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第47話 プロローグ3 ~存在の証明~

魔女の過去エピソードのついでに書いてたけど、割といい感じに仕上がった

 ある国にある名家があった。古くから王家に仕え、先祖代々王国騎士団の団長を勤め上げてきた名門の家柄だ。

 現当主である彼もまた、団長だった父から厳しく鍛えられ、若くして副団長の地位にまで昇り詰めた。それを『世襲』や『親の七光り』と揶揄する声も少なくなかったが、彼はそんな周囲からの批判に反論することなく、着実に自分の責務を果たしていった。

 数年後、父が隠居することになり、彼は晴れて当主となった。周囲も彼の実力を認め、彼を悪く言う者はいなくなっていた。さらに当主となったのを機に結婚し、間もなくして子供も生まれた。まさに順風満帆、絵に描いたような幸せな人生。しかしそんな彼らの幸せな人生は、"家柄"によって少しずつに歪められていく。

 それから五年の月日が流れた。五年の間に彼は副団長から団長へと昇進し、騎士団を率いる立場となっていた。堅実な働きぶりは王から厚く信頼され、温厚な人柄は部下から広く慕われた。妻との関係は良好で、子供は大病を患うことなく健やかに成長した。公私ともに満ち足りた人生。だが、彼には一つ悩みがあった。庭で無邪気に蝶々を追いかける我が子を眺めながら、彼は深い溜め息を吐いた。彼の悩みの種は、まさにその我が子のことだった。彼の子は娘だった。

 夫婦は相変わらず仲睦まじかったが、娘が生まれて以降は子宝に恵まれずにいた。彼は第二子(むすこ)を強く望んでいた。もちろん娘は愛している。目に入れても痛くない程のかけがえのない存在だ。美しい妻に優しい娘。これ以上、何を望むものがある? 俺は十分すぎるくらいに幸せじゃないか。彼は本心からそう思っていたが、彼の"家柄"がそれを許さなかった。

 彼の家は古くから続く名門であり、その当主は代々騎士団の長を務めることを使命とされてきた。彼の父も祖父も曽祖父も、その役目を果たした。彼もまた周囲から恵まれた出自を妬まれながらも、実力で団長の座を勝ち取った。このまま男児が生まれなければ、次期当主の座には娘が就くことになるだろう。女性が当主になることはそう珍しいことではない。問題は騎士団の方だ。団員に女は一人もいない。古来より戦いは男の役目とされてきたからだ。ましてや女が団長になるなど、前代未聞も甚だしい。

(そもそも娘に騎士が務まるのか? 剣はおろかナイフすら握ったこともないあの子に……)

 養子を取るという手もある。婿でもいい。そうすれば男が団長を務めるというしきたりは守られる。しかしその場合、純粋な血筋を考えると血が途絶えることになる。養子も婿も直接的な血の繋がりはないのだから。

 伝統を取るか、血統を取るか。庭を駆け回る娘を眺めながら、彼は再び深い溜め息を吐いた。


 少女は目に涙を浮かべながら剣を振るう。必死の思いで闇雲に木剣を振り回すが、少女の攻撃を軽く受け流される。さらにお返しとばかりに痛烈な横薙ぎの一閃が飛んで来た。何とか防御の構えを取ったが、力の差をどうすることもできず、少女はそのまま後方へと吹き飛ばされた。

「泣くな! 立て! そんなことで騎士が務まるかっ!」

 小さな手の平で涙を拭う少女に、父の激しい叱咤が飛ぶ。少女は木剣を握り締め、泣きべそをかきながら再び父へと向かって行った。

 あれから二年の月日が流れたが、状況は変わらなかった。依然として子宝には恵まれず、子供は娘一人。このままでは家名に泥を塗ることになる。そう思い悩んだ彼は、娘に剣術を教えることにした。伝統よりも血統を重んじたのだ。

 稽古は苛烈を極めた。大の男でも逃げ足したくなる程の厳しさだ。ましてや幼い少女がそんな過酷な稽古に耐えられるはずがない。それでも父は容赦なく娘を指導した。

 女が団長の座に就くには、並大抵の努力では足りない。団員も納得しないだろう。そんな周囲の雑音を消すには圧倒的な力が必要だ。力さえあれば誰も文句は言えない。この先、この子が騎士として生きていくには、誰よりも強くならなければならない。父は心を鬼にして娘に厳しく当たった。これが親心だと言わんばかりに。これが娘のためなのだと自分に言い聞かせるように。娘が騎士になりたいなど、これっぽっちも望んでいないという事実には目を背けながら。


 それからさらに数十年の月日が流れた。父はその分だけ年を取り、娘はもはや少女とは呼べない程に成長していた。成長したのは身体だけではない。十数年にも及ぶ厳しい訓練は、少女の精神にも変化を生じさせていた。

 置かれた環境が過酷だろうと快適だろうと、いずれ人はその環境に慣れる。初めは嫌々剣を振っていた少女だったが、技術を身に着け少しずつ強くなっていくことに楽しさを覚え始めた。それと同時に、「父の跡を継いで立派な騎士になるのが自分の使命だ」という自覚も芽生えた。

 あの日、泣きじゃくっていた少女はもういない。彼女は身も心も立派な剣士へと成長していた。だが、彼女は未だ騎士ではなかった。騎士というのは、王国騎士団の団員にのみ名乗ることを許された称号だからだ。

 その後も彼女は騎士を目指し日夜、剣の鍛錬に明け暮れた。父の期待に応え、やがては騎士団の長となるために。使命を果たし、自らの存在を証明するために。

 入団試験を翌年に控えたある冬の日、一家に喜ばしい出来事が起きる。待望の男児が生まれたのだ。父も母もそして彼女も、新しい家族の誕生を大いに喜び、心から祝福した。だが、それは彼女にとっての悲劇の始まりだった。

 弟が生まれてから、父の態度は変わった。稽古で叱咤される回数が著しく減り、木剣で激しく打ち合うこともなくなった。今までの鬼のような厳しさはすっかり影を潜め、父の態度は目に見えて軟化した。そしてある日、父は彼女に告げた。

「もうお前に教えることはない」

 彼女はそれを免許皆伝の意味と捉えたが、そうではなかった。()()()()の意味だった。その日から父は、彼女に稽古をつけなくなった。

 父の興味は完全に弟に向いていた。男児がいるのなら、わざわざ娘を騎士にする必要などない。息子(このこ)を騎士として育てればそれで全て丸く収まる。思えば(あのこ)にはずいぶんと辛い思いをさせた。これからは剣のことなど忘れて、女の幸せを見つけて欲しい。それは父からの贖罪にも似た親心だったが、彼女にとっては屈辱以外の何物でもなかった。

 翌年の春、彼女は予定通り王国騎士団の入団試験を受けた。彼女はその年の受験者の中で誰よりも強かった。数十年もの間、現役の団長から直々に手ほどきを受けて来たのだから当然だ。だが、彼女はあえなく不合格となった。

 失意の底に沈んだ彼女は、夜の街を彷徨い吸い込まれるように酒場へと入った。店で一番強い酒を頼むと、それを一気に流し込む。喉が焼ける。涙が出るのは、生まれて初めて飲んだ酒のせいだけではないだろう。溢れる涙を隠すように、彼女はカウンターテーブルの上に突っ伏した。

「しかし勿体ないよなぁ。あれだけの強さで不合格なんてよぉ」

「仕方ないだろう。どれだけ強くとも、女を団員にするなど前例がない」

 隣から聞こえて来た会話の内容に、彼女はそっとその客の顔を盗み見た。二人組の男。その顔には見覚えがあった。昼間、入団試験で見た試験官だ。男たちは騎士団の団員だった。

「そうは言っても、あの強さは群を抜いてるぜ? それによ……」

「それに?」

「あれだけのべっぴんだ。団員の士気も見違えるように上がるだろうに。俺だって今以上の働きをする自信があるぜ」

「お前、団長のご息女に手を出すつもりか? やめとけやめとけ。殺されるぞ」

(団長の……ご息女?)

 男たちは自分のことを話している。突如、自分の名が挙げられたことに彼女は息が止まりそうになりながらも、耳をそばだてた。

「そもそも、団長からのお達しに逆らうわけにはいかないだろ」

「あぁ、『結果がどうあろうと、絶対に娘を合格させるな』ってやつか。しかし噂じゃ、団長は娘を騎士にするつもりと聞いたんだがなぁ」

「最初はそのつもりだったんだろう。長い間、子供は一人しかいなかったからな。団長も次の子供は半ば諦めていたらしい」

「ほーん。それで待望の息子ができたから、娘はお払い箱ってわけか」

「おい、口が過ぎるぞ。誰かに聞かれでもしたらどうするんだ?」

「へっ、俺らの与太話なんざ誰も聞いちゃいねぇよ。それにあの団長がこんな場末の酒場にいらっしゃるわけないだろ?」

 男たちはその後もとりとめのない話をしていたが、彼女の耳にはそれ以上、何も聞こえなかった。

 彼女は凍り付いたように、その場から動けずにいた。店じまいの時間が近づき、店の主人に肩を揺すられ、彼女はようやく店を出た。明かりが消え、真っ暗になった街を彷徨い歩く。


 お払い箱お払い箱お払い箱お払い箱。


 酒場で聞いた男の言葉が頭から離れない。ふらふらと歩きながら、彼女は自問する。

 私は今まで何をして来たんだろう。私はこれからどう生きていけばいいんだろう。私は何のために生まれて来たんだろう。頭の中で何度も同じ質問を繰り返したが、答えは出なかった。

 夜遅くに帰った娘を母はひどく叱ったが、父は何も言わなかった。家族が寝静まった夜更け過ぎ、彼女は家を飛び出した。

 家を出た彼女は培った剣の腕で身を立てた。来る日も来る日も剣を振るい、強者との戦いを求めた。時には力及ばず酷い目に遭うこともあったが、それでも彼女は戦うのを止めなかった。自らの存在を証明するには、剣を振るい続けるしかない。そう自分に言い聞かせるように。

 その後、彼女は偶然出会った金髪の優男に戦いを挑む。戦いの後、男は彼女に仲間になるよう持ち掛ける。その男は自らを勇者と名乗った。

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