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第43話 逆転の一矢

君の目を貫いた 僕の弓が真っ直ぐ


「ん? これは何だ?」

 気を失った魔女を縛り上げたフランツは、魔女の傍らに落ちている物に気が付いた。フランツはそれを拾い上げる。

「これは……鏡か?」

 どうやら魔女が倒れた際に落とした物らしい。フランツは拾った鏡をつぶさに調べる。青い縁取りの小さな手鏡。見つめていると吸い込まれそうな気がしてくる程に美しく澄んでいる。それは魔女が作っていた濁った結界とは、まるで対照的だった。

「グシオォォォォ!!」

 静寂をかき消すように、巨人の咆哮が響き渡る。

「……そうだった。まだやるべき事が残っていたな」

 フランツは咄嗟に鏡を懐に仕舞い込むと、未だ交戦中の仲間たちの元へと向かった。


 捨て身の策によって魔女の動きを封じたアレンたちだったが、未だ対処すべき問題が残っていた。

「グォォォォン!!」

 巨人は苛立ったような叫び声を上げる。ヒットアンドアウェーを繰り返すガラルドとエトンを捕らえられず、いつまで経っても次の食事にありつけないことにかなり腹を立てているようだ。

「ペットは飼い主に似ると言うが、確かに飼い主同様に短気なようだ」

 いつの間にかアレンの隣に戻って来たフランツが軽口を叩く。魔女を抑えて幾分余裕を取り戻したようだ。しかし、楽観視できる状況ではない。

 ガラルドとエトンは巨人に苦戦していた。少しずつ攻撃を加え、着実にダメージを与えているはずなのだが、巨人にはまるで効いている素振りはない。

「はぁ……はぁ……」

「クソッ……キリがねェ……」

 二人は明らかに疲弊している。いつ終わるとも分からない戦いに心が折れかけているようにも見えた。魔女を倒したとは言え、こいつを放置するわけにはいかない。

 アレンは何か手はないかと、巨人を観察した。巨人の手足にはガラルドとエトンの攻撃による傷が無数に付いている。しかし、血は流れていない。どうやら巨人の皮膚は異様に厚く、少し刃物で斬ったぐらいでは効果はないようだ。

(こいつのどこが()()()()()()なんだ!) 

 アレンは思わず心の中で毒づいた。

(……考えろ、どこを狙えばいいか。皮膚が厚いんじゃ、どこを狙っても意味がない。なら、狙う場所はあそこしかない……!)

 そう考えたアレンは矢を番え弓を構えた。だが、巨人は激しく動き回り、狙いが定まらない。単に巨人の身体を射るだけならそう難しくはないが、射抜くべき場所はごく僅かな一点しかない。背中の矢筒は既に空になり、今番えている矢が最後の一本だ。絶対に外すわけにはいかない。

(あいつの動きが止まるのを待って……いや、ダメだ。ガラルドさんとエトンの息が上がっている。このまま待っていれば先にあの二人がやられてしまう。何とかあいつの動きを止める方法はないのか……?)

 アレンは懸命に巨人の動きを止める方法を考えるが、妙案は浮かばない。フランツは弓を構えたまま動かないアレンに声をかける。

「狙っているのは"あそこ"か?」

 アレンはフランツが指差した先を横目で見ると小さく頷いた。

「はい。攻撃が効いていない以上、狙うべきはあそこしかないと。でも、動きが激しくて狙いが定まらないんです。何とかあいつの動きを止める方法があれば……」

「動きを止める方法はない。が、単純化する方法ならある」

「単純化?」

「そもそも戦闘と言うのは複雑な動きの連続だ。対象を視認し、距離を測り、攻撃をかわし、反撃をする。それを同時に二人だからな。動きが複雑になるのは当然だろう。ならば、どうするか?」

 フランツは疑問を提示する形で話を区切った。ここから先は自分で考えろということなのだろう、とアレンは理解した。

(複雑な動きを単純にする……。それならまずは数を減らせばいい。戦う相手を一人に絞らせれば、その分動きを抑えられる。ガラルドさんかエトンのどちらかに退いてもらうか? でもそのためには、戦っている二人に聞こえるように大声で合図をする必要がある。もし巨人がその声に反応して、こちらに向かって来たらどうする? 俺一人であいつと戦うなんて冗談じゃないぞ……。いや、待てよ? もしあいつが俺に向かって来るのなら……)

 黙考の末、アレンは閃いた。

「そうか、その方が都合がいいのか」

 アレンのつぶやきを聞いたフランツはニヤリと笑う。

「気付いたようだな。だが、この策は一種の賭けだ。もし矢を外したら? もし矢が命中したとして、それでも奴が襲って来たら? そうなった場合、君は無事では済むまい。命を落とすことになるかもしれん」

「上等ですよ。これが賭けだって言うなら、俺はこの命を懸けますよ」

「フッ、頼もしいな。それではここは君に任せるぞ」

「えぇ、フランツさんはどこかに隠れていてください」

 アレンはフランツにそう促した。フランツが物陰に隠れたのを確認すると、アレンは叫んだ。

「二人共! すぐにそいつから離れて距離を取ってくださいッ!!」

 その声に反応し、ガラルド、エトン、そして巨人がアレンの方に顔を向けた。アレンは肺の中の空気を全て吐き出すと、思い切り息を吸い込み、胸を膨らませてから叫んだ。

「こっちに来いッ! デカブツ!!」

 ガラルドとエトンは互いに目配せをすると、同時に後方へ飛び退き、そのまま巨人から距離を取るように走り出した。アレンが何をするのかは分からないが、何か策があるのだと二人は理解した。

 二度も威嚇をされた巨人は怒りの表情を浮かべ、一つしかない目でアレンを睨みつけた。巨人はしばらくアレンを睨んだ後、ハッとしたようにキョロキョロと辺りを見渡した。捕らえようとしていた()()()()()がいなくなっている。

「グシオォォォォ!!」

 巨人は激しく憤慨した。大地を揺るがす雄叫びはまるで、「よくも狩りの邪魔をしやがって! それならまずはお前から先に喰ってやる!!」と叫んでいるかのようだ。無論、アレンには巨人の言葉は分からない。しかし、彼にははっきりと巨人の怒りが伝わっていた。

 アレンが大声で巨人を威嚇しガラルドとエトンに離れるように指示したのは、巨人の()を自分に向けさせるためだった。

 巨人を射抜くには正面を狙い撃つ必要がある。しかし、戦闘中の巨人は激しく動き回り、狙いが定まらない。それならいっそ、自分を襲わせればいい。動き回る相手より迫り来る相手を狙う方が遥かに容易い。そう考えたアレンは大声で注意を引きつけ、その間に二人を巨人から離れさせた。さらにアレンは巨人の前へと躍り出た。距離を詰め、より確実にこちらに向かって来るように仕向けたのだ。

 今まで戦っていた二匹の獲物には逃げられた。代わりに新たな獲物が現れた。そいつは威嚇をしたかと思ったら、それっきり一か所に留まり動く様子がない。離れて行く獲物より動かない獲物を捕らえる方が遥かに容易い。そう考えた巨人は大声を上げ、獲物(アレン)に向かって猛然と駆け出した。


 巨人は怒りの声を上げながら、アレンに向かって突進する。アレンはそれを迎え撃つべく弓を構える。

 おかげで巨人の正面を捉えることができた。さらに巨人は一直線にこちらに向かって来ている。複雑な動きを単純な直線の動きに変えることもできた。これで準備は整った。

 巨人は地響きを立てながら近付いて来るが、アレンはそれでも弦を離さない。当てられぬ距離ではない。いや、この距離なら確実に当てられる。だが、アレンは警戒していた。

 目の前に迫り来る巨人は、今まで遭遇したことのない未知の生物だ。どんな動きをするか分からない。身を逸らして避けるかもしれないし、飛んで来た矢を掴み取って防ぐかもしれない。普通の野生生物が取らないような動きをしたとしても何ら不思議はない。

 そうこうする内に巨人は目前にまで迫っていた。獲物を捕らえるべく巨人は手を伸ばす。

(今だッ!!)

 巨大な手がアレンを握りつぶそうとしたまさにその瞬間、アレンは引き絞った弦を離し、矢を放った。

「グギャァァァァ!!」

 刹那、巨人の叫びが辺りに響く。獲物を捕らえた歓喜の雄叫びか、はたまた狩りを邪魔した者に対する怒りの咆哮か。

「ウオォォォン!」

 巨人は両手で顔を押さえて、再び叫んだ。それは歓声でも怒号でもなく"悲鳴"だった。

 アレンの放った矢は、一つしかない巨人の目を真っ直ぐに貫いた。

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