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第48話 国を巻き込む

本編再開のお知らせ

 ベシスの都の一角にある兵士たちの詰め所。その檻の中でフランツは思考を巡らせていた。

(あの時……、魔女は何をするつもりだったんだ……?)

 備え付けの粗末なベッドに寝転がり、フランツは考える。

(奴は一体、何をした? 自決? いや、違う。だとすると直前の発言と矛盾する)


『あたしに歯向かった報いを受けろッ! 死ねぇぇぇぇぇぇ!!!!!!』


 最後に聞いた魔女の言葉は、とても自決をしようとする者の台詞ではない。魔女は剝き出しの殺意をこちらにぶつけようとしていた。だが、魔法はどういうわけか魔女自身の身体を焼き尽くした。

(魔女は明らかに我々を殺す気だった。そんな奴が自決をするなどあり得ない。自決でないとするならば、事故か? それとも失敗? しかしそう都合良く事故など起きるだろうか? あの大事な局面で魔法を失敗するとも思えん)

 フランツは目を閉じると、もう一度あの時の光景(シーン)を思い返してみた。魔女は怒りの叫びと共に杖を振った。その瞬間、意思を持ったかのように炎が襲いかかって来た。やはり魔女はあの時、魔法を使ったのだ。失敗などしていない。炎はこちらに向かって来ていたはずが、何故か魔女自身を焼き尽くした。考えられるとすれば――

(魔法を跳ね返した……ということか? しかし我々の中にそんな芸当が出来る者がいるとは……)

「フランツさん……、聞こえますか?」

 フランツが思案をしていると、隣の房から自分の名を呼ぶ、よく知っている声が聞こえてきた。

「その声はアレンか? 隣の房だったとはな」

「フランツさんが隣で安心しましたよ。どうやらここに入れられたのは俺たちだけみたいですね。ガラルドさんとエトンは大丈夫かな……」

「なに、我々がこうして無事ということは、あの二人も無事ということさ。恐らく他の部屋に収監されているのだろう。ここには檻が二つしかないからな」

 不安気なアレンに対し、フランツはいつも通り冷静に答える。

「それならいいですけど……。俺たちはこれからどうなるんですか……?」

「あの場所で何が起きたのか、何をしていたのか、そして我々が何者なのかをくまなく聞かれることになるだろうな。いわゆる取り調べという奴だ」

「それって俺たちの正体や目的が知られるってことじゃないですか!? まずいんじゃないですか?」

「うむ。こうなってはもう言い逃れはできまい。もはや秘密裏に行動する段階ではなくなったというわけだ。これからは如何にこのベシスという国を巻き込むかが重要になってくる」

「国を巻き込む?」

「その前にアレン、君に一つ謝っておかねばならないことがある」

「何ですか、突然? 別に謝られるようなことをされた覚えはありませんけど……」

 訝し気に尋ねるアレンにお構いなしにフランツは話す。

「私は魔女を捕らえて真相を話させるつもりだった。両手さえ封じてしまえば魔法は使えないと踏んでいたが、見通しが甘かった。結論は君の方が正しかったわけだ。あの時、素直に君の意見を聞き入れていれば、あの様な事態にはならなかっただろう。危機を招いたのは私の責任だ。すまない」

「なんだ、そのことですか。いいですよもう。過ぎたことじゃないですか。それよりも、どうやってここから抜け出すかを考えるのが先じゃないですか?」

「それならもう考えてある」

 フランツの事もなげな返答に、アレンは唖然とした。壁と鉄格子に阻まれているため顔は見えないが、きっといつもの通り涼しい顔をしているに違いない。すでに次の手を考えているからこそ、この状況でも冷静でいられるのだ。一体、いつの間に考え付いたのだろう? この人の抜け目のなさには、驚きを通り越して呆れるばかりだ。何とか気を取り直してアレンは尋ねる。

「どうするつもりですか?」

「当初の予定では、捕らえた魔女をベシス兵に引き渡し、真相を話させるつもりだった。勇者の真の姿をを知れば、国も動かざるを得なくなるからな。だが、肝心の魔女は死んだ。ならば、我々が真相を話すより他はない。我々は魔女から聞いた話をそのまま伝えればいい。奴が死ぬ前に洗いざらい全て話してくれて助かったよ」

 確かに兵士たちにこの話を知らせれば、事態は大きく動き出すだろう。すでに魔王は勇者の手によって滅ぼされ、その勇者は魔王の名を騙り世界を食い物にしている。にわかには信じがたい話だが、紛れもない事実だ。国がこの事実を知れば、ベシスは勇者に対して何らかの行動を取るに違いない。

「それに考え様によっては、今のこの状況はむしろ好都合かもしれんぞ」

「好都合?」

 アレンはフランツが発した言葉をオウム返しに聞き返した。兵士たちに捕まってしまった今の状況の何が好都合なのだろうか? 

「仮に魔女を捕らえて兵士に引き渡していたら、我々の役目はそこで終わっていたかもしれない」

「……なぜですか?」

「魔王と勇者の秘密を暴いたとなれば、これはとんでもない大手柄だ。世界中の人間が勇者一行の裏の顔に驚き、その功績を褒め称えるだろう。だが、中にはそれを快く思わない者もいる。一平民がその様な手柄を立てたとあっては、王族や貴族連中は面白くない。優れた身分である自分たちが平民ごときに後れを取るなどあってはならない。この極端な身分社会において、彼らはそう考えるはずだ。そして次にこう考える。その手柄を自分たちのものにしてしまえばいい」

「つまり……、横取り……?」

「その通り。あくまでも表面上は功績を称え、いくらかの褒美も出すだろう。だが、それで終わりだ。実際に秘密を暴いた我々はいつの間にか部外者となり、上の身分の者たちが手柄を分け合う。考えられるとすればこんなところか」

「……そんな! それってあんまりじゃないですか!」

 フランツの説明にアレンは憤慨した。手柄を誇るつもりなどこれっぽっちもないが、自分たちが命懸けで暴いた勇者の秘密が他人の手柄になるのは許せなかった。それでは死んでいったトムやジャンヌが浮かばれない。

「今話したのはあくまでも可能性の話だ。まだそうなると決まったわけじゃない。しかしあり得ないとも言い切れない。そうさせないためには、我々が勇者一行と戦ってきた当事者であるということを明確に主張して、人々に()()()()()必要がある」

 フランツは何やら含みのある言い方で話を区切った。その言い方が気になったアレンは、フランツの話を整理してみることにした。

(取り調べ、当事者、主張、好都合、国を巻き込む……)

 フランツの話からキーワードを抽出し、点と点を結ぶように一つずつを繋いでいく。おぼろげに見えてきた一本の線を確かめるように、アレンはポツリポツリと話し出す。

「こうして捕まったからこそ、取り調べの場で俺たちの立場を明確に主張できる……。俺たちが勇者と戦ってきた当事者であることを主張して、その事実を知らしめれば、手柄を横取りされる心配もなくなる……。そういうことですか?」

 アレンが導き出した答えに、フランツは短く「あぁ」と返しただけだった。もはやアレンを褒めることもしない。だが、それは信頼の証だった。

 これしきのことでわざわざ褒めるまでもない。これぐらい出来て当然だ、という無言の信頼。フランツは旅の中で目覚ましく成長を遂げたアレンの思考力を高く買っていた。

「でも、そうなると……」

 そう言ってアレンは黙り込んだ。どうやら再び何かを再び何か考えているようだ。フランツはアレンの次の言葉を静かに待つ。彼はアレンが次に何を言うのかを予測していた。()()していたと言ってもいい。

「俺たちが当事者であると主張してそれが認められたとして、人々は俺たちの言葉を信じてくれますかね……?」

(やはり、この話の"穴"を衝いてきたか)

 予測(きたい)通りの言葉にフランツはニヤリと笑い、そして尋ねる。

「何故、そう思う?」

「俺たちが勇者の悪事を告発しても、勇者はその事実を絶対に認めないでしょう。確かに俺たちは真相を掴んでいます。でも、それを示す証拠がない。そうなった場合、世間の人々は俺たちより勇者を信じるんじゃないでしょうか? あの時、魔女が言っていたように……」

「しかし君は、『勇者の仲間が話すのが重要なら、エトンが話せば済む』と言ったじゃないか?」

「あの時はそう思ったんですけど、こうして改めて考えてみるとエトンの証言だけじゃ弱い気がして……。すみません、やっぱりフランツさんに従っておけば……」

「謝る必要はない。最善と思っていた考えが、実はそうでもなかった……なんてのはよくあることだ。事実、私も魔女に真相を話させるのが最善と考えていたわけだからな。こうなった以上、次の手を考えるまでだ」

申し訳なさそうに謝るアレンを責めることもなく、フランツは淡々と話す。そして最後にこう付け加えた。

「それと君は大きな思い違いをしている」

「思い違い?」

「君は勇者の悪事を示す証拠はないと言ったが、それは間違いだ。あの時の魔女と私の会話をよく思い出したまえ」

 そう促され、アレンは記憶を遡る。あの時、魔女は「民衆はどちらの言葉を信じるか」と言った。それを受けてフランツは何と返したか?

「……『シゼには連れ去られた女性たちがいる』」  

「その通り。シゼに連れ去られた女性たちを救出して証人になってもらえばいい」

「でも、シゼへの道は魔物に占領されてたじゃないですか? それはどうするつもりですか?」

「ベシスの軍に協力してもらう。軍の力があれば魔物たちを蹴散らせるだろう」

 確かに軍の協力があれば、あの魔物の軍勢を突破できるかもしれない。しかし――

「軍は俺たちに協力してくれますかね?」

 アレンの疑問は当然だった。軍が絡むとなれば、かなりの大ごとだ。確たる証拠もないのに国が軍を動かすとは思えない。

 またしても予測(きたい)通りの言葉に、フランツは再びニヤリと笑う。そして答えた。

「協力してもらうさ。否応なくこのベシスという国を巻き込んでな」

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