの欲望のため、各地から若く美しい女性を攫っております。その罪を魔王に擦り付けるために、魔王が生きていると偽っているのです」

 フランツの言葉に、今まで無表情だった王の眉毛がぴくりと動いた。にわかには信じがたい話に沈黙を守っていた兵士たちも、ざわざわと騒ぎ出した。

「魔王が既に死んでいるだと?」「そんな、まさか……」「信じられん! デタラメに決まっている!」

「ええい! 静まれ! 陛下の御前だぞっ!」

 側近は兵士たちを一括すると、フランツに向き直る。

「一介の平民に過ぎない其方らが何故、そのような事を知っている?」

「我々は魔王と勇者の関係に疑いを抱き、各地を調べ旅をしてきました。調査を進めていく内に疑惑は深まり、遂には我々の前に魔女が現れたのです。恐らくは我々が勇者について調べ回っていることに勘づいたのでしょう。魔女は巨人を引き連れ、我々に亡き者にせんと襲いかかってきたのです」

「……確かに貧民街には人間のものとは思えない巨大な死体があったと聞いている。そうだったな? クリフ隊長」

 側近はクリフに尋ねる。

「はっ。実際に現場を見た兵士からは、確かにそう報告を受けております。その他に頭と両手足のない鎧を着けた惨殺死体があったと」

「その死体は勇者の仲間の剣士のものです」

 クリフの言葉を補足するようにフランツは説明する。クリフは問う。

「そこで何故、剣士が出て来る? 襲って来たのは魔女のはずだろう?」

「魔女は捕らえられていた剣士を手引きをし、我々を襲うように仕向けたのです。魔法の力で警備の目を欺いたのでしょう」

「……なるほど、そういうことか」

 剣士の逃走に思い当たる節のあったクリフは、合点がいったようにつぶやいた。

「剣士は勇者の本性を知りませんでした。勇者に騙されていたのです。()()()()の末に勇者の悪意に気付いた剣士は、我々の仲間となる決断をしました。この者もまた勇者の仲間でしたが、勇者の悪事を知り、それを止めるために義の道を選びました」

 フランツはそう言ってエトンを紹介した。突然、指名されたエトンは恐縮したように一礼する。

「しかし魔女は裏切りを許さず、我々に牙を剥きました。死闘の果てにどうにか勝利を収めたものの、その代償は大きく、仲間となった剣士は無惨にも巨人に食い殺されてしまいました」

 クリフはさらに尋ねる。

「あの死体が剣士のものなら、魔女はどこに行ったんだ? 現場に魔女の姿はなかったと聞いているが」

「敗れた魔女は勇者の悪事に加担した罪を悔い、全ての真相を告白した後に自害しました」

「自害しただと?」

「ええ。自らの魔法の炎で骨一つ残さずにその身を焼き尽くすという壮絶な最期でした」

(……違う)

 アレンは心の中でフランツの言葉を否定する。魔女は自害などしていない。確かにあの時の状況を考えれば、自害と呼ぶのが妥当かもしれない。だが、魔女は決して自害などしていない。魔女は自分の行いを悔いてなどいなかった。それだけは疑いようのない事実だ。

「時に陛下、マーガレット様はご息災でしょうか?」

 フランツは突如として話を変えた。黙って話を聞いていた王は目を見開いてフランツを見た。

「噂によればマーガレット様はここ数か月もの間、ご自身の部屋に閉じこもられているとか……」

「……それが今回の件と何の関わりがある?」

 王は初めて口を開いた。威厳たっぷりの口調だが、どこか心の揺らぎが感じられるような気がした。

「関わりがあるかどうかは、陛下が一番よくご存じのはずです。先程申し上げた通り、勇者は自らの欲望のために各地から若く美しい女性を攫っております。そして、その中には……マーガレット様がいらっしゃるとのことです」

「なにっ!? それは(まこと)か?」

 フランツの言葉に、王は思わず立ち上がって尋ねた。今度ははっきりと感情を表に出した。

「ええ、もちろんですとも。魔女は死の間際に『ベシスの王女は他の女たちと一緒にシゼの城に捕らえている』と、そう言っておりました。我々はこの耳でその言葉をはっきりと聞いております」

 フランツは王の顔を真っ直ぐに見据えてはっきりと言った。


『ちなみに勇者は各地から気に入った女を集めて回ってるよん』


 確かに魔女はあの時、ふざけた口調でそう言った。だが、その中にベシスの王女がいたなんて話は初耳だ。あの時あの場にいたアレンもエトンもガラルドも、そんな話は聞いていない。

 当然だ。魔女はそんなこと、一言も言っていないのだから。フランツは嘘を吐いている。彼が今まで滔々と述べてきた話は、全て紛れもない事実だ。ただ一点、魔女の最期を除いては。

 フランツのやり口は実に巧妙だった。相手に疑いを抱かせることなく自分の話を信じ込ませるには、声と態度が重要だ。フランツはこの場にいる誰もが聞き取れる程の声量で、はっきりと魔女の発言を捏造した。人は話の中身よりも声のトーンや大きさで相手を判断する。か細い声で真実を語るより、力強い声で嘘を吐く方が信用されるのだ。

 嘘の混ぜ方も絶妙だった。九十九の真実に一つの嘘を混ぜれば、見分けるのは難しくなる。砂糖の中に砂が一粒混ざっていたとしても、それを見つけ出すのが難しいように。

 誠実に事実を語り、話に信憑性を持たせたところで嘘を混ぜ込む。無論、魔女がそう言ったという証拠はない。だが、当の本人(まじょ)は既に死んでいる。つまりは、誰も発言の真偽を確かめることはできないのだ。そうなればもう言った者勝ちだ。

 さらに、最初に『代表して自分が話す』と言ったのにも理由があった。兵士たちの目もあり、話す内容について事前に擦り合わせる時間はなかった。

「恐らくアレンたちは、聞かれたことに正直に答えてしまうだろう。そうなると私が用意した話と矛盾が生じる」

 そう考えたフランツは、矛盾を防ぐために自分一人が話すと表明したのだ。

「勇者の悪事を暴くにはシゼに向かうより他ありません。何よりも女性たちの……、そしてマーガレット様の命がかかっております」

「ううむ……」

 国王は真っ白な顎髭をしきりに撫でながら考え込む。考えているということは迷っているということだ。

「差し出がましいようですが、お急ぎになられた方がよろしいかと。まだ勇者は私たちが真相にたどり着いたことを知りません。しかし勇者がそのことに気付けば、おそらくは取り返しの付かない事態に……」

「……どういうことだ?」

 含みのある言い方に思わずそう尋ねた国王に、フランツは冷たく言い放つ。

「勇者は女性たちを皆殺しにするでしょう」

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