お針子9
「なんなら私もいようか」
「え」
「いや、言いがかりをつけられた時とか剣の腕がたつものがいた方がいいだろう」
とっても頼もしいことを言ってくれているけれど、フランはお客様になにがしたいんだろう。
「フラン。護衛騎士のくせに何をするつもり」
アイロンが温まるのを待つ間、レースの網目をチェックする。
少し凝った編み方にしたせいか、いつもより少し重く感じる。
デザイン重視にするとドレスが重くなるし、レースやフリルを減らすと貧相に見えるから兼ね合いが難しい。
「護衛?」
私の質問に首を傾げ、フランは的外れなことを言う。
「護衛って町の仕立て屋に護衛の必要はありません。お城の護衛がこんな店の入り口に立ってたら営業妨害でしょ」
「あはは。そうだよな」
今気が付いたと言わんばかりの笑い方に、ファルシオさんと二人顔を見合わせ笑出だす。
フランってもう少しお堅い感じがしていたのに、最近はちょっと感じが違う。
仕事の雰囲気がいいのかな。愚痴を言わなくなった。
貴族の中で庶民が働くのは大変らしい。上司が貴族にあらずば人間にあらずなタイプだと仕事をしにいっているのか嫌味を聞きに行っているか分からなくなると嘆いていたお客様がいたけどフランの職場だってきっと似たようなものだ。
「フラン、最近仕事の調子はどうなの」
以前の仕事場は嫌味な同僚がいて苦労していたけれど、今はどうなんだろう。
温まったアイロンをドレスに当てながらフランに尋ねる。
「調子ってそうだな、悪くないよ」
「聖女様の護衛なんでしょ」
半年ほど前この王都に聖女様が降臨された。
この世界の神様はイシュル神という神様を信仰している人が多くてグロリオーサの王族が信仰しているのもイシュル神だ。
お城の敷地内にはイシュル神を祀った神殿があるし、王都にも何か所か教会がある。
そのイシュル神様のお使いという聖女様がある日お城に現れ、神託の巫女姫がイシュル神の神託を受けた。
闇の王子の傍に聖女が寄り添い国に明るい光をもたらす。
その神託通りというか、グロリオーサに幸福をもたらす聖女様が来てからというもの天候が落ち着いて、魔獣の被害も少なく豊作になっているという話だから聖女様は本当にイシュル神様の使いなのだろう。
「ああ。聖女様付きだ」
その聖女様の護衛をしているのが私の幼馴染だというのだから、驚きだ。
「聖女様ってどんな方なんですか」
興味深々といった感じでファルシオさんが話に乗ってきた。
どんな方なのか私も凄く気になる、気になりすぎてアイロン掛けの手が止まってしまった。
いけないいけない、ファルシオさんは話をしていても、レース編みの手は止まらないから流石だ。
「そうだなあ。一言で言えば癒しかな」
「癒し」
仕上げアイロンに集中しながら聖女様のお姿を想像する。
庶民の私はきっと聖女様のお姿を見る機会なんかないけれど、想像するのは自由だ。
癒しの聖女様。なんだか、素敵な響きだ。
きっととても綺麗な、宗教画から抜け出した天使みたいな人なんだろうなあ。




