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第101話 クソ野郎

100話を超えると管理ページが2ページ目に突入するんですね

あとサブタイトルに話数を入れてみました(過去分の全修正に1時間ぐらいかかった)

 晴れ渡る青空の下を馬車は走る。柔らかな日差しが降り注ぎ、様々な形の雲がゆっくりと空を流れて行く。目に映る光景は平和そのものだ。だが、荷台の中にいるロビンには外界の様子は分からない。ロビンの視界は目隠しによって遮られているからだ。

 目隠しの着用は隊長からの指示だった。曰く、今向かっている場所は今回の作戦協力者の本拠地で、勇者に居場所を知られるのは何としても避けたい。そこで所在地を知る者の数を絞ろうということらしい。情報を知る人間が少なければ、その分情報が洩れる可能性も低くなる。単純だが理に適った話だ。しかしロビンは心の中で不満気に悪態を吐く。

(言いたいことは分かるが、オレが勇者に情報を洩らすと疑ってんのかねぇ? ったく……信用ないね)

 しばらくガタガタと揺られていると、馬車がゆっくりと動きを止めた。どうやら目的地に到着したらしい。ロビンが目隠しを外して馬車を降りると、一人の女性が彼の前に姿を現した。

「……アンタは?」

「私はミーナ。あなたを連れて来るように仰せつかった者ですわ。さぁ、どうぞ。私の後へ」

 ミーナと名乗ったその女性はそう言って、自分に付いて来るように促した。ロビンは急いでミーナの後を追う。

 ミーナに案内されてたどり着いたのは、巨大な屋敷だった。巨大で絢爛な作りの豪邸に、ロビンは思わず声を上げた。

「ずいぶんと豪勢な屋敷だな。ここは一体、何なんだ?」

「詳しいことは中でお話ししますわ。どうぞ中へ」

 ミーナはロビンの質問にそう答えると、ずんずんと屋敷の中を進んでいく。彼女が足を止めたのは、簡素な作りの扉の前だった。

「ミーナです。例の方をお連れしましたわ」

 ミーナが扉をノックすると、程なくして扉が開いた。

「あ、あなたは……!?」

 ロビンは驚きの声を上げた。アルフレッドの姿を見つけたからだ。

(……王子が何故、こんなところに?)

 ロビンは驚愕しながらも、室内を見渡す。部屋の中にはアルフレッドの他に三人の男がいる。厳めしい顔をした老齢の男。鋭い目をした痩せぎすの男。そして例のあの村人。

 その瞬間、ロビンは全てを悟った。この村人の脱獄を手引きしたのが、アルフレッドであることを。しかし王子が何故、そんなことを? 

「よく来たな。話は聞いていると思うが、詳細について私から改めて話そう」

 ロビンの疑問を見抜いたように、アルフレッドが口を開いた。


「……なるほど。大体の事情は分かりました」

 アルフレッドから説明を受けたロビンは現在の状況を理解した。その上で彼は、ある質問を投げかけた。

「一つ聞きたいことがあります。勇者を騙すために身代わりを使うと言い出したのは誰なんですか?」

「俺だ」

「……そうか。アンタか」

 ロビンは名乗り出たペトルをジロリと睨んだ。睨まれたペトルは動じることもなく、親指でアレンを指しながら答える。

「最初は大人しくこいつを勇者に引き渡す案を出したんだが、激しい抗議の末に却下されちまったからな。それでこいつの身代わりを立てることになったってワケだ」

「ふーん。抗議ねぇ……」

 ロビンはそうつぶやくと、視線をアレンに移した。視線を向けられたアレンは、その中に強い疑念と不信感が込められていることに気付いた。ロビンは問う。

「死ぬのが怖いか?」

「……いいえ」

 首を振るアレンに、ロビンはさらに問う。

「怖くないってのか? だったら何で勇者に引き渡されるのを拒んだ? 死ぬのが怖くないのなら、抗議なんかする必要ないだろ?」

「……俺の目的はこの手で勇者を討つことです。奴を殺すことができるのなら、命なんか惜しくはない。俺の死によって確実に勇者が討ち果たせるのなら、命だろうが何だろうが喜んで差し出しますよ。事実、以前の俺はそう考えていました。命を懸けても惜しくない。たとえ自分が死んでも、必ず目的を果たしてくれる。そう思わせてくれる人たちがいたからです」

「『いた』……ねぇ。まるで今はいないような口振りだな」

 ロビンの指摘に、アレンはゆっくりと頷く。

「その通りです。その人たちはもういません。勇者との戦いに敗れて、命を落としました。俺はその後を託されたんです。だから俺は何としても勇者を討たなければならないんです。殺された家族の仇を取るために。託された想いに応えるために。そして……俺自身のために……。他の誰かに任せるなんてできない。この手で決着をつけない限り、俺の戦いは終わらないんです」

「ふんっ! 結局はお前自身の都合じゃないか。お前の我儘に付き合わされて死ぬ方は、たまったもんじゃない。勇者は欲望のために大勢の人間を殺してきたと聞いたが、所詮はお前も同類だな。欲望のために他人を巻き込むのと、復讐のために他人を巻き込むのにどう違いがあるって言うんだ? どっちも自分のために他人を利用するクソ野郎じゃないか!」

「……」

 ロビンは煽るようにアレンを侮蔑するが、当のアレンは表情一つ変えずに押し黙ったままだ。その態度が癪に障ったのか、ロビンはさらにアレンに突っかかる。

「おい! 聞いてるのか? 涼しい顔してすましやがって。何とか言ったらどうなんだよ? お前と勇者、どこがどう違うんだ? 言ってみろ!」

「……ありませんよ。違いなんか」

「何だと?」

 予想だにしなかった返答に、ロビンは思わず聞き返す。アレンは続ける。

「俺と勇者は何も変わりません。どちらも自分の欲望のために他者の命を利用するクソ野郎です。俺は勇者が憎い。俺から全てを奪ったあいつに復讐をしてやりたい。ただそれだけです」

「言い訳の一つでもするのかと思ったら、開き直りやがったな」

「言い訳なんかしませんよ。全て事実ですから。たとえ人殺しと罵られようとも、如何なる犠牲を払うことになっても、目的は必ず果たす。俺はそのために行動しているんです」

 アレンは決然とそう言い放った。その瞳には殺人をも厭わない仄暗い決意の炎が揺らめいていた。

「……そうかい。お前の覚悟はよく分かった。最後に一つ、確認させてくれ。その覚悟が本物かどうかをな!」

 言うが早いか、ロビンはアレンの顔を殴り飛ばした。不意を衝いた一撃はアレンの左頬を的確に捉え、アレンは後方へと吹き飛ばされた。

「きゃー!」

「な、何をする! いきなり何の真似だっ!」

 突然のロビンの蛮行にミーナは悲鳴を上げ、アルフレッドは怒声を上げた。厳めしい顔つきを貫いていたカールも目を丸くして驚きの表情を浮かべ、ペトルは事態を面白がるかのようにニヤニヤと薄笑いを浮かべている。

「痛いか? クソ野郎。だがな、オレはお前の身代わりになって殺されるんだ。二、三発殴る権利ぐらいあるはずだぜ。他人を殺す覚悟はあっても、ぶん殴られる覚悟はなかったか? だとしたら、ずいぶんと虫のいい覚悟だな」

 ロビンの挑発に、アレンは口元から流れ出る血をぐいと拭った。そしておもむろに立ち上がると、ふらふらとロビンの下へと歩み寄る。

「おっ、やる気か? いいぜ、相手になってやるよ」

「止めないか! 殴り合いなどして何になると言うのだ!? 今はこんなことをしている場合ではないだろう!」

 アルフレッドは両者の間に割って入り、諍いを収めようとした。だが、アレンはそれを拒んだ。

「……止めないでください。これは俺のケジメです。これを乗り越えなければ、俺は先には進めません」

「しかし……!」

「こいつの言う通りにしてやろうぜ、王子様。ケジメってんなら、止める方が失礼だ」

「……仕方あるまい」

 渋るアルフレッドの肩をペトルが叩く。その言葉に、アルフレッドは渋々ながらも身を引いた。

「さて、邪魔もなくなったし始めるか。どっからでもかかって来な」

 そう言うとロビンは両手を前に構え、戦闘態勢に入った。一方のアレンは両手を後ろに組むと、ロビンの前へ躍り出た。その構えは、まるで戦う姿勢ではない。これではまるで「殴ってください」と言っているようなものだ。怪訝な表情でロビンは尋ねる。

「……おい、どういうつもりだ?」

「二、三発と言わずに思う存分、気が済むまで殴ってください。あなたは命を捧げるのに、殴られるだけで済ませようなんて、虫のいい話だということは分かっています。でも……今の俺にはこうすることしかできません。お願いです。これで気が済んだら勇者を討つため、俺の我儘のために死んでください」

 アレンはロビンを真っ直ぐに見据えて言った。あまりにも真っ直ぐな言葉に面食らったロビンは、振りかざした拳をゆっくりと下ろした。

「……こうもはっきり『死ね』と言われると、いっそ清々しいな」

 ロビンは真剣な表情でそう言った後、呆れたようにふっと笑った。

 この男は自分の我儘のためにオレに死ねと言った。何とも身も蓋もない言い方だ。正義のためだの世界のためだの、いくらでも取り繕うことはできたはずだ。だが、こいつはそうはしなかった。この男は紛れもなく本心を語っている。聞こえのいい綺麗事ではなく、嘘偽りのない胸の内をぶつけてきたのだ。ここまで馬鹿正直に言われると、怒る気すら起きない。

「分かったよ。お前の我儘に付き合ってやる。まぁ、元々そのつもりで志願したんだしな。だが、無駄死にはごめんだ。必ず勇者を討つと約束してもらおうか。でないと化けて出るからな」

 ロビンはわだかまりが消えたことを示すためにおどけてみせた。そんなロビンに、アレンは申し訳なさそうに頭を下げる。アルフレッドとミーナは安堵したように溜め息を吐き、カールは元の厳めしい顔に戻った。

「何だ、面白いものが見られると思ったのにもう終わりか。とんだ期待外れだな」

 ロビンの氷解によって緊張が解ける中、ペトルだけは心底つまらなそうな顔でつぶやいた。

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