晩御飯
扉の先は、白と黒を基調とした部屋だった。
真ん中に置いてある食卓にはオムライスとサラダが並んでいる。
あの人は既に椅子に座っていた。「座りな」と言われ僕は、反対側の椅子に座る。
誰かと一緒に食卓を囲む、なんてことは初めてでちょっとだけ緊張する。
「いただきます」
その人は手を合わせて静かに言った。僕も真似をした。
オムライスの端をスプーンで掬い、口に運ぶ。
口に入れた瞬間にとろける卵と程よい味付けのチキンライスが舌を刺激した。
「美味しそうに食べるんだね。私は伊織。少年の名前は?」
美味しさのあまり、ころころと表情を変える僕を見て問いかけるその人。
「……今までいた場所では、サクリファイスと呼ばれていました。これが本当の名前かはわかりませんが」
スプーンを持つ手を止めその人、伊織さんを見る。彼女は一瞬顔を歪めた。しかし、すぐに笑顔になり、
「今から君はカルタシスだ。よろしくな」と僕に告げた。その言葉は今までの言葉で一番嬉しいものだった。
「はいっ!」
僕は満面の笑みで答える。心なしか伊織さんも嬉しそうに見えた。
AM0:00。暗闇が帝国を包み込んだ。疲れが溜まっていたのだろう。
カルタシスはベッドで眠りについている。
「サクリファイス……生贄か……。あの子は、今までの穢れを浄化しなくてはならないなぁ。
肉体的にも、精神的にも……。そうだろう? 姉さん」
空に輝く壱等星に向かって呟く。仮面に隠された本音は、暗闇に搔き消された。