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第40話 折れた希望

書いてる時はそうでもないけど、見返してみたら結構グロかった

「そ、そんな……ジャンヌさんが……」

 突然の悲劇にエトンは茫然と肩を落とし、力なくつぶやいた。ジャンヌは倒れ込んだままピクリとも動かない。魔女の放った炎の威力がどれ程かは分からないが、あの様子では既に事切れていることは誰の目にも明らかだった。

「葬魔刀もないのにあたしに挑むなんて、ジャンヌちゃんってばうっかり屋さーん♪ でもまぁ、ジャンヌちゃんの死は無駄にはしないから安心してね? キューちゃん、おいで!」

「グォォォォン!!!!」

 魔女の呼び掛けに巨人は歓喜の雄叫びを上げ、ドスドスと魔女の元へと駆け寄る。アレンたちのことなど、まるで気にしていないようだ。巨人は力なく横たわるジャンヌの前で足を止めると、物言わぬジャンヌを両手で掴み、抱え上げた。巨人が何をしようとしているのかはすぐに分かった。直前に魔女はこう言っていた。食事の時間――と。

 巨人は顎が外れそうなまでに口を大きく開けると、口内にジャンヌの頭を押し込んだ。

「止めてぇぇぇぇ!!」

 エトンは必死の想いで叫ぶが、その想いは異形の怪物にはまるで届かなかった。

 巨人は上下の前歯でジャンヌの頭と胴体を切り離した。巨人は口の中に入れた()()を存分に咀嚼する。その度にバキボキと骨を噛み砕く音がする。たった今まで生きていた仲間が頭から食われている。あまりにも凄惨な光景に、アレンは気分が悪くなった。アレンだけではない。エトンは両手で顔を覆い、フランツは顔をしかめ、ガラルドは額に青筋を立てていた。

巨人は頭部を嚥下すると次に腕を引きちぎり、勢いよくかぶり付いた。

「ほらほら、そんなにがっつかないの! まだまだたっくさんあるんだからさ。それにしてもすごい食べっぷりだなぁ。よっぽどお腹空いてたんだねぇ、キューちゃん」

 まるで飼い犬に餌を与えているかのように、魔女はのほほんとつぶやいた。とてもつい今しがた、人を殺した人間の台詞とは思えない。

「敵対していたとは言え、かつての仲間によくそんな仕打ちができるものだ。私には到底真似できん。感心するよ」

 フランツは"肉"を貪り食う巨人を横目に、皮肉めいた言い方で魔女を咎めた。

「『仲間だから苦しまないように一瞬で殺ってあげる』って言ってたのが聞こえなかった? 耳、腐ってんじゃないの? 大体そっちだって女神を殺したくせに、偉そうに批判できる立場なわけ?」

「戦う以上、敵に()られて死ンじまうのは仕方ねェ。それが戦いッてモンだ。アイツも剣をナリワイとしていたンなら、それぐらいの覚悟はデキていただろうヨ。ジャンヌはテメェとの戦いに敗れて死ンだ。そのコトに文句を言うつもりはねェ。俺も散々ヤってきたコトだ。今さらケチ付ける資格もないだろうヨ。だがな、命を懸けて散ッていッたヤツの誇りを辱めるヨうなヤり方だけは、どうしても許せねェンだヨ!」

 フランツに続きガラルドが威勢よく啖呵を切った。

「よくもジャンヌさんを……! 許さない……! あなただけは絶対にッ!!」

「お前はティサナ村を燃やして、俺の家族と村の人の命を奪った……! その罪、今ここで償わせてやる!!」

 エトンは声を震わせながら魔女を睨み付け、アレンは拳を握って怒りを投げ付けた。各々の怒りと憎しみをぶつけられた魔女は、あからさまにイライラした様子で言う。

「あーもう! どいつもこいつもウッザいなぁ! そんなに会いたいなら今すぐあの世で会わせてやるよ」

「ヘッ、抜かしヤがれ! 返り討ちにしてヤるゼ! 何たッてこッちにはテメェを倒すためのとッておきがあるンだからヨ!」

 ガラルドは対魔法の切り札である葬魔刀を突きつけ、威勢よく宣言した。ガラルドの宣戦布告に、魔女は一瞬何事かを考える素振りを見せたが、すぐにニヤリと笑い返す。

「確かにその剣は厄介だけど、お前らはあたしに一矢報いるどころか、近付くことすらできない。大事なことを忘れてるよ。あたしの前に大きな壁を越えなきゃいけないってことをね!」

 魔女が言い終えるのと同時に巨人は食事を終え、ゆっくりと振り返った。

「グォォォォ!!」

 そして雄叫びを上げると、再びアレンたちに向かって襲い掛かって来たのだった。

 戦闘要員でもあるガラルドとエトンはそれぞれ戦いの構えを取り、アレンも弓に矢を番えて臨戦態勢に入った。フランツはその後ろで、巨人の様子と魔女の動向を注意深くうかがっている。

 巨人は敵を捕らえるべく、ガラルドに向かって右手を伸ばす。ガラルドはそれをひらりと躱し、掴みかかろうと伸ばした巨人の右手を斬り付けた。巨人は多少怯んだ様子を見せたが、構うことなく再び手を伸ばした。驚いたようにガラルドは言う。

「何だヨ、コイツ! ホントに効いてンのかァ!?」

「アッハハ! 無駄無駄! その子は魔法とは関係ない生き物だからね。確かにその葬魔刀には魔法を封じる力があるけど、普通の生き物にとってはそこら辺で売ってる普通の剣と大差ないんだよねん☆ つまり……」

「テメェをぶちのめすには、この剣に頼らず実力でコイツを始末しなきャならねェッてことか」

「大当たり~!」

「そりャ、骨が折れる話だな。まいッたねどうも」

 魔女の言葉にガラルドは溜め息を吐いた。だが、そんな弱気な口調とは裏腹にガラルドは口元を緩め、楽しそうな表情を浮かべている。戦闘狂の本領発揮と言ったところだろうか。とても笑っていられるような状況ではないが、今はその豪胆ぶりが何よりも心強い。怒りに震えていたエトンも戦いを前にして、冷静さを取り戻したようだ。

「あたしの魔法があれば一瞬で方が付くけど、それじゃあ面白くないもんね。せっかくだからここはゆっくりと楽しませてもらおうかな。絶対的弱者が強者に挑む……いいねー、胸が熱くなる展開だねー♪ 猫とネズミが戦うみたいな? さーて、か弱いネズミちゃんたちはどれぐらい持つかなぁ?」

 そう言うと魔女は両肘を抱きかかえるように腕を組み、巨人とガラルドたちの戦いを眺め始めた。

「アレン、聞こえるか? 返事はしなくていい。魔女に気取られないように二人を援護しつつそのまま聞いてくれ」

 不意に背後からフランツの声が聞こえた。アレンは指示通り、振り返らずに巨人に狙いを定めた。

「今、魔女はご自慢の巨人(ペット)とガラルド、エトンの戦いに注目している。魔女(ヤツ)の言葉を信じるわけではないが、少なくともこの戦いの決着が着くまでは手出しをしてくることはないだろう」

「それなら早くあの巨人を倒して、アイツを引っ張り出さないといけませんね」

 アレンは魔女に気付かれぬように、矢を放ちながら答えた。

「そうだ。だが、問題はそこだ。魔女に近付くにはあの巨人を倒さねばならない。しかし、魔女はペットが殺される様をただ黙って見ているだろうか? 自らの地位や名誉のために世界を欺くような者が、正々堂々戦うとは到底思えん。奴は余裕ぶった態度を取ってはいるが、其の実短気で情緒不安定だ。その上、かつての仲間だろうと何ら躊躇もなく殺害する冷酷さを持っている。恐らく奴は巨人が不利になった時点で、得意の魔法で我々を葬り去るつもりだろう。……ジャンヌと同じようにな」

 フランツが論じた魔女の人物評にアレンは概ね同意した。彼もまた魔女に対して同様の印象を抱いていた。

「そこで先手を取る。魔女が事を起こすより早く先に動いて機先を制しようと言うわけだ。幸い今の所、魔女はこちらには無関心だ。引き続き巨人の相手はあの二人に任せて、我々はその隙に魔女を討つ」

 フランツの作戦は理に適っている。だが、問題が一つ。

「気付かれないように近付いたとして、どうやって攻撃するんです?」

 アレンの質問はもっともなものだった。魔女に普通の攻撃が通用しないのは、ジャンヌがその身をもって実証したばかりである。そのことは当然、フランツも分かっているはずだ。

「鍵を握るのはやはり"葬魔刀"だろう。魔女自身もそれが脅威であると何度も言及しているしな」

「でも、今それを持っているのはガラルドさんですよ? 」

「それが唯一の誤算だった。あれよあれよという間に戦闘が始まってしまったからな。魔女を討つには葬魔刀が必要不可欠だが、この激しい戦いの最中、魔女に気付かれずにどうやってガラルドからブツを受け取るか……」

 ガラルドは現在、エトンと共に巨人と交戦中だ。とても剣を受け渡せる余裕はない。かと言って剣を渡すように声をかければ、こちらの考えを見抜いた魔女に即座に潰されるのがオチだ。

 二人が考えを巡らせている間にも、戦闘は進んで行く。

 巨人の攻撃を避けながら、ガラルドとエトンは着実に攻撃を当てていく。だが、巨人の表情や動きに変化はなく、攻撃が効いているのかどうか皆目見当がつかない。

「しぶといヤロウだなッ! まだ遊び足りねェッてか?」

「ハァ……ハァ……。一体、どれだけ攻撃すれば大人しくなるんでしょうか……」

「息が切れてるゼ! 平気か?」

「問題……ありませんッ!」

 エトンはそう答えたが、息が上がっている。絶え間ない攻撃と回避を繰り返してるのだから無理もない。さらに避けながらの攻撃では大した損傷は与えられない。

(このままじャ、ジリ貧だな……)

 そう判断したガラルドは勝負を決めるべく、巨人に大声で威嚇した。

「おいッ! デカブツ! かかッて来ヤがれ! 」

 大声に反応し、巨人は右腕を振りかぶった。ガラルドは足を止め腰を落とし、上段に剣を構えた。回避を捨てた必殺の構え。

「その拳ごと斬り裂いてヤるゼッ!」

 ガラルドは気合の咆哮と共に、迫る来る右拳に向かって一閃を放った。しかし――

(寸止めッ……!?)

 巨人は刃が届かないギリギリの距離で右手を止めた。ガラルドの右方からもう一つの攻撃が迫る。

(ヤロウ……! 小賢しいマネを……!)

 巨人が放った右拳は呼び水に過ぎず、真の狙いは左手による攻撃だった。危機を察したガラルドは瞬時に後方へと飛びのいた。直撃は免れたが、巨人の左拳は振り下ろされた刃に命中した。刹那、甲高い音が響く。

 魔女を討つための切り札は驚く程あっさりと、あまりにも呆気なく、頼りない音を立てて――

 ――折れた。

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