喫茶店・Chronos
「おはようございます、伊織さん。昨日はありがとうございました、服まで借りてしまって……」
白いワイシャツと黒いズボンを纏って、昨晩の部屋へ行く。
伊織さんは朝食を並べ終え、椅子に座っていた。
「おはよう、カルタシス。その服は君にあげるよ。制服のようなものでもあるしね」
「……制服、ですか?」
椅子に座り、先程の伊織さんの言葉の意味を問う。
しかし伊織さんは微笑むだけで、真意を知ることは出来なかった。
AM.10:00。太陽も昇ってきて、街は賑やかになりつつあった。
「伊織さーん、どこにいますかー?」
これからのことを聴きたくて、伊織さんのもとへ向かう。しかし、その姿は見当たらない。
仕事かな、と思いつつも最後の部屋となる緑色の扉を開ける。
「わぁ……!」
目の前にひろがった光景に思わず声をあげる。新鮮なコーヒーの香りが鼻孔をくすぐった。
喫茶店だった。カウンターには、白いブラウスに黒いスカートを纏った伊織さんが立っている。
「お、やっと来たね。待ちくたびれたよ、カルタシス」
おいで、と手招きをされカウンターに向かう。棚には、何種類ものコーヒー豆とカップが並んでいた。
「うん、似合ってる。カルタシス、今日から君は喫茶店・Chronosの従業員だ」
ぽん、と頭に手を乗せて、「よろしく」と言う伊織さん。
「え……?あ、はい」
突然言われたその言葉に、曖昧な反応しかできなかった。
「何で頭に手を乗せてるんですか?」
「んー、乗せやすそうだったから」
良い笑顔で言う伊織さん。
「あの子、これから大変そうね」
小さく呟く。少年が振り返った。耳が良いのだろうか。
私は気づかないフリをして、淹れてもらったばかりのカプチーノを啜った。