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第114話 五大国会議

「四か国」が「四国」に見えて仕方がない

 ベシス城の一室。部屋中に重苦しい淀んだ空気が漂っている。原因は部屋に集まった男たちだ。皆一様に厳めしい顔をして、長机に座している。集まったのはフェルシュタット、ノーム、オルカナ、ユガンデールの各国の君主たちだった。彼らは魔王と勇者により混乱した世界の秩序を回復するためには、各国が一丸となる必要があるという名目でベシスに会談を迫った。

 世界に魔王が現れる以前、彼らは日夜争いを繰り広げていた。ユガンデールはフェルシュタットを狙い、フェルシュタットはノームを狙った。オルカナは我関せずと中立を決め込み、ノームは迫り来る武力に対抗するために軍備を拡張していった。大国間の軋轢は周辺諸国に多大な影響を及ぼし、争いの火は世界中へと拡大していく。そんな決して友好的な関係とは言えない国同士が、こぞってベシスに会談を迫ったのはある思惑からだった。

 勇者との戦いの功労国は間違いなくベシスだろう。魔王の死と勇者の真相を暴き出したのも、勇者の仲間を倒したのも、勇者を捕らえて無力化したのも全てベシスだ(厳密に言えばそれらはフランツとアレンたちの手柄だったが、(ベシス)の面目を保つためにその事実は伏せられていた)。

 各国の兵士たちが我先に勇者を討ち取ろうと躍起になっていたのもそれが理由だ。勇者との戦いにおいて大きく出遅れた四か国の君主たちは、自国の軍に勇者を討ち取るように厳命した。勇者の首級を上げることで、大きく離されたベシスとの功績の差を埋めようと目論んだのだ。だが、その目論見は失敗に終わった。

 今回の戦いにおいて勝利に貢献した主要人物を挙げるならばクリフ、マルコ、エトン、そしてアレンの四名だろう。さらにベシス兵たちも皆、勇者を引き付けるための囮の役割を全うした。それに引き替え、四か国の兵士たちはまるでいいとこなしだった。

 またしてもベシスの活躍を許した四か国の君主たちは、激しい危機感を抱いた。ベシスは戦いでの功績を盾に、一方的な戦後処理を進めるだろう。そうなれば世界の力関係は大きくベシスに傾くことになる。何としてもベシスの一人勝ちだけは阻止しなければならない。

 魔王という脅威が現れた時でさえバラバラだった各国の利害はここに一致し、フェルシュタット、ノーム、オルカナ、ユガンデールの四つの国々は初めて一つとなった。斯くして彼らは結託し、半ば脅迫するするような形でベシスに会談を開かせた。彼の国の台頭を阻止するために。

 議論は平行線だった。ベシスは今回の出来事を全て公表し、速やかに勇者を処刑すべきと主張したが、フェルシュタット、ノーム、オルカナ、ユガンデールの四か国は事実の公表は余計な混乱を招くだけとこれに反対した。その後も四か国は悉くベシスの主張を否定した。主張を撥ねつけることで、ベシスに有利な流れを作らせないように邪魔建てしたのだ。しかしベシスもまたこれまでの功績を理由に自らの正当性を主張し、頑として譲らなかった。意地を張り合い、足を引っ張り合う。それは最早、話し合いと呼べるような代物ではなかった。

 険悪な空気と気慣れない礼服に居心地の悪さを感じながら、アレンは議論の様子ををぼんやりと眺めていた。隣では鮮やかな真っ赤なドレスに身を包んだエトンが不安そうな表情を浮かべている。各国の元首が集まり世界の行く末を決める会議の場において、二人の存在は明らかに場違いだ。

 一介の平民に過ぎない彼らがこのような場に立ち会うなど、本来であればあり得ないことだ。

 きっかけはアルフレッドだった。特別な力を持たずに知略のみで勇者一行と渡り合い、戦いを終わらせたアレンたちを、アルフレッドは高く評価していた。妹を救われた恩もある。もしも彼らがいなければ、妹のマーガレットは勇者の慰み者として生きるか、魔族のオモチャとして殺されるかのいずれかだっただろう。しかもマーガレットの命を救ったのはアレンの妹だというのだから、巡り合わせというのは皮肉なものだ。

 そしてその結果もまた皮肉なものだった。アルフレッドは無事に妹と再会を果たしたが、アレンの妹であるアニーは無惨な亡骸と化していた。その負い目から、アルフレッドはアレンとエトンの二人が会議に参加できるよう王に求めた。公の場で彼らの功績を知らしめ、栄光を讃えようという配慮だった。

 一方、王にはアレンたちの栄光を讃える気など更々なかった。王が二人の参加を認めたのは、()()()()があると判断したからだ。勇者を捕らえた張本人がいれば、その功績を材料に会議を有利に進められると考えたのだ。

 二人の参加に際して王はある条件を突きつけた。身分を偽ることだ。世の中で最も重要なのは「何をやったか」ではなく「誰がやったか」だ。勇者を捕らえたのが平民だと知られれば、その事実は不利に働く。故に王は二人に貴族であると身分を偽るように命じた。二人がめかし込んでいるのもそのためだ。いつものみすぼらしい恰好では一目で見抜かれると考えた王が、城の者に用意させたのだ。

 さらにこの会議の場にはもう一人、相応しくない人物がいた。その人物は目の前で繰り広げられている争いをさも楽しそうにニヤニヤと眺めている。

「一体、何がそんなに楽しいのだろう」とアレンは疑問を浮かべながら、会議の直前にその人物と交わしたやり取りを思い返す。


「よぉ、生きてたのか。てっきり返り討ちにされると思ってたが、悪運の強い奴だ。大人しくやられてりゃ、もう一度あの世でお仲間と会えたかもしれないのに残念だったな」

「な、何でお前がここに……」

「そりゃあ、王子様直々にお呼び建てされたんじゃ、来ないワケにはいかないだろうよ」

「……アルフレッド殿下が? 一体、何のために……」

「さぁてね。俺と専属契約でも結びたいんじゃないか? それよりも……その恰好は何だ?」

 男はそう(うそぶ)くと、アレンの服装の揶揄を始めた。

「『服に着られる』ってのは、このことだな。少しは俺を見習ったらどうだ?」

 男は見せつけるようにわざとらしく胸を張った。男もまた会議に参加するために、アレンと同じ礼服に身を包んでいる。だが、その立ち姿には雲泥の差があった。見るからに落ち着かない様子のアレンに対し、男の礼服姿はとても様になっている。

「仕事柄こういう服装には慣れてんだ。交渉事ってのはナメられたら終わりだからな。そんなんじゃ、一発で身分がバレるぜ? まっ、いくら着飾ったところでお前の田舎臭さは消せないだろうけどな!」

「……」

 男はアレンを挑発するように嘲笑ったが、反応はない。そんなアレンの様子に男は拍子抜けしたように溜め息を吐いた。

「反応なし……か。王子の言ってた通りだな。まぁいい。そろそろ時間だ、行こうぜ。国同士の話し合いか。こいつは面白いモンが見れそうだぜ」

 男はアレンを促すと、意気揚々と会議へと向かった――


 アレンが回想に耽っている間にも、()()()()は続いていた。各国は互いに意見をぶつけ合うばかりで、議論は一向に進展しない。

「このままでは結論は出そうにありませんねぇ。どうです? 本日は仕切り直しとして、また後日集まるというのは?」

 (いたずら)に時間ばかりが過ぎる中、オルカナの代表が口を開いた。長時間の不毛な言い争いによって皆が疲弊する中、その提案は実に魅力的だった。敢えて口に出して同意する者はいなかったが、明らかに空気は緩み始めた。その緩みを見逃さず、オルカナは第二の矢を放った。

「反論がないということは合意とみなしてよろしいですね? それではまた後日、日を改めてということで。公平を期すために、勇者の身柄は中立国である我が国が預かるといたしましょう」

 オルカナの代表は唐突にそう宣言した。それこそがオルカナの狙いだった。

 オルカナは中立国を自称している。世界中のどの国にも肩入れせず、誰の味方にも誰の敵にもならない。それは裏を返せば孤立無援ということになる。味方がいない以上、中立を貫くには自分を守れるだけの力が必要となる。そこでオルカナは勇者の力に目を付けた。勇者の力を抑止力として利用し、他国を牽制しようと考えたのだ。

「ふざけるな! 承諾できん!」

「勝手なことを抜かすな!」

「何の謂れがあって、勇者を貴国に移すというのだ!」

 一方的な宣言に、各国の君主は口々に不満を露わにする。

「……どうやら王子様の読み通り、俺の出番が来たようだな」

 会議が再び紛糾する中、(ペトル)は口元に笑みを浮かべながら、小さくつぶやいた。

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