表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/131

第30話 それぞれの道

逆だったかもしれねェ……

「ヨォ、センセーはどンな様子だ?」

「地図を広げて難しい顔をしてましたよ。はい、これ」

 そう尋ねられたアレンは見た光景をそのまま伝えて、頼まれた木剣を手渡した。

「おゥ、悪ィな。ところで弓なンて持ち出してどうするンだ?」

 木剣を受け取りながら、ガラルドはさらに尋ねる。

「二人の手合わせをただ眺めるのも飽きてきたんで、俺も体を動かそうかな、と思いまして」

「アレンさんは弓が扱えるんですか?」

「あぁ。村にいた頃はよく弓を使って狩りをしてたんだ」

 フランツと同じ質問をしたエトンに、アレンはフランツと同じ回答をする。

「まァ、こうヤるコトがないンじャ、体もナマッちまうヨな。勇者と戦うためにと思ッてイロイロと集めた武器だ。好きに使ッてくれヨ。俺以外に使うヤツもいないしな。さて、もう少し続けるか。嬢ちャン、もう一本頼むゼ」

 そう言うとガラルドは木剣を握り直し、エトンとの手合わせを再開した。

 アレンはきょろきょろと辺りを見渡す。矢を射るには的が必要だ。だが、周囲に的になりそうな手頃な物は見当たらない。

 二人が激しい打ち合いをする中、アレンは貧民街の奥へと進んで行った。


 歩を進めると行き止まりにたどり着いた。どうやらここが貧民街の最深部らしい。

 周りに人が住めるような建物は見当たらず、目の前にはうず高く積まれたゴミの山が鎮座している。割れた皿、折れた木片、破れた布切れ……。ゴミ山は様々な種類の廃棄物で形成されている。ここは貧民街に暮らす住民たちのゴミ捨て場なのだろう。

 えた臭いが辺りに立ち込め鼻孔を刺激する中、アレンの目に朽ちた丸太が横たわっているのが映った。丸太を抱き起すと、自分の身長程の高さがあった。所々腐食しているものの、押しても倒れない安定感がある。矢を射るにはうってつけだ。

 アレンは丸太から離れると、矢筒から矢を一本取り出して弓に番えた。弦を引くと、キリキリと小気味のいい音がする。村で狩りをする際に使っていた弓に比べ、少し弦の張りが強いようだ。それでも構わずアレンは力任せに弦を引き絞る。ギリギリまで引き絞られた弦はギリギリと音を立て、その身を震わせている。

 狙いを定め、矢を放つ。放たれた矢は一直線に飛んで行き、丸太に突き刺さった。

「狙いより少し右にずれたな……」

アレンは再び矢を番えると、狙いを定めて二本目を放った。矢は一本目のやや左側に刺さった。

「よし、今度は狙い通りだ」

アレンは満足気につぶやくと、再度弓を射る。矢は二本目と寸分違わぬ場所に刺さった。

 弓を握るのはずいぶんと久しぶりだが、腕は落ちてはいないようだった。

「アレンさん」

 不意に背後から自分の名を呼ぶ声がした。振り返るとそこにはエトンが立っていた。

「どうしてここへ?」

「『出発の準備が整ったから呼んでくるように』と、フランツさんに頼まれたんです」

「そうか、なら急がないとな」

 アレンは丸太に駆け寄ると、刺さった矢を引き抜いていく。

「それにしても見事な腕前ですね。三本とも命中なんて」

 矢を回収するアレンに、エトンは賛辞の言葉を贈った。お世辞や皮肉ではない素直な言葉だった。

 裏表のない率直な誉め言葉に、アレンは照れ臭そうに頭を掻きながら答える。

「昔からやってるから慣れてるだけで、そんな大したことじゃないさ。俺からすれば君の方がすごいよ。素手でガラルドさんと渡り合えるなんてさ」

「手加減してくれたんですよ。本気でやり合ったら、私なんてガラルドさんに敵いませんよ」

 贈られた賛辞の言葉に二人は互いに謙遜し合う。そこでふとアレンは、彼女について何も知らないことに気が付いた。

「君はどうして勇者と旅をしていたんだ?」

「……家族の仇を討つためです」

「ということは、君も家族を……?」

 アレンの問いにエトンは小さく頷き、静かに話し始めた。

「私はここよりずっと遠くの小さな村で両親と暮らしていました。ところがある日、村が魔王軍に襲われたんです。燃え盛る炎の中、私は両親を置いてその場から逃げました……」

「……」

「それから私は魔王と戦うために体を鍛え始めました。この技もその時に学んだんです。そんな時に私の前に現れたのが……」

「勇者だった……と」

「……はい。勇者は魔王と戦うために世界中を旅していると言っていました。私は同行させてもらえるように頼み込んで、勇者の仲間に加わりました。この人について行けば両親の仇が討てる。魔王を倒せば世界が平和になる。そう信じて旅を続けてきました。……皆さんと出会うまでは。今となっては何が正しいのかも分かりません。勇者は本当に世界のために戦っていたのか、私は今まで何と戦っていたのか、村を襲ったのが本当に魔王軍だったのか、もう何も……」

 家族と故郷を失った絶望の中、現れた人物の言葉に触発されて旅に出る。エトンが語った自身の過去は、アレンの境遇と驚く程よく似ていた。違っていたのは絶望の中で出会った人物だけだ。

 エトンは勇者と、アレンはフランツと出会い、互いにそれぞれの道を歩き始めた。そしてその二人をきっかけに、彼らの道は交わった。

 アレンは「もしあの時、目の前に現れたのが勇者だったらどうしていただろう?」と考えた。きっとエトンと同じ道を選んでいただろう。もしかすると勇者一行の一員としてフランツたちと戦っていたのは、自分の方だったかもしれない

「フランツさんは言葉だけじゃなく、勇者が怪しいという証拠をいくつも見せてくれた。だから俺は勇者じゃなく、フランツさんを信じる。でも、だからと言ってフランツさんの言うことが全て正しいとは限らない。何が正しいかなんて、俺にも分からないよ。だから行くんだ。ただついて行くだけじゃない、何が正しいのかを自分の目で確かめるために」

 信じて歩んできた道を見失い不安げな表情を見せるエトンに対し、アレンは静かに、しかしはっきりとした声でそう言った。

「行こう。二人が待ってる」

「……はいっ!」

 アレンの言葉にエトンは力強く頷いた。

 二人は仲間の待つ拠点へと戻るため、同じ道を歩き始めた。


「おッ、ヨうヤく来たな。ズイブンと遅かったが、何か話でもしてたのか?」

 拠点であるボロ小屋の扉をくぐると、腕組みをしたガラルドと地図を広げたフランツが待ち構えていた。声をかけたガラルドにアレンが答える。

「少し昔話を聞いてたんですよ」

「ふーン、昔話ねェ」

「そこ、私語は慎むように。今から今後の話をする。念のため聞くが、足の具合はどうだね? エトン」

 フランツは二人に注意をし、エトンに尋ねる。

「はい、おかげ様でもうすっかり良くなりました」

「それは良かった。これで次の段階(フェーズ)に進めるな。前に話したように、我々はこれからシゼに向かう。我々が今いるベシスの都はここ。そして次に向かうシゼがここだ。ガラルド、道案内は頼んだぞ」

 フランツは地図上でそれぞれの国を順に指差してからガラルドに言う。

「おゥ! オオブネに乗ッたつもりで任せときな!」

「そう言えば、ガラルドさんはシゼの生まれでしたね」

「あァ、シゼに向かうのは魔王軍と戦ッた時以来だ。腕が鳴るゼ」

「待て。今回の目的はあくまで偵察だ。シゼの状況を確かめるためのな。もし大規模な戦闘になり、それが勇者の耳にでも入ったら(こと)だ。故郷を奪われてはやる気持ちは分かるが、今回は不要な戦闘は避けるんだ」

「チェッ、分かッたヨ。仕方ねェなァ」

 釘を刺されたガラルドは渋々ながらも素直に応じた。それにしても前々から思っていたが、この二人の関係性は実に不思議だ。

 武闘派のガラルドと理論派のフランツ。どう考えても話が合うとも思えないが、どこでどうやって出会ったのだろう? ガラルドがシゼで兵士をしていたと言うのは前に聞いたが、フランツもそうだったのだろうか? アレンはフランツが兵士として戦う姿を思い浮かべてみたが、結局ダメだった。フランツが前線で武器を持って戦う姿は想像できない。作戦を立案し、後方で指揮を執る方がピッタリだ。今度、時間がある時に聞いてみよう。アレンは密かにそう心に決めた。

「私は今から行程に必要な物を買い揃えて来る。アレン、荷物持ちを頼む」

「俺たちは行かなくてイイのか?」

「二人は先に都の外で待機していてくれ」

「あの、私も寄りたい所があるんですけど、いいでしょうか?」

 エトンの申し出にフランツは難色を示す。

「君は勇者一行の一員として顔が知られているからな。あまり目立つような真似は控えるべきだ」

「でも、これからの戦いにどうしても必要なんです」

「うーむ……、それならこれを着てもらおう」

 そう言うとフランツはベッドの下から真っ白なローブを引っ張り出した。見覚えのある服にアレンが反応する。

「巡礼服……。まだ持ってたんですね」

「何かに使えないかと取っておいたのだが、こんな形で功を奏すとはな」

 エトンは巡礼服に身を包み、すっぽりとフードをかぶった。確かにこれなら顔は分からない。

 三人は一時ガラルドと別れ、一路都の中心街へと向かった。


 二人が食料を買い集める中、エトンは一人、靴屋へと向かっていた。

 入口の扉をくぐると、無精髭を生やした店の主人が不愛想に出迎えた。エトンはフードで顔を隠したまま、ある注文をする。

 店主は何も言わずに店の奥へと引っ込む。数分後、店主はエトンの注文通りの品を手にして、戻って来た。エトンは品を受け取り礼を言うと、代金を支払って店を出た。

 エトンが出て行くと、店主は誰ともなしにつぶやいた。

「『靴の底に鉄板を仕込んで欲しい』なんて、妙な注文をする客だな」


 用事を果たしたエトンは、フランツとアレンと合流した。

「用事は済んだかね?」

「えぇ、バッチリです」

 フランツの問いにエトンは満足そうに頷いた。

「こちらも必要な物は一通り揃った。それでは行くとしようか」

 アレンたちは外で待つガラルドと合流し、次の目的地(シゼ)へと出発した。


「さーて、着いたっと……」

 彼らがシゼへと出発した頃、黒いとんがり帽子の少女は目的地へと到着していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ