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第115話 ペトル大論陣

各国の代表の口調、ほぼ同じ問題

 五大国による話し合いが開催される数日前、アルフレッドはある場所を訪れていた。周囲には木造の建物が密接し、一つの集落を形成している。護衛の兵士を引き連れてアルフレッドは颯爽と歩く。たどり着いたのは、巨大な屋敷だった。

「これはこれは……ベシスの王子ともあろうお方が、このような辺鄙な場所にいらっしゃるとは。勇者との戦いは無事に終えられたそうで、ご戦勝おめでとうございます。さぁさぁ、どうぞお掛けください。()()()()()()もおありでしょうからねぇ」

 商会の代表であるペトルは、含みを込めた言い方でアルフレッドを出迎えた。アルフレッドは通された椅子に腰掛けると、真っ直ぐにペトルを見据えて言う。

「貴殿の才を見込んで、一つ頼みたいことがある。近々(ちかぢか)、ベシスで戦後処理を決めるための会議が開かれる。その場に我が国の賓客として参加してもらいたい」

「何を言い出すかと思えば……俺はまたてっきり、戦いに協力した謝礼の話でもしに来たかと思ったんだが、まさか賓客とはねぇ」

 突然の申し出に、ペトルは慇懃無礼な口調から元のぶっきらぼうな口調へと態度を変えた。そして続ける。

「しかし一体、どういう了見だ? 勇者との戦いは終わったんだろ? これ以上、あんたらに協力する義理はないはずだぜ」

「此度の会議はフェルシュタット、ノーム、オルカナ、ユガンデール、そしてベシスが参加する」

「五大国揃い踏みってわけか。そいつはご大層なことで」

「事の発端は四か国による圧力だ。奴らは武力行使を仄めかし、会議を開くように迫ったのだ。全ては我が国を抑え込むための策略だろう。ベシスは勇者を捕らえた。今回の戦いでどの国が一番手柄を上げたかは、誰の目にも明らかだ。その影響力を恐れて奴らは手を組んだのだ。いくらベシスが正当性を訴えたところで、数の差は如何ともし難い。結果次第では今後の世界を取り巻く状況は大きく変わることだろう。言わばこれは剣を持たない戦争だ」

「……で、それが俺と何の関係があるってんだ?」

「相手はベシスの力を削ぐために、結託して論陣を張るに違いない。そこで貴殿には、相手の論の穴を衝いて説き伏せてもらいたい」

「……国の未来を左右する重要な局面に何故、部外者である俺を頼る?」

「救いの里での顛末はアレン殿から聞いている。貴殿はそこで殺されかけたそうだな」

「チッ、余計なことを。見かけによらずお喋りな野郎だ」

「しかし貴殿は危機を脱し、今こうして再び栄華を誇っている。そもそも幹部に抜擢されること自体、並大抵のことではない。救いの里でのし上がった才覚、一代で大組織を築き上げた手腕、さらには一国の王子を前に物怖じしないその態度。貴殿ならば四か国相手にも、互角以上に渡り合えるだろう」

「評価していただけるのは嬉しいが、俺に頼る必要はないだろ? あんたには頼りになる"センセー"がついてるんだからよ」

 ペトルはある人物の口調を真似て、嘲るように尋ねた。対してアルフレッドは真剣な顔で答える。

「アレン殿のことか……。それがこのところ様子がおかしいのだ。話しかけてもどこか上の空で、どうにも身が入っていないように見受けられる。今の彼では……」

「役には立たねぇだろうな」

 言い淀むアルフレッドの言葉を補うように、ペトルはきっぱりと断言する。

「……言い方は悪いが、その通りだ。今のアレン殿には以前のような覇気がまるで感じられないのだ。一体、何故……」

「そりゃあ……」

 戦いが終わって燃え尽きたんだろう。ペトルはそう言いかけて口をつぐんだ。そして考える。

(国を相手にやり合えるなんて、こんな面白そうなことを見逃す手はない。結果がどうなろうと俺の知ったことじゃないしな。それに……腑抜け野郎に救いの里の()()()をするいい機会じゃないか)

「……いいだろう。その話、受けてやるよ」

 ペトルは口元に歪んだ笑みを湛えて、アルフレッドの依頼を承諾した。ベシスのためでも、ましてやアレンのためでもない。自らの愉悦のために。


 そして数日後。予定通り開催された五大国による話し合いは、オルカナ代表の放った一言により荒れに荒れていた。

「まぁまぁ、そういきり立たずにオルカナの言い分を聞こうじゃありませんか」

 声を荒げる各国の元首たちとは対照的に、ペトルは鷹揚な態度で口を開いた。

「少しは話の分かる方もおられるようで何より。それでは理由をお話ししましょう。皆様もご存じの通り我がオルカナは中立国、如何なる理念にも与しません。勇者は己の欲望をひた隠し、世界中を荒らし回りました。この中には勇者に対して良くない感情を抱いている者も少なくないでしょう。中には私刑を加えようと考える不届き者が現れるやもしれません。正式な処分が決まる前に勇者が殺されでもしたら、それこそ一大事ではありませんか? 勇者に必要なのは正当な裁きです。それまで彼の者を適切に管理できるのは、中立国である我が国を置いて他にないでしょう」

 一見、オルカナの主張は正しいように思える。だが、その主張には裏があった。

 オルカナは勇者の力を利用しようとしていた。自国内に勇者がいれば、その力を恐れた他国は口出しも手出しもできなくなる。そうして中立国という自国の立場を強固なものにしようと考えたのだ。

「ふむ、なるほど。筋の通った話だ」

「そうでしょうとも! やはり話の分かる御仁だ。というわけで、他の皆様も異論はありませんね?」

「しかし貴国の安全を考えると、あまり得策とは言えませんなぁ」

「どういう……ことでしょうか?」

 同意から一転して思わせぶりな発言をするペトルに、オルカナ代表は怪訝な顔で尋ねる。

「もしオルカナに勇者を移送したとして……そこで勇者が暴れ出したら、貴国は奴を止められるんですかねぇ」

「そ、それは……」

「それに……もしも勇者が貴国に攻撃を始めたら、他国の人間は手出しすることができない。何たって貴国は中立国ですからなぁ。他国の軍が領内に入って来るなんて認められんでしょう? そうなった場合、我々はオルカナが滅ぼされるのを黙って見ているしかありませんな」

「ならばその役目、我が国こそが適任であろう」

 名乗りを上げたのは軍事国家・ユガンデールの総統だった。ユガンデールもまた勇者の力を利用し、自国の軍事力を強化しようと企んでいた。

「ほぉ、これはまたずいぶんと自信がおありのようで」

「我が国の軍事力は世界でも随一だ。勇者を抑えられるのはユガンデールの他あるまい。少なくともオルカナに任せるよりは安全だろうな」

「くっ……!」

 ユガンデール総統の言葉に、オルカナ代表は悔しそうに顔を歪ませる。

「確かに『オルカナに任せるよりは安全』という点は私も同意します。しかしながら、『勇者を抑えられるのはユガンデールの他あるまい』という点に関しては、全く的外れと言わざるを得ない」

「……何だと?」

 不遜な物言いに、ユガンデール総統はペトルを睨みつけた。しかしペトルは動じることなく淡々と話を進める。

「勇者の力は強大ですからなぁ。今回の戦いで犠牲となった兵の数は皆さんもご存じのはずです。ユガンデールの兵も例外ではない。五大国の連合軍が手も足も出なかった勇者を、貴国のみでどうにかできるとは到底思えませんなぁ」

「……」

「しかしそれはベシスにも言えることではないのか?」

 黙り込むユガンデール総統に代わって口を開いたのは、フェルシュタットの皇帝だった。

「単純な軍事力で言えば、ベシスはせいぜい中ぐらいと言ったところであろう。ユガンデールに勇者を抑えられないであれば、ベシスに抑えられる道理はない。五大国の連合軍が手も足も出なかった勇者を、貴国のみでどうにかできるとは到底思えないのだが?」

 フェルシュタット皇帝はペトルの言葉をオウム返しに引用し、皮肉たっぷりに尋ねた。ペトルは薄笑いを浮かべて、肩をすくめる。

「これは痛い所を衝かれましたな。確かに軍事力で考えれば、ベシスが勇者に対抗する術はありません」

「つまりはどこの国に任せても同じということじゃろう? だったら間を取って、我がノームに……」

「しかしベシスは現に勇者を捕らえている。それも記録によると……兵に一人の犠牲も出さずに」

 漁夫の利を得ようと割って入ったノームの国王の言葉を遮るように、ペトルはきっぱりと断言する。

「あの戦いで一人の犠牲も出ていないだと?」

「馬鹿な! あり得ん!」

「出鱈目だ! そんなこと!」

「我々を黙らせるための出任せとしか思えませんね」

「……やれやれ、疑り深い連中だ」

 ペトルは各国の面々を煽るように、これ見よがしに溜め息を吐いた。

「何だ、その言い草は!」

 ユガンデール総統は不快感を露わにして、ペトルに食ってかかる。

「まぁまぁ、そういきり立たずに。信じられないと言うのなら、実際に勇者を捕らえた者に証言してもらうのが一番手っ取り早いでしょう」

 そう言ってペトルはアレンを指差して、意地悪そうにニヤリと笑った。

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