第28話 動き出した"魔"
説明台詞が多いと書いてて疲れる
「女神に続いてあの二人とも連絡がつかないとは……一体、どうなってるんだ!?」
金髪の優男が苛立ったように、その端正な顔を歪める。
「三人とも死んじゃったんじゃないのぉ?」
青色の肌の女が楽しそうに笑う。
「……冗談にしても悪趣味だぞ。口を慎め!」
「そうは言っても、そう考えるのが自然じゃないのぉ? 生きてるんなら連絡ぐらいできるでしょお?」
「それはそうだが……」
「あたしー、思ったんですけどー、なにか連絡できない理由があるんじゃないですかー?」
青肌の女を叱責する優男に向かって、黒いとんがり帽子をかぶった少女が鼻にかかった口調で切り出した。
「理由だと?」
「たとえばぁ……今言ったように死んじゃったとかー、敵に捕まって身動きが取れないとかー、もしくは……私たちを裏切った……とか?」
「……いずれにしても一大事だな。ふーむ……」
男は腕組みをしてしばらく考えると、少女にある指示を下した。
「よし、お前が行って三人を探して来てくれ」
「えー? あたしですかー?」
指名を受けた少女は素っ頓狂な声を上げる。
「お前の"魔法"があれば、そう難しいことじゃないだろう? これもお前を信頼してるからこその判断だ。俺はシゼの様子を見てくる」
「あーら、それなら私もお供しますわぁ」
「よし、ついて来い。それじゃあ、よろしく頼むぞ」
「いってらっしゃーい☆」
少女は部屋を出て行く二人の背中に向かって、元気よく見送りの言葉をかけた。
「は~~~~……」
部屋に一人残された少女は、深い溜め息を吐いた。
「チッ、何が『信頼』だよ、白々しい。単に面倒事を押し付けただけだろーが……。あたしは便利屋じゃねーんだよ!」
さらに舌打ちをして悪態をつく。
「つーか、またシゼ通いかよ、あの色狂いのクソ勇者……。そんな暇があるんだったら、自分で探しに行けっつーの! あのクサレ悪魔も媚び売りやがってムッカつくわー。お前もちったぁ探すの手伝えよ!」
少女の文句は止まらない。先程、男と話していた時の態度とはまるで別人だ。
「まっ、下手に逆らって怒らせても面倒だし、とりあえず救いの里にでも行きますか……」
ひとしきり不平不満をぶちまけた後、少女は諦めたようにつぶやいた。
「それにあの"剣"をどうにかするチャンスだし、そろそろあの子の"餌"の時間だしね」
少女はそう言い残して部屋を出て行った。その声はぞっとする程、冷たい声だった。
「さて、まずは互いの情報を共有しよう」
フランツは新たに仲間となったエトンに対し、旅の目的とこれまでの経緯を滔々と述べた。
エトンはフランツの説明を真剣な表情で聞いていたが、女神の裏の顔については知らなかったらしく、救いの里での女神の凶行を知ると目を丸くして驚いていた。そして女神殺害の真犯人がフランツたちだと知ると、さらに驚いていた。
「これで我々が得た情報は一通り話した。次に君の持っている情報を知りたい。特に勇者、魔女、魔族の目的と能力について詳しく聞かせて欲しい」
話を済ませると、フランツはエトンに尋ねる。尋ねられたエトンは訥々と話し始めた。
「そうですね……。勇者の目的は魔王を倒して世界を救うことで、他の二人も同じ目的だと思っていました。でも……」
エトンは言いよどみ、それでもどうにか言葉を紡ぎ出す。
「今の話を聞くとそれは表向きの理由で、他に目的があったんじゃないかと感じます。それも人に言えないような邪な理由が……」
「まぁ、良からぬ事を考えていたとして、それを表立って公言することもないだろうな。では次に魔王について聞かせて欲しい。勇者と旅をしていたのなら、当然魔王の軍勢と戦った経験があるだろう?」
「はい、何度か」
「その時の敵はどんな姿形をしていた?」
「……骨でした」
「ほ、骨ぇ?」
予想外の返答にアレンは思わず間の抜けた声を出した。
「はい。剣や槍を持った骸骨でした」
人の骨が武器を持って襲って来るなんて、にわかには信じられない。
(『骸骨』ってことは、もう死んでるってことだよな……)
アレンはその様子を想像してみた。
死してなお眠りにつくことなく、生者に対して牙を剥く――。その光景はまさに『魔』と呼ぶに相応しい。
「オイオイ、ちョッと待てヨ。ガイコツなンていたか?」
今度はガラルドが口を挟む。
「俺もシゼの兵士として魔王と戦ッたが、俺が戦ッた相手は全員、オカシな術を使う顔色の悪い連中だったゼ。あの魔族のオンナと同じ色のな」
「でも、私は確かに襲いかかる骸骨と戦いました!」
「俺だッて戦ッたゼ。そのガイコツとヤらは見てねェけどな」
二人は互いに一歩も譲らない。アレンの見る限り両者ともに嘘をついている様子はない。
「フッ、やはりな」
話が平行線を辿り始めようとした矢先、フランツが意味ありげにつぶやいた。
「何が『やはり』なんですか?」
白熱するガラルドとエトンに代わって尋ねたアレンにフランツは答える。
「私は各地で魔王についての情報を集めて来たが、奇妙にも二人と同様の現象が起きているんだ。今から三年前、魔王がこの世界に現れて各地に侵攻を開始した。その時に攻撃を受けた地域の人々はガラルドの言うように、『怪しげな術を使う青い色の肌の悪魔が攻めて来た』と述べている。ところが、ある時期を境に人々の話から悪魔は姿を消す。代わって出現したのがエトンの言う骸骨だ。その時期以降に魔王に襲われた地域の人々は申し合わせたようにこう証言している。『襲って来たのは人の骨の姿をした魔物だった』と。それが二年前。ちょうど勇者が現れた時期だ」
「えっと……」「……どういうコトだ?」
「前にフランツさんは『勇者と魔王には何らかの繋がりがある』……って言ってましたよね? つまり魔王軍の構成が変わったことが、勇者と魔王の繋がりを示しているってことですか?」
頭に疑問符を浮かべる二人に代わり、何とか話に付いて行ったアレンは要点をまとめる。フランツは頷いてさらに続ける。
「その通りだ。魔王を間近に見た者は、魔王は青い肌の屈強な大男と話している。そして魔王は人智の及ばぬ技を使っていたそうだ。青い肌に魔法。この二つの特徴は魔王軍の初期の軍勢、そして勇者一行の魔族と一致している」
「そう言えば……あの人は元々は魔王の配下だったそうです。それが勇者と出会い正義に目覚め、魔王から寝返ったと聞きました」
「ケッ! 何が『正義』だ。白々しい」
エトンの補足にガラルドが吐き捨てるように言う。
「魔王は同族を引き連れ、侵略に来た。ところが勇者が現れてからというもの、彼らは姿を消す。勇者と魔王は密約を交わし、敵対関係は自作自演。本気で戦う必要がなくなったために同族を引っ込めた。私はそう考えている。少なくともティサナの一件を考えれば、勇者が世界のために戦っていると言うのは真っ赤な嘘だ」
フランツの口から出た故郷の名に、アレンは拳を握り締める。
「勇者に私の考えが正しいかどうか尋ねたところで、正直に話してはくれないだろう。戦って聞き出すしかない。そうなれば戦う準備が必要だ。そこで三人の能力について聞きたい。どんな技を使うのか、どんな動きをするのか。些細なことでもいい。とにかく知っている事を全て話してくれ」
「勇者は主に剣を使って戦います。複数の相手を同時に斬ったり、遠く離れた敵を瞬時に斬ったりと、人智を超えた腕を持っています。さらには魔法も使えるそうです」
「そいつはスゲェな。一度手合わせ願いたいモンだ」
「次に魔女ですが、その名の通り魔法を得意としています。特に炎を操る魔法が得意で、どんな物でも瞬時に焼き尽くせる程の力を持っています。さらに魔女は戦う時、自分の周りに強力な結界を張っていて、敵を近付けずに戦っていました。戦うとなれば、攻撃はおろか近付くことすら難しいと思います」
「結界か……。そいつをどうにかしないと話にならんな」
「そして魔族ですが、触れることなく相手を死に至らしめる怪しげな術を使います。本人はこれを『呪い』と呼んでいますが、魔女が言うにはこれも魔法の一種だそうです」
「触れることなく……、何だか打つ手なしって感じだな」
「いえ、打つ手はあります。それも私たちの手元に」
エトンはアレンのつぶやきに答えると、ガラルドの持っている剣に視線を注いだ。広場から撤退する際に剣士が投げつけてきたものだ。彼女の言葉に全員の視線が剣に集まる。
「その剣は『葬魔刀』と言って、その名の通り魔を葬る力が宿っているんです。その力があれば魔法の力を打ち破れるかもしれません」
「コイツが? そんな大層なシロモノには見えねェけどなァ」
エトンの言葉に、ガラルドは手にした剣をまじまじと眺め、しみじみとつぶやいた。
「いつの間にか切り札を手に入れていたとは、何たる僥倖。となれば、この葬魔刀を足掛かりに今まで通り各個撃破していくのが最善だろう。まずは魔女か、それとも魔族か。いずれにせよ魔法が厄介だな……」
「その前に一つ、気になってることがあるんですけど、いいですか?」
今後の計画を練り始めたフランツに臆することなく、アレンが尋ねる。
「何だ?」
「魔法って何なんですか?」」
アレンが口にしたのは、幼い子供が抱くような最も単純な質問だった。




