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第44話 巨人退治

駆逐してやる!!

 目を貫かれた巨人は激しい痛みに身をよじり、喚きながら暴れ回る。視力を奪われ闇の中を必死にもがくが、振り回した両手は幾度も空を切る。

 巨人はしばらく闇雲に暴れ回っていたが、息を切らしたのか急に動きが鈍くなった。その隙を見逃さず、フランツが叫んだ。

「今だ、ガラルド! その巨人の踵の腱を切れっ!」

 巨人が暴れ回る間にすっかり息を整えたガラルドは、フランツの号令に従って飛び出した。

「オラァ!」

 巨人の背後に回り込むと、気合いと共に右の踵に鋭い一閃を放った。今までの逃げ回りながらの斬撃とは異なる腰の入った痛烈な一撃は、硬く分厚い巨人の皮膚を見事に切り裂いた。足首からは血が吹き出し、巨人は痛みに唸り声を上げながらよろめいた。

「もういッちョ、食らいヤがれッ!!」

 ガラルドは素早く移動すると、今度は左の踵に気合いを込めた一撃を叩き込んだ。

 両の足の腱を切られた巨人は、なす術もなく崩れ落ちる。激しい地響きと共に大地が揺れ、砂塵が舞い上がる。前のめりに倒れた巨人は立ち上がろうと手をついたが、足に力が入らないらしく再び砂埃を舞い上げて倒れ込んだ。

 怒りと痛み、そして屈辱によって癇癪を起こした巨人は、寝ころんだまま無茶苦茶に暴れ出した。泣き喚きながら両手で地面を叩きつける様は、まるで菓子を貰えずに駄々をこねる子供のようだった。

「クソッ! これじャあ近付けヤしねェ! おい、アレン! お前の弓でどうにかならねェのかヨ!?」

「もう矢は残ってませんよ! それにこの弓の強さじゃ、こいつにとどめを刺すのは不可能です!!」

「さっき魔女に放った矢があっただろう! それを拾ってきて、奴の目を狙ったらどうだ!? もう一度目を狙えば致命傷になるはずだ!!」

 順番にガラルド、アレン、フランツが大声で意見を交わす。巨人が地面を叩いて喚き散らしているせいで、声を張り上げなければ互いの声が聞こえないのだ。

 その時、一陣の風が吹き抜け、立ち上る砂塵をさっと吹き飛ばした。風の正体はエトンだった。彼女は目にも止まらぬ速さで、暴れ続ける巨人の元へ駆けて行く。

(目を射抜かれて視力を失い、腱を切られて立ち上がれなくなったのなら、風貌と大きさが違うだけで、体の構造は普通の人間と同じはず……!)

 構造が同じということは、人間に効果的な攻撃はこの巨人にも通用するということ。そう判断したエトンは、対人戦闘において極めて効果的な"技"を使うことにした。

 荒れ狂う両手をかいくぐり、うつぶせに倒れている巨人の前にたどり着くと、エトンはすかさず巨人の下顎を薙ぎ払うように左蹴りを見舞った。下顎を蹴られた巨人は、動きを止めぐったりとした。矢が突き刺さった目から血が流れているが、痛みを訴えて叫ぶこともない。だらしなく開かれた口からはだらだらと涎が流れている。

("あの状態"になったんだ)

 エトンは確信すると、三人に合図を送った。

 人体にはいくつもの急所がある。霞(こめかみ)、人中(鼻の下)、鳩尾(みぞおち)……。そして今回エトンが狙った下昆(下顎)もまた、人体にとって急所となる箇所だった。

 人間は顎に強打を受けると脳が揺れ、脳震盪を起こす。脳震盪を起こすと頭痛、めまい、ふらつき等を引き起こし、意識を保つのが難しくなる。戦いの最中に相手をその状態にすれば、その時点で決着が着く。

 エトンは脳震盪という言葉も、それがどのような仕組みで起こるのかも知らなかった。だが、多くの戦いを重ね、経験を積んだことで、知らず知らずの内に人体の急所についての知識を習得していたのだった。

 そして彼女の読みは正しかった。巨人はエトンの攻撃により脳震盪を起こし、動かなくなった。巨人の無力化に成功したのだ。

「たった一撃で仕留めるなんて……。すごいな」

「顎を攻撃して脳震盪を起こさせたか。考えたな」

「たまたま上手く行っただけですよ。それに一時的に大人しくなっただけで、まだ倒してはいません」

 近付いて来たアレンとフランツに、エトンは謙遜したように返した。

「確かにな。動かなくはなッたが、まだ息はあるゼ、コイツ」

 ガラルドが剣先で巨人をつつきながら言う。

「今は朦朧としているが、いずれ意識を取り戻すだろう。また暴れ出したら厄介だ。今の内に方を付ける必要がある」

「そういうコトなら俺の出番だな。トドメを刺せそうな武器を持ッてンのは俺だけだしな」

 そう言うとガラルドは巨人の首元に移動し、天高く剣を振り上げた。

「悪く思うなヨ、デカブツ。これも戦いの宿命だ。恨むンならお前をこンなトコに連れて来たご主人様を恨むンだなッ!」

 ガラルドはそう叫び終えると、項垂れている巨人の首に向かって勢いよく剣を振り下ろした。剣は巨人の首筋に食い込む。が、そこで止まった。

「か、硬ェ……!」

 予想外の手応えにガラルドは思わず音を上げた。巨人の首は思っていたよりも遥かに頑強で、ガラルドの一撃は首を斬り落とすことは出来なかった。

「グ……ウォ……」

 一撃に反応し、巨人が唸り声を上げた。両手は痙攣したようにピクピクと動いている。フランツが叫ぶ。

「不味い! もう意識を取り戻しかけているぞ! ガラルド、急げ!」

「セワしねェな! ウォォォォォ!!」

 ガラルドは気合いと共に首に刺さった刃を猛烈な勢いで前後に動かし始めた。叩き切るのは難しいと判断し、ナイフでステーキ肉を切る要領で押し切ることにしたのだ。その判断が功を奏し、刃は徐々に首に食い込んでいく。

「グォォォォォォォォ!!!!!」

 首筋に走る激痛に巨人は息を吹き返した。一刀両断で首を斬り落とされるならまだしも、神経をゴリゴリと押し潰されながら斬られているのだ。痛みに叫ぶのも無理はない。

「クソッ! また暴れ出しヤがッた!」

「私も援護します! ガラルドさんはそのまま続けてください!」

 焦るガラルドにエトンはそう告げると、巨人から素早く離れた。巨人の顔の横で剣を動かすガラルドに対し、エトンは巨人を正面に見据えるように立った。そして這うような低い姿勢を取ると、弾けたように飛び出した。一瞬で間合いを詰めたエトンは、巨人の顎を下から蹴り上げた。あまりの勢いに彼女の体は蹴りを放った後、後方に一回転した。突進の勢いを利用した速く強く鋭い蹴りは、またも的確に巨人の下昆を捉えた。

 巨人の首に剣を食い込ませるガラルドに対し、エトンは巨人の下顎を思い切り蹴り上げた。上からの力と下からの力が一つになり、巨人の首に襲いかかる。

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!」

 大地に轟く長い長い叫びが、一同の耳を差す。巨人が上げた最後の叫び。雷鳴のような断末魔。

 その直後、巨人の首は宙を舞った。ガラルドの剣によって胴体を離れ、エトンの蹴りによって打ち上げられた生首は、血を撒き散らしながら上昇していく。生首は血の雨を降らせた後、ドスンと鈍い音を立てて地に落ちた。

 首を切り離された巨人の体は、暫くの間ヒクヒクと動いていたが、やがてピクリともしなくなった。ガラルドが剣先で恐る恐る巨人の体をつついてみたが、反応はない。

「ヘッ、ヨうヤく終わッたか。おーい! もう大丈夫だ!」

 巨人が息絶えたのを確認したガラルドは、離れて戦況を見守っていたアレンとフランツに合図を送った。


「それにしても、こうして改めて見るとやっぱりでかいですね」

 巨人の亡骸を眺めながら、アレンがしみじみとつぶやく。

「そうだな。ところでこの世界では巨人という存在は一般的なのかね?」

「まさか! こんな化け物が現実に存在するなんて、信じられませんよ。」

「ふむ、そうか。では君たちはどうだ?」

 アレンの答えを聞いたフランツは、ガラルドとエトンにも同様の質問をした。

「いいヤ、初めてお目にかかッたゼ」

「私も同じです。各地を旅してきましたが、巨人なんて初めて見ました」

「ふむ。成る程な……」

 フランツはそう言ったきり、腕組みをして何事かを考え始めた。

「ところで、魔女のヤツはどうしたンだ?」

「魔女ならフランツさんが倒しましたよ」

 ガラルドの質問にアレンが答えると、エトンは驚いたように声を上げた。

「フランツさんが……ですか?」

「あぁ。俺が弓で魔女の注意を引いてる間に、後ろから近付いてね」

「でも、結界は? 普通の武器に結界は通用しないはずなのに……」

「折れた葬魔刀を使ったのさ。刃が折れてもまだ魔法を破る力は残ってたからな」

 そう言いながらアレンは遠くで倒れている魔女を指差した。

「ここからじャ、生きてるのかどうか分からねェな。とりあえず様子を見に行こうゼ」

 三人はひとまずフランツを残し、魔女の様子を見に行くことにしたのだった。

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